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いつもの町がもっと面白くなる。プロに聞くまち歩きの魅力。

チーム3_盛(さかり):山川 幸子

元旅行会社の私も知らない京都

「京都」という町は、以前旅行会社に勤めていた私にとっては一番人気の観光地です。古い町並みや、清水寺・高台寺のライトアップ、通天紅葉が見事な東福寺、竹林の美しい嵐山。京都の観光名所が、「そうだ、京都行こう」とCMの中で流れる度に、勝手にツアーが売れてくれる稼ぎ頭というイメージでした。

そんな京都で今回出会ったのは、その町に住み、熱い想いを持った人たち。ガイドブックに載っていない自分の知らない京都を教わりました。何度も訪れていた場所なのに、私はこれまでずっと京都の外枠だけを見ていたのです。

 

今回、私がこのプログラムに参加した目的は、自分の価値観を見直し、既成概念にとらわれない発想をしたいということ。くじ引きで偶然にも「まいまい京都」代表の以倉さんにインタービューをさせていただくことになり、また、実際にフィールドワークでまち歩きをしていく中で、私の中の「観光」の既成概念が全く変わりました。

そこには人間ドラマがあり、この人間ドラマこそ、今までみていた外枠の「中身」と言えるものでしょう。

それを知ると同じ町並みも全く違う景色に見えてきます。今まで通り過ぎていた古い建物や、形を変えていく伝統工芸品にも一つ一つ何か意味があり、その何かを知ることで、想いを体感する。今まで見えていなかったモノが見えることで探求心が生まれ、視点を変えるだけで面白くなるのです。

観光は面白くない。人が面白い

「まいまい京都」流まち歩き

京都を新天地に選んだ以倉さんが、ここでなにか面白いことをしたいからという理由で始めた「まいまい京都」は、各分野のスペシャリストがガイドを行う人気のまち歩きツアーです。一般的に「旅行」と言えば、ホテルやレストラン、交通等を最初に思い浮かべますが、以倉さんの言葉で言うとそれは「まわり」だけ。つまり、一般的な「観光」は「中身」がないので面白くないのです。

以倉さんがツアーを企画する時に最初に探すのは、「観光地」でも「美味しい食べ物」でもなく、「人」なのだそうです。

私が前職でツアーを企画していた頃、最初に探すネタは観光地・ご当地料理・工芸品などでした。通常のツアーに飽きたリピーター向けに、お城で歴史を学ぶツアー、プロの写真家と花の撮影を楽しむツアー、山岳ガイドと日本百名山を登るツアー等、各旅行会社も他社との差別化を図り、工夫を凝らしたツアーを販売していますが、まいまい京都のまち歩きツアーはガイドする「人」が一番の魅力です。

有名な観光地で、ボランティアガイドさんが団体ツアー客に説明している姿をよく目にしますが、ツアー客はほとんど聞いていないことも多いのが実情です。ところが、まいまい京都ツアーの魅力は、その個性豊かな癖のあるガイドさん達のトークなのです。

ガイドさんの職業はバラバラ。建築士・考古学者・庭師・和菓子職人・お坊さん。そして驚いたのが廃線マニアや、普通の主婦。地元の人が、地元ネタを教えてくれるから観光目線ではない視点でまち歩きを楽しめます。

任天堂旧本社の内部見学ツアーは、
定員18名に対し約500名の申込があった。
今はホテルとなっていて見学は宿泊者のみ可能。
ホテル「丸福樓(まるふくろう)」

これからは旅の目的が「中身」になる

ただ、面白さというのは基準が人によって違うため点数には出来ないし、面白い人は大量生産できないもの。需要があるかどうかも実際にやってみないと分からないのです。例えヒット商品が生まれても、ガイドさんの都合によっては何度もツアーを開催できない場合もあります。

そんな難しさもありますが、以倉さんは「人」にこだわります。その理由は、面白いのは「人」だと知っているから。リピーターの多いまいまい京都では、永遠に違うツアーを作り続けなければなりません。でも、ネタ切れにはならないと以倉さんは言います。
京都はまだまだ面白い人がいるのだから!

まいまい京都が提供しているのは、旅の目的となる「中身」でした。地元主婦からマニアックな街グルメを楽しむのもよし。大工さんから建築の技術を学んだり、伝統工芸に隠された秘密を知ったり。

地元の人が、観光ガイドブックに載っていない地元ならではのネタを提供するから、ツアーに参加した人の視点が変わり、面白く感じるようになるのです。「まいまい京都」が旅の目的となり、ツアーを予約したから、交通や宿泊をするという人が今後も増えていくことでしょう。

「まいまい京都」のWebサイト


視点を変えると面白い!

京都の古い街並みがなぜ保たれているのか。伝統工芸品が形を変えてどのように継承されているのか。なぜ人は古いモノを次の世代へ残すのか・・・以倉さんのお話を聞いて、改めて京都という街に興味が湧き、そんな事を考えながらまち歩きをしてみました。

【oud.】
狭い路地を進むとひっそりと現れる、清水焼の工房を改築したお洒落なセレクトショップ。

煤で黒くなった壁や、30年前まで使用されていたというろくろ場など当時の姿をあえて残している店内が印象的。

お客さんは物を買いに来るのではなく、この場所を体験しに来るのです。お客様と話をすることで何かしらの関係性が生まれ、商品に関しても話をしているうちに「これいいな」と思っていただけて買い物につながるのだとか。

