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愉快と不穏が描きたい

 自分のつくるエンターテイメントの原点ってなんなんだろうってボンヤリ考えていたのだが、たぶん『ラーメンズのコント』がその結論であるだろうと答えを得た。

 かつて思春期まっさかり、ラーメンズという……芸人? 役者? コント屋? の二人を兄経由で知り、兄の持っていたDVDをそれこそ毎日毎日毎日学校から帰ったら観てばかりいた。一番最初に見たのが「ALICE」で、そこから「TEXT」とか「CLASSIC」もすごい観てもっと遡って「椿」「鯨」あたりも観て「home」とか「零の箱式」も観て新しく兄が買ってきた「TOWER」も観てとにかく家にあるやつは日替わりで全部観た。KKPシリーズも観た。毎日毎日毎日毎日毎日観た。大好きだ!

 ラーメンズの話じゃなくて私の話の記事なので、ラーメンズについては大幅に説明を省く。YouTube公式チャンネルにぜんぶアップロードされているすごい時代なので、もはやぜんぶタダで観れたりするからすごい時代だ。

 で、私の話なのだが、まず私のつくるエンターテイメントって基本「漫画」だ。
 漫画……だが、漫画を描くときに頭の中に何を浮かべているかっていうと、ラーメンズみたいなコントなのだ! 会話劇! 声を聞いている!
 映画を浮かべて小説を書く人も世にはいると思うが、私のエンターテイメントは頭に浮かんだコントを漫画に起こしている作業である。

 漫画が好きだ。絵とセリフと、さらにコマ割りがあって、「時間」や「間」というものを紙の上に載せられる。これがね!? これが最高に楽しくて漫画! 脳内コントで流れているセリフとセリフの間隔がフキダシの位置を調整すれば再現できる! 黙っている時間の長さがコマの大きさやコマの中の人物の大きさで表現できる! 実在の人間を動かして演技してもらう方法は詳しくないが漫画なら全部自分で座って描ける! サイコーだぜ~!!

 それと、ラーメンズのコントは基本『どこかのふたりが交わしている会話』という寸劇調のもので、あくまで彼ら(役)の世界には彼らだけだ。他の人に聞かせて笑わせようという漫才ではなく、日常の会話をしているだけで、でも外側から見るとおかしくってしょうがない。そういうギャグの気風、愉快さの概念も私に根付いてしまっていると思う。


 で、そうやって笑える掛け合いを描くことに私はいつもウフウフしているが、もう一つとてもとても好きなことがあって、その説明のためにまず思春期の私に超ワクワクとゾワゾワをもたらしてくれたラーメンズのコントのひとつ、公演『ATOM』より「採集」を紹介しよう。


 ラーメンズのコントは先述したとおり『どこかのふたりが交わしている会話』、そしてその多くは奇妙な状況とアホなやりとりで我々を笑わせてくれるものだ。
 この「採集」は……そういう愉快なコントの中でばったり出くわしたこの劇は、中盤以降、全力投球で”不穏”をぶつけてくるすごいやつで、す……すごいびっくりしたのだ思春期の私は!

 ひとり残った男、徐々に消えゆく楽しい気分、絡み付いてくる危機の伏線、体育館に響く独り言、不信と焦燥と「そんなわけないさ」という虚勢、終盤の空気の乱高下、もう、好きだ~~~~~!! そう! これ! 私これが好きなんだよ~~~~~~~!


 はい。このコントに魅せられた結果、私は漫画で"不穏"の空気に一点直下したり、不穏さが限界値を超えて爆発したり、そういうのを描くのがもうメチャクチャ好きである。今日さっき思い出した、原点。これだったー。


 小林さんの演技は、一人で歩いてしゃべるだけなのに何がどうなってあんな不穏なエーテルで舞台の上を塗りつぶせるのか全然わからない。まだ分析できないし、できたとしても私にはそんな演技はできない。私の脳内で流れる自分の作品のコントでもキャラたちが何をどうやって不穏さを出しているのか全然わからない。
 わかっていないのだが、勝手に脳内で流れているので、なんとかそれをそのまま漫画という媒体に起こして、なるべくパワフルに不穏をお届けしたい。そう思う日々だ。声色、姿勢、目線、表情、あとやっぱりセリフの間の取り方……なの……か? ああもっと不穏が描きたい。不穏描くの楽しい。めっちゃ描きたい。

 とはいえ、やっぱエンタメなので楽しませることもいっぱい描きたい。
 そこんとこのバランスも、かつて観たラーメンズのDVDに倣っている、つもりです。

 青かったな……。俺たちも。炎も。

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