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黄昏鰤 第56話 (100日目特別記念編)

100日目 「黄昏鰤スペシャル放送 ~卒業~」

「ッギャあああ!!」

 狂乱したおれはなりふりかまわず廊下へ飛び出した。そこを竜が前足で引っつかんだ。待ち伏せされていたらしい! 開いたドアから教室へ乱暴に投げ入れられ、机と椅子を吹き飛ばして転がる。「いってえ!!」竜は引き戸をぶち破って教室へ顔を突っ込んできた。

「お前のせいだ馬鹿!!!」激昂しながら、おれは近くにあった椅子を竜の顔面に投げつけた。

「がおー!」竜は大口を開けてむしゃりとそれを食べてしまった。

「なんだって!? これならどうだ!」

「がおーっ!」机も食べられてしまう。教卓も駄目だ。電子オルガンも駄目だ。

「くっ……教室にあるものはみな食べられてしまった……奴の胃はどうなっているんだ……」

 しかし、そのぶん竜は腹が出てしまい、入口につっかえて教室に入ってこられないようだ。これは……チャンスだ!「やーい馬鹿!ずっと挟まってろ!」おれは逆側の出入り口から廊下へ出た!

「がおっ!がおっ!」

「実に馬鹿な奴だ、わざわざ教室を経由しておれを追おうとしている。よし、今のうちに奴を倒せる武器を探さなくては」おれは学校中を駆けた。「ノコギリ……違うな。ドリル。いまいち。六法全書……悪くないが……」おれはひたすら駆けた。

「がおおー!!」

 屋上についたとき、床をぶち抜いて竜が飛び上がってきた! 腹がさらに膨れている!

「なんだって!? そうか、自分が挟まった壁を食ってきたのか! なんてやつだ! 醜い姿だぜ!」

 そう叫びつつ、おれは学校を駆けずり回り見つけたその武器を……背後から取り出した!「がおっ……!?」それは……

「グランドピアノだと!?」

「知っているのか猪!」

「ああ……かつてあの楽器で彼は竜を屠ったこともある、だが今の肥えに肥えたあの竜に再び同じ打撃が通用するとは思えねえぜ!」

「じゃあどうするってんだ!? この白衣の俺でもわからねえ!」

 おれは椅子に座り、ピアノの蓋を開けた。

「二人とも、何言ってるんだ。ピアノは……引くものさ!」おれは鍵盤を叩く!

「がおおおーっ!?」

「こ、このメロディは!?」

「知っているのか猪!」

「卒業式だ! 卒業式で流れるあれだ!」

「『主よ、人の望みの喜びよ』だぜ……!」

「なんて……なんて胸に迫る演奏だ……!」猪は口を押さえた! その隣で白衣の少年は号泣!

「まるで3年間を過ごしたこの校舎とお別れする気分だぜ……」

「がおお……がおおーっ!」竜も黄昏の空に向かって吼える! 天も咽び泣く哀愁の声だ!

「卒業生起立!」おれは叫んだ! 声につられて竜がびしっと起立する!

「今まで3年間、たくさんのことをこの学校で学んだことと思う。つらいこと、苦しいこともあったと思う。しかし、それをどうか忘れないでほしい。他の何にも替えられない、君だけが歩んだ3年間だ……」竜は懸命に涙をこらえている。演奏は佳境だ!

「そして君たちは今、巣立ちの時を迎えた!」白衣の少年が声を上げて泣いた!「今日からが本当の始まりだ!」猪は男泣きだ!

「おめでとう! おめでとう! それでは一同!」

 ダン、と鍵盤を叩き終える。

「礼!!」深く頭を下げた竜の涙が、残像のように宙に舞った。


「心より祝うぜ! この世からの卒業をなァァァァァァァァァ!!!」

 おれは深く礼をした竜の頭にグランドピアノを振り下ろした。勢い余って屋上から地上階まで床をぶち抜き、断末魔とともに爆散する竜を背に、学校から出た。


【魂16/力13/探索2】
『猫目、角、火玉、竜尾、鬼腕』『名前前半喪失』『感情:楽喪失』

(つづく)

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