黄昏鰤 第41話

79日目 「毛玉!以上です」

 今日は細い路地を歩いていたら、目の前の塀が崩れて、明るい茶色の毛皮に覆われた怪物が出てきた。角が5本も生えている。それをかいくぐっておれの角を刺したらすぐに動かなくなった。毛で嵩増しされていたが、わりと小さいやつだったらしい。触るとそんなに柔らかくなかった。
 怪物の死体を踏み越えてまた進んだ。猫は見当たらない。


80日目 「報復!あんたもまあ大きくなって」

 高い草の生い茂る空き地を通りかかった。小さな物音と、気配がする。
 猫かもしれない、と思ってしまって、草をかき分け進んでみる。猫ではなかった。近づくおれに気がついたらしく、寝転んでいた男は体を起こした。痩躯は妙に高く、2mはありそうだ。野球帽を目深に被っている。つばに隠れて顔は半分隠れているが、口元が笑うのが見えた。

「……おはよう。君、前にも会った?」

「あー……」

 男は立ち上がる。やはり背が高い。隠れていた目元も見えるようになり、おれはその顔に確かな見覚えを感じた。以前、街で会った……
 おれが気がついたことに、彼が気がついたのかは定かではない。しかし急くように話を切り上げた。

「まあいい。旨いものは何度でも食べたいもんさ。今度はちゃんとね!」

 にやりと笑った口の中、尖った全ての歯がギラリと光る。素早くおれの胸ぐらを掴む。首元へ牙が迫った。

「ガッ、あ?」

 牙が止まる。口いっぱいにおれの右手を頬張っている。咄嗟に突っ込んだ黒く凶悪な右手に力を込めて、おれは男の下顎を引きちぎった。呆然としている男の顔に竜尾を思い切り叩き込む。痩躯は吹っ飛び、空き地にあった建材の山へ突っ込んだ。男は動かなくなった。
 近寄ってみる。長い手足が材木や波打つトタン板の下から覗いている。おれは右手に刺さり噛み付いたままの下顎をはがして、隣へ投げ捨てた。影のような右手は傷を飲み込んで、何事もなかったかのように滑らかだ。黄金の光がいつものように表面を走る。意味もなく、はみ出ていた青年の脚を建材の下へ収めて、おれは空き地を後にした。


【魂14/力12/探索3】『獣耳、角、火玉、竜尾、鬼腕』

(つづく)

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