眉山を剃るのをやめた
私にとって眉毛の形は長年のコンプレックスだ。
太くて濃くて上がり眉で、例えるなら犬夜叉や『俺物語!!』の剛田猛男のような感じだ。
(と思って久々に画像検索してみたら、思ったより犬夜叉が細眉でびっくりしている。細眉の時代にはあのレベルでも太かったのだ)
まあとにかく、そんな眉毛をしているものだから、思春期の頃は本気で自分の眉毛が嫌いだった。
時は細眉全盛期。ギャル文化に勢いがあり、安室奈美恵や浜崎あゆみが時代のアイコンだった頃である。
小学生の頃は時々母が眉毛を整えてくれたが、長くはみ出している毛をカットしてくれるくらいで私の理想からは程遠い仕上がりだった。
高校生になり、自分で眉毛を整えてもいいんだ、とようやく気づいた。
学校も親も厳しかったので休日もメイクはしなかったが、はさみや剃刀を使って少しでもましな形になるよう努力した。
親からは剃りすぎ、切りすぎじゃないかと心配されたこともあったが、聞く気は全くなかった。
大学生になってメイクを始め、眉毛を描くことを覚えると、自分の眉毛が嫌いな気持ちは少しだけ薄まった。
大学時代後半~社会人になる頃、ついに細眉ブームは終焉を迎えた。
太眉がトレンドになり、ようやく私の時代が来たと思った。
とはいえ、そのころから最近に至るまでのトレンドは並行眉。
上がり眉はトレンドに合わないし、強すぎたり怒っているように見えてしまう。
一般的に眉山は剃ってはいけないと言われる。
しかし私は、上がり眉を穏やかな角度にしたかったので、ネットに載っているアドバイスは無視して眉山をカットし、並行眉っぽく整えた。
眉山を剃ってはいけないとされる理由は、眉山にある少し盛り上がった部分、眉丘筋が目立って不自然に見えるからである。
特に剃り残しの短い毛があると眉丘筋の部分が青く見え、さらに目立ってしまう。
これらのデメリットは気になっていたが、上がり眉になることが嫌すぎて、眉丘筋が目立つことには目をつぶって眉山を剃り続けてきた。
それが一転、ここ数ヶ月で「ありのままの眉毛でもいいのでは?」と気持ちが傾いてきた。
モデルやアパレルスタッフなど、美やトレンドを売りにしている方の中にも「(私基準で)こんなに?」と思うほど太くて濃い眉の人はいる。
自分が眉毛を気にしているものだから、最初は若干違和感を覚えるが、見慣れてくるとその太くて濃い眉毛がチャームポイントになっていて魅力的だと思えた。
メイクアップアーティストの小田切ヒロさんのYoutubeで「メイクも多様性の時代」とおっしゃっていたのを見て、心の中に(いい意味での)小さな引っかかりが残った。
決定的だったのは、アットコスメストアでコスメを試していた時の出来事だった。
濃い眉を薄くするのに欠かせないのが眉マスカラ。
特に髪を染めていると黒々とした眉毛は目立つので、眉毛を自然に明るい色にしてくれる眉マスカラは私の必須アイテムである。
その日は店頭でホワイトベージュの眉マスカラを見つけ、自然な薄眉がかなうだろうかとテスターを片眉に塗ってみた。
すると、眉マスカラがしっかりと眉毛をコーティングして薄くしてくれたのと同時に、眉毛と少し盛り上がった眉丘筋が一体化してしまったのである。
眉丘筋と一体化した眉毛、つまり本来の形の眉毛を見たのは何年ぶりだろうか。
思い出せないほど遠い昔のことだった。
久しぶりに見た本来の形の眉毛は、思ったほど悪くないと思った。
コンプレックス補正がされて、本来の眉毛を実際以上に悪いものとして記憶してしまっていたのかもしれない。
ありのままの眉毛も案外悪くないのではと思えたので、眉山の毛を伸ばすチャレンジをひっそりと始めることにした。
最初の中途半端に毛が短いときは剃りたい気持ちにもなったが、そんなことは伸ばす前から分かっていたので我慢した。
出かけるとき、メイクした顔に違和感はないだろうかと少し心配した。
実際メイクすると自分で見てもそれほど変化は感じなかったし、実際誰にも眉毛の形を指摘されることはなかった。
この記事を書いているタイミングでは、眉毛を伸ばし始めてから1ヶ月近く経っている。
トレンドの変化なのか、年齢を重ねて眉毛の形が少し変わっていたのか、上がり眉なのは思ったほど気にならない。
濃いのは気になるが、眉マスカラで色を調整すればいい。
本来の形の眉毛は強すぎたり、怒っているように見えるからと避けていたはずなのに、眉毛を伸ばしてボリュームアップしたおかげで、むしろ穏やかな印象になるのも意外な発見だった。
眉山のカットをやめ、眉毛を伸ばしてよかったと感じることはいくつかある。
まず言うまでもないことだが、眉山がきちんと毛で覆われることで、眉丘筋の盛り上がりが目立たなくなった。
眉山を残すとすっぴんでも眉毛のボリュームが維持されるので、何もしなくても顔が整って見えるようになった。
眉山を剃っていたときは、どうしても眉尻の毛が少なくなり、眉尻だけ細く見えてしまっていた。
すっぴんだと眉尻が遠目からは見えづらいので、眉毛が足りない、明らかにメイクをしていない雰囲気が漂っていたのだ。
眉山の毛を剃らないことですっぴんの顔がよく見えるなんて、そんな楽なことがあるとは思ってもいなかった。
眉山の毛を残すことで、眉毛の重心が以前よりも外側にいくようになった。
最近では、眉山を比較的外側にして王道の美しいとされるバランスから少し外すことで、そのアンバランスさを魅力に変えている人も見かけるようになってきている。
私の場合、眉毛の重心を外側に持ってくることによって、気にしていた求心顔が少し軽減されて顔全体のバランスが良くなったように感じる。
眉山のカットを辞めて眉毛を伸ばしたことに、自分なりの哲学や信念はない。
人生を変えるような大きな気づきがあったわけでもない。
些細なことがきっかけで、長年の強い固定観念を取り払えることもあるんだ。
前と比べて、少しだけ軽く、自由になったような気持ちだ。
本来の形の眉毛を必要最低限どこまで整えるか、どのようにメイクするかはまだ研究中だ。
これから微調整を加えてさらにパワーアップできるかも、とわくわくしつつ、在宅勤務でメイクをしたりしなかったりの生活を送っている。