人の面白さと繋がりの可能性
全ての事柄は「人」に繋がる
「人」は「面白い」を求めている
私は自分自身を他人に紹介するときに「面白い人」だと紹介している。人によってはつまらないと思われるかもしれないが、私は人を笑わせることが好きでモノマネや一発ギャグ等、いわゆる芸的な事で面白いと感じてもらえているようだ。
人はそれぞれ”面白い”と思える観点が異なると思う。例えば私のように芸事が面白いと思う人もいれば、話し方(話術)が面白いと思う人もいるだろうし、さらにはその人の生き様が面白いと思う人もいるだろう。
このように私は”面白い”とは単に芸事が面白いだけではなく、その人の持つ知識や経験、存在そのものを指していると考えていて、それは別の言い方をすれば ”楽しい”、 “価値観が合う”、 “ワクワクする” といったポジティブな意味合いをもつ言葉にも置き換わる。そしてこの ”面白い” という感覚が今の世の中には大切だと感じている。
今回の研修プログラムで私が一番感じた事は「人」こそが面白さのカギであるという事だ。
京都市勧業館「みやこめっせ」を訪問したり、京都を街歩きしたりして様々な伝統産業や作品を見学した。そこで見たものは「物」であったが、それを深掘り・追及していくと「人」に繋がると感じた。
例えば、みやこめっせでは長年変化をしながら継承されている技術や、それを後世にも残したいという「人」の気持ちや想いを感じた。
街歩きで訪問した河井寛次郎記念館では、単に作品だけではなく実際に作品を作っていた登り窯を見て当時の生活感などの作家としての「人」を感じることができた。また、色んな方々のインタビューやお話を聞かせていただいて、やはりそこでも「人」が重要なポイントになっていた。
近年ではコロナショックで人との関わり方や、多様性の時代で様々な人の考え方を認めることが注目されているが、結局は「人」がポイントになっている。
私が好きな元プロ野球選手のイチローさんが、こんな名言を残している。
一字一句同じ言葉でも、面白い人が言うのか、面白くない人が言うのかで受け取る側の感じ方が変わる。
いかに「人」としての存在価値を高めていくかが重要であり、それはつまりいかに面白く生きていくかが大切になってくるという事ではないか。
「人」と「物」の関係性
京都のインテリアショップ「oud.」さんを訪問
街歩き中に「oud.」さんというインテリアショップを訪問した。ここは大正時代に建てられた清水焼の工房だった建物を改装し、古物(家具・道具)や作家さんの作品(器や洋服)などを販売している。外観には看板など無く、一見すると何のお店かは分からない。しかし、中に入るとそこには当時の工房の名残や古い建物ならではの味わいと、新しくリノベーションされ光に満ちた開放感と心地よさを感じる独特の空間が広がっている。
店主の岡部成幸さんに、施工前の写真を見せてもらいどういった経緯でこの店が完成したのかを聞いたのち、商品についても説明してもらった。中でも印象的だったのは「球」というラベルがつけられて、劣化した色々な球が販売されていた事だ。言い方は悪いが言わばゴミなのに、それでも価値を見出して購入する人がいるという事だ。
この一風変わったインテリアショップで、岡部さんに疑問を投げかけた。
どちらかと言えば一般向けより業務用で来られる方が多いようだ。
オープン当初は友人やその知人が多かったのが、徐々に人間関係の繋がりで色んな人が来店されるようになったという。
私が感じたのは、”単に物を売っているというより、今後に繋がる人間の関係性に魅力を感じて商売をされている”という事だ。例えば、物を売るだけならお金を持った人に適当に購入してもらうと経営的には良いのかもしれないが、しかしそれではあまり楽しくはない。
それよりも商品の事について色々と話をしたり、このお店を気に入ってくれた人の紹介でまた新しい方が来店されたりする方が面白いと思う。
と岡部さんは言う。商品ではなく「場」を提供しているのだ。
展示する商品選びでも重要視している事があるそうだ。
つまり「物」だけ良くてもダメで「人」だけ良くてもダメ、「物」と「人」が持つ良さが繋がり、掛け合わさるとより大きなパワーを生み出すと言うのだ。
「人」が持つ力
視点が変わると面白くないものも面白くなる
600人以上の各分野のスペシャリストがそれぞれ独自の視点でガイドする京都のミニツアー「まいまい京都」代表の以倉敬之さんにインタビューさせていただいた時、以倉さんが仰った「ただ名所を訪ねるだけの観光は面白くない。人が面白いから街も面白い」という言葉に衝撃を受けた。
これは言い換えれば「”人”が面白いから”物”も面白くなる」という事になると思う。岡部さんのお話では人と物の両方が良くなければダメであったが、以倉さんのこの言葉からも、確かに人の持つ力が「面白さ」に影響を与えるのだと実感させられた。
私は、 ”物” そのものはどこまでいっても変化しないと思う。例えば美術品を鑑賞したりBARでお酒を飲むとしよう。作品やお酒はそこに存在するだけであり、それをどう感じるか・面白く出来るかは “人” の力だと思う。「みやこめっせ」では山崎伸吾さん、街歩きでは、はがみちこさんの解説を聞きながら作品を鑑賞する事で、より面白く”物”を見る事が出来た。私の行きつけのBARでは、バーテンダーの解説や美味しさを共に共感できる事で、同じお酒を家で飲むのとは違ってお酒を面白く感じる事が出来る。
「oud.」で販売されていた「球」もその例のひとつだと思う。
これはまさに “人” の持つ力が “物” の価値を高めている、と言えるだろう。そして、他人から貰う力だけでなく、自分自身の持つ力によっても変わるものだと思う。どういうことかと言うと、自分自身で何も考えずに物を見るのと「これはどんな物なのだろうか?」、「この部分が面白いな」と思考しながら物を見るのとでは感じ方が違うのだ。
“物” は変化できなくても “人” は変化できる。つまり、視点や考え方が変わると面白くないものでも面白く感じる事ができ、それには “他者の面白さ” が大きくかかわってくると思う。他者の面白さから刺激を受けて面白さに共感すると個人では実現できないような力を生み出すことができる。
私が今回の研修プログラムで感じた ”人” と ”面白さ” は、今を生きるための力にとても重要だと感じた。結局「人」は ”面白さ” を求めており、「物」も「人」の力で ”面白く” なる。そして個人一人一人の持つ力では実現できない事も、多くの人が関わり繋がっていく事で物凄く大きな力を生み出すことが出来る。そう、「全ての事柄は人に繋がる」のだ。
私は元々面白い事が好きで、人生も面白く生きていたつもりだが、今回の研修でより人生に面白さが増し成長したと感じている。
もし今、仕事やプライベートで面白くないと感じている人がいれば、人の持つ力で新たな発見・気付きを感じ、自身の力に繋げてほしいと思う。
チームメンバー紹介
クリエイター:はがさんよりコメント
面白さを追求する生粋の芸人
Youtuberでモノマネが得意な笠原さんは、きっと普段から賑やかでパワフルな芸人さんみたいな方なのかなと想像していました。私はのんびりしているし、京都に長く住んでいる割にはちっともノリツッコミが身につかないので、ノリについていけるかしらと、実はちょっぴり心配しながらチームに参加したのです。実際にお会いしてみると、笠原さんは物静かでとても落ち着いた方なので、そのギャップに驚きました。(面白いお笑い芸人さんも舞台の裏側では寡黙な人、というのもよく聞く話ですし、そちらの方が本物の芸人さんっぽいかもしれませんね。)
よくよく熟考しながら、少しずつお話してくださる様子には、表面的ではない、内に秘めている情熱の一端が垣間見える気がします。
そんな笠原さんが、自分はウイスキーが大好きで、大山崎のサントリーウイスキー醸造所に行ってみたいと教えてくれたのに、スケジュールと私の案内力のキャパシティが足りずに今回は訪問を断念してもらうことになったのは、私にはすごく恐縮なことでした。個人的なプロジェクトテーマを持っている人にとって、それがとても重要なリサーチだということが理解できたからです。
しかし、今回は自分自身の関心をぐっと内側にしまって、ツアーの道中でのまったく予期せぬ出会いを楽しんで経験してくださっていたお姿を、大変嬉しく拝見していました。その経験から、日ごろ追求されている「面白さ」についての考えを深めてもらえて、素晴らしいことだなと感じます。今後もぜひオープンマインドでフィールドワークを充実させてほしいものです。
現地プログラムの最後のプレゼンでは、スライド準備中に、う〜んと眉間に皺を寄せながら考え込んでいた笠原さん。それでも順番が来て前に出た途端、スラスラとパフォーマティブに発表をされていて、わぁやっぱりこの人は芸人!と感動してしまいました。
持ち前の面白さを武器に、様々な物の魅力を伝えたり、関係や状況を作り出したりする「面白い」の伝道者を続けていってください。
関連資料
●京都市勧業館「みやこめっせ」
●河井寛次郎記念館
●oud.
●「まいまい京都」代表の以倉敬之さん
https://www.maimai-kyoto.jp/guides/ikura/