そんな店長の岡部さんの人柄が表れるような優しい店内は、古さと新しさが調和しています。傷んでいる箇所だけを直し、古いモノの価値を見直し、残したいモノを残した店舗。岡部さんから広がる絆で人が集う場所でした。

【開化堂】
日本で一番古い茶筒屋さんを覗いてみました。店内には、美しい光沢を放つ様々な素材(銅・ブリキ・真鍮)の茶筒が並んでいます。

創業明治8年。100年前の茶筒の修理も受けられる茶筒屋さんです。茶筒は触り心地がとても気持ちよく、蓋を上に置いただけで、スーっと滑らかに閉まります。この職人技を習得するまで10年かかるそうです。

歴史ある伝統工芸品も進化しています。茶筒なのに店内には中身がパスタやコーヒーが入っている茶筒が並んでいました。時代と共に顧客ニーズに合わせて伝統工芸品も進化しているのです。100年後も日用使いできる伝統工芸品。
世代を超えて共有してきた強い使命感みたいなものを商品から感じました。

【サウナの梅湯】
高瀬川沿いに南へ歩いていくと、明治時代に建てられたレトロな銭湯が現れました。

廃業寸前だったところを銭湯好きの若者が経営を引継いだと知り、中を見たくなりました。大きな「ゆ」文字の暖簾をくぐって店内に入ると、ごちゃごちゃした昔ながらの受付に若いスタッフが。

平日午後3時の時間帯にもかかわらずお客さんが入ってきます。一人の熱い想いを持った若者によって、地元住人に愛される銭湯は守られたのだと分かると、古さも愛おしく見えてきます。

【HAPS】
一見、普通の古い住宅のような建物はHAPSの事務所です。
お仕事中にも関わらず職員の岡さんが出迎えてくれました。

京都市からの委託を受け、若手芸術家の居住・制作・発表の場を紹介し、支援を行う社団法人。京都市が若手アーティストをお金をかけて育てているという珍しい取り組みです。事務所一階の入り口がギャラリーとなっていて、夜中も作品を照らすことで、通行人の目に留まるのだとか。

飲み帰りのサラリーマンが足を止めて芸術作品を見ることもあるそうです。昼間だと気づかないのですが、そういった話を聞くことでこのギャラリーの夜の風景が想像できます。まさに京都が目指す、「芸術・美術が多くの人に見られ、共有されている街」がここにありました。

クリエイターのはがさん(左)とHAPSの岡さん(右)

探究心を持って街を歩き、視点を変えて見ることで、それまで気づかなかった面白さが感じられるようになります。京都の伝統産業や古い建物が時代の流れと共に進化し、形を変えて残るものもあれば、そのままの形でアーティストらによって価値が生まれることもある。また、古くから伝わってきたものを残したいという強い想いが人から人へ受け継がれていく。そんな背景を少し知っただけで、京都がまた好きになりました。

足場発見!思わず皆の足が止まる・・・


チームメンバー紹介

チーム盛

笠原 翔 [ASNOVA] / 山川 幸子 [ASNOVA]
はが みちこ [クリエイター] / 大石 果林 [ロフトワーク]

笠原さん
モノマネが得意&YouTuberという最初のイメージとは真逆で、実は真面目で誠実な営業マン。

はがさん
まいまい京都でガイドができるのではないか、と思うほど知識が豊富。
説明も上手で一緒に歩いているだけでまちの景色が変わる。

大石さん
若いのに細かいところにも気が利く優しい人。
版画アーティストの顔ももつ。


クリエイター:はがさんからコメント

※チームに参加したクリエイターから、ASNOVA参加者からの依頼をもとに、プログラムの最終日にコメントをいただきました。

前へ進んでいく仕事人
AMP!のプログラムへの参加中にも、ひっきりなしにお仕事の連絡が入る山川さんは、職場でとても頼りにされていて、真面目で責任感の強い方なのだろうなと感じました。ご自身では「事務職です」と遠慮気味におっしゃっていたけれど、キビキビしたお電話口は、まさに仕事人!という様子で格好良かったのです。その一方で、リサーチで目を輝かせながらお話を聞いておられる時などには、わくわくとした好奇心が全身に表れているかのようでした。

やはり盛り上がったのは、山川さんの記事の中でも大きく取り上げられている「まいまい京都」の以倉さんへのインタビューです。現在のASNOVAでのお仕事に転職される前に、旅行会社に勤務されていた山川さんは、「まいまい京都」の企画が旅行業界の中でどれだけ特殊な内容であるか、ご自身の経験を元に実感されながら聞き取りをされていました。そして、インタビューと同時進行で「自分が企画したツアーが売れなかった要因は何か」という、山川さんの過去のお仕事の自己分析が始まっていく展開は、まるで以倉さんと山川さんの対談のように、別々のストーリーが立ち上がってくるとても興味深い内容でした。

転職をした場合、昔の仕事の失敗は無かったことにして、「自分はこんなことを成し遂げたんだから」と成功の方を美化して記憶してしまいがちのような気がします。山川さんは、昔のお仕事にも責任を負っておられるのだなと感心しながらお聞きしました。昔のお仕事と今のお仕事が、異業種であっても断絶することなくご自身の中で一本に繋がっている証だと思います。失敗からも多くのことを吸収し、常に前進していこうという人としての生き方や姿勢のようなものを教えていただいた気がします。

そんな山川さんが、足場業界のフィールドでどんな次なるストーリーを紡いでいかれるのか、とても楽しみに応援しております。


関連資料

oud.

開化堂

サウナの梅湯

HAPS
http://haps-kyoto.com/