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黄昏鰤 第53話

94日目 「火葬!放火少年団の暴虐」

 ひとしきり黒い獅子の肉球を揉み倒したあと、アーケード街を抜けた。半透明の屋根が途切れた交差点に差し掛かったとき、突然ばしゃりと液体が掛けられた。……何度目だ?

「化け物、化け物」「よく燃えろ」

 振り仰げば、見たことのある少年たちが屋根の上から顔をのぞかせている。「えい」一人が手に持ったマッチを投げた。
 火がついているそれは黄昏の陽光に溶けながらおれ目掛けて落ちてくる。さっき撒かれた油に着く前に、おれの左目から出た火玉がぱくりとマッチを食いとった。

「こら」おれが叫ぶと、少年たちは笑いながら屋根を走り去った。

「やっぱ駄目だ」「駄目じゃないか」「絶対また燃やしてやるぞ」

 どたんどたんと足音だけが残る。おれはしばらく突っ立ったあと、アーケード街に引き返した。油まみれの服の代わりを調達せねば。毎度毎度、迷惑な子らである。歩きながらシャツを脱ぎ捨てた。

 戻った道の先で、何かが激しく熱と光を撒き散らしているのが見えた。
 暗い煙が、屋根の穴から空へ抜けていく。酷い臭いが道に散らばる。黒い獅子の遺骸が、咆哮するように、燃えていた。


95日目 「迷走!貧すれば鈍する」

 炎を見つめていたら、不意に猛烈な渇きを感じた。水が飲みたい。
 服の代わりを探すことも忘れて、おれはアーケード街を飛び出した。すぐ隣に木に囲われた公園があった。水飲み場が広場を突っ切った先に見える。おれは駆けた。
 あと数歩というところで、何かに背を打たれた。当惑しているうちに、さらに何かがぶつかってくる。衝撃に倒れたおれの脚を誰かが斬りつけた。尾を振って暴れながら周りを見れば、人間たちが武器を手におれを取り囲んでいる。がつん、と鉄材が額に叩き込まれて、視界が真っ赤になった。

 水が飲みたい。力が出ない。特に抵抗する間もなく、死んだ。


【魂17/力13/探索2】『猫目、角、火玉、竜尾、鬼腕』『名前前半喪失』

(つづく)

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