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#50 静寂のオフィスと僕の1日
飛び石連休の合間の平日、オフィスはがらんとしていた。
普段なら朝の通勤電車は混雑していて、ぎゅうぎゅうに押し込まれながら会社へ向かう。しかし今日は違った。車内はまばらで、ドア付近のポールに寄りかかりながらスマホを眺める。SNSを開けば、友人たちが連休を満喫している投稿が並んでいた。温泉旅行、テーマパーク、帰省先での家族との団らん——どれも、いかにも休暇らしい楽しげな光景だ。
ため息が出そうになