さざえX 【詩】
ビーチで新聞読むおじさんにさざえはこっそり近づいて行きました。
さざえはおじさんのズボンのポケットに忍び込むと、
おじさんの体臭を直に感じて発狂しそうになったのも束の間、
おじさんの声を聞くと、うっとり耳が温まるのでしたが、
おじさんはさざえに気がつき、さざえを掴み出すと、
あの辛辣な生き物たちのいる海に向かってほおり投げようか、
一考したのち、海にはシャークがいるが、美味しい餌になるだろう
海にくおーんと投げ入れました。
さざえは空中を移動する間、この世の出来事がひと固まりにして思い出され、
ああどうでもよかったと無心になり、
シャークだろうが、ナポレオンフィッシュだろうが、バリっと食われようが、
何も変わらない、
さざえは自分がついに着地したとき、砂の感触を感じ、海に至っていないことに
気がつくと、屈んで自分の身を食べ始めました。
さざえの殻を拾った青年はこれが何の貝であるのか
スマホで検索すると、さざえだというので、
食べたかったと嘆き、スーパーへ行くとさざえが売っていたので、
迷わずカゴに投入し、さざえをオーブンで熱したのち、食卓へ運びました。
青年はさざえの身をぐるりと掘り出すと、
半分にそれを切り、亡き愛犬のチロに捧げると、チロが美味しそうにさざえを喰らう姿が青年に落涙を許し、青年は自分もさざえを喰らうと、さざえの身の抜けた亡骸をあの岸辺に返してやろうと思い立つのでした。