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会計Column:減損会計の初学時に引っかかったポイントをふりかえるメモ

■回収可能価額と帳簿価額を比較する違和感

以前投稿した『Column:会計門外漢の人に減損会計を説明して素朴な理解を得るメモ』にて、減損会計の大まかな考え方を解説しました。

実は筆者は、この会計処理を初めて学んだ際、どうにも気持ち悪く、腹落ちできないでいました。気持ち悪いと感じたのは、回収可能価額と帳簿価額を比較するという点です。

以前の『Column』での設例では、以下のように帳簿価額100に対し、回収可能価額が40であるという数値例を提示しました。この際、差額の100-40=60が減損損失額となります。

ここで初学時の筆者は思いました。
「なぜその設備の」回収可能価額が40万円なのか?と。

つまり、設備を使って40万円を稼ぐことができるのは、優秀な従業員の働きとか、営業ノウハウとか、取引先との関係とか、色々な要素の貢献があってのことなのに、その40万円が全部設備由来であるかのように設備の帳簿価額との比較に充ててしまってよいのはなぜしょうか。

設備を使って40万円のおカネを得られるのであれば、設備の価値は例えば15万円で、残りの25万円は従業員の生んだ付加価値とか、設備以外の特許の価値とか、既存の有利な長期契約とか、そういうものの貢献から生じたと考えるほうが自然なのではないか?と思いました。なぜ設備が総取りなのでしょうか。全部が全部お前(=設備)の手柄だと思うなよ!※という気持ちになりました。※「アンタちょっと認識されてるからって調子乗らないでよ!」と読み替えてもOKです。

■減損後簿価には自己創設のれんが含まれる?

回収可能価額の算定において未認識無形資産の貢献も含まれたキャッシュフローを使っているのに、算定された使用価値を全て認識済みの固定資産に帰属させてしまうと何が起こるでしょうか。結果として、本来のその固定資産の価値以上の帳簿価額をその固定資産に残すことになってしまうのではないでしょうか。そしてそこには自己創設のれん的なものが紛れ込んでしまっているのではないでしょうか。

2つの設例で考えてみましょう。

まずは、有償取得したライセンスのように認識済の無形資産を持っており、無形資産と有形固定資産がセットでCGUを構成しているケースで考えます。この設例①では、期待CF200<無形100+有形300なので、減損損失を認識し、減損損失は各資産に配分されます。その結果、有形固定資産の減損後の帳簿価額は150となります。

次の設例②では、有形固定資産は同額持っているが無形資産は未認識であるケースです。この場合、なんらかの無形資産が期待CF獲得に貢献するとしても、その期待CFは認識済の有形固定資産の帳簿価額のみと比較され、減損損失が認識されます。このとき、有形固定資産の減損後の帳簿価額は200となり、設例①と比べると有形固定資産の減損後の残存簿価が大きくなっていることがわかります。

仮に、無形資産の認識有無の以外の状況が設例①と②で同一だとしたら、両者の差額50(200vs150)については、有形固定資産のCF創出能力とは関係ない、ということになります。

そうすると、この50という金額の部分には、未認識無形資産の価値が突然認識されたと考えることができ、それは自己創設のれんのようにも感じられます。

■現行処理に一周回って納得する

もちろん、CGU単位での期待CFが200という点では設例①も②も同一なので、CGU単位での回収可能価額がそれぞれ認識済の資産に表出した(BSに帳簿価額として残った)という観点ではこれが異常な処理であるとまでは考えられません。

なにより、設例②において、無形資産の価値を突然算定して有形固定資産の減損後の簿価は200ではなく150である、などと測定することは著しく困難です。その測定のためには、自己創設のれんを評価・計算して減損金額の測定計算に織り込むということが必要になるからです。

したがって、結論として減損後の帳簿価額に未認識の無形資産の価値が含まれてしまっても仕方がないという点は一周回って納得しています。しかしながら、しかしながら(大事なことなので2回言いました)、予備校や教科書で学ぶときに誰もこの点を話題にしないために、筆者はそれを自分自身の頭で整理できるまで、延々とモヤモヤし続けたまま勉強をしておりました。

以上、「オンバランスされた(=認識済の)固定資産簿価のみと、オフバランスの(=未認識の)無形資産の貢献が含まれるキャッシュフローとを比較する減損会計の測定ルールによると、結果的に減損後の固定資産残存帳簿価額にオフバランスの無形資産の貢献による価値(自己創設のれん?)が含まれてしまうのでは」というお話でした。

■その他の観点

twitter内で色々と意見交換する中で、以下の説明には一定の納得感があるように感じました。

未認識の無形資産による貢献が減損対象固定資産の残存帳簿価額に混ざってしまうとしても
■CGUごとの評価をしているのだからCGUとして正しいのでそれでよい。
■(CGUの)取得原価内の処理なので単純な自己創設のれんとは性格が違う。
■減損後に減損テスト時通りの収支が出たときにCGU単位で益が出るのを避けられる。

ただ、未認識の無形資産と有形固定資産では耐用年数も本来は異なるでしょうし、やはり現行処理が理論的に鉄壁ということではないだろうと感じました。

■いただいたアドバイス抜粋

いくつか、参考になったリプライを引用させていただきます。

→なるほど、と思いました。会計学の世界では一般的な話なのかもしれません。

→ヘッドルーム・アプローチは、未認識無形資産等の減少を減損の測定に織り込んでのれんの減損の遅延を軽減するアプローチで、議論の中身としては近い性質の話かも、ということを教えていただきました。ヘッドルーム・アプローチについては、以下の解説が参考になります。派生的に非常に勉強になりました。※なお、こちらのブログ、本当に無料で読めるのがおかしい記事が満載です。

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