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【日記小説】生ける屍

2021.12.21

15:15、家を出てホテルへ向かう。
出てすぐの曲がり角を曲がるとき、軽い事故を起こす。
なぜかブレーキがかからず、走ってきた自転車と出会い頭に衝突してしまった。
100パーセント自分に過失があり、「すみません、ごめんない」と同じ意味の言葉を繰り返すほど謝罪した。
お互いに倒れてはいなかったが、これはかなり怒られるかもしれないと覚悟した。けれど自転車に乗っていた白いモコモコのアウターを着た青年は「いいです」と言って去っていった。明らかに止まれる状況で止まらないことを不審に思っていたらと思い、「止まれなかったんです…」と青年の去り際にぼそっと呟いた。
愛用のクロスバイクは強力なブレーキが備わっているのになぜ止まれなかったのだろうか。
抜けていると言えばいつものことだが、最近の"抜け加減"はひどいものであった。生きていて生きていない心地によく襲われる。
とにかく被害者の青年には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

16:00、河原町のPCR検査場で抗原検査を受ける。
京都府民は無料で受けられ、ワクチンを一度も打っていない自分は全国旅行支援の割引を適用させるがために、ホテルに泊まる度にわざわざ検査を受けに行く。
検査が終わり、検査結果はスマホで通知され、結果が反映されるまでに時間があって、それまでの間、近くの100均で時間を費やす。

16:20、四条大宮寄りの烏丸にあるホテルに到着。
本来は少しお高めの、某不動産会社が運営するブランドホテルであるため、少し経済的に余裕のありそうなビジネスマンや中国人観光客が多い印象。
自分のような貧乏くさい人間の泊まるようなところではなさそうだが、萎縮する必要はない、堂々としていたら良いと自分に言い聞かせる。
チェックインを済ませ、9階の部屋に入ってソファに座り、目の前の机にpcを広げる。いいホテルにしてはコーヒーのアメニティがない。自分の中で、名ばかりのホテルは細かなところが抜けがちだということはここ最近あらゆるホテルに泊まって身についた偏見である。

18:00、先にお風呂へ入ろうか迷ったが、先にご飯にしようと思う。四条大宮近くで泊まったらここ最近激安弁当屋さんで310円のお弁当を買うことにしている。今日もそのお弁当屋さんに向かい、チキン南蛮が入ったお弁当を買う。こんなに安くて美味しいのにあまりお客が集まっていないのは、店のごちゃごちゃした外観の悪さと安いものに対する不安だろう。
自分も初めて買う時は恐ろしさを感じたが、今はもう安心して食べることができる。
ホテルには電子レンジがなく、弁当屋さんの電子レンジで温めてからホテルへ戻る。
19:40、お弁当も食べ終わり、大浴場へ。明らかに大浴場に人がいる時間だとは分かっていたが、明日は早いしお風呂に入っていないと落ち着かず、この時間に入ることにする。
大浴場の脱衣場に入ると、案の定すでに何人かいて、お湯に浸かってもあまりリラックスはできなかった。

20:20、お風呂から上がり、フロントへ向かう。ホテルの公式アプリに入ると特典がもらえ、いろんな選択肢がある中からビールを選び、プレモルのビールをフロントで受け取った。
ビールだけ飲むのも心許ないと、大浴場の湯上り処のアイスの自動販売機で買っておいたバニラアイスとともに部屋に戻って味わうことにする。

21:10、ビールを飲んでいると、ふとこのビールを飲んでいる様子を現在製作中の自分ひとりで作っている映画のワンシーンとして差し込もうと決し、カメラを三脚にセットし始める。
気づけば23:00くらいまで撮っていた。慌てて寝る準備を始める。今日のホテルからバイト先までは歩いて10分ほど。5:40には家を出なくてはいけない。
5:15にスマホのアラームをセットし、布団の中へ。ふと明日行く美容院を予約しないといけないことを思い出し、美容院選びを始める。24:00近くまで決めかね、ようやく良さそうな美容院を見つけ予約が完了し、灯りを消して寝ようとするも、結局スマホのブルーライトを浴び続けたせいで眠りにつけない。
隣の部屋からおじさんのイビキが壁から漏れて聞こえてくる。結局半眠りの状態が5:15まで続いた。
僕は死んでいても、生きている。ふとそんなことを思った。




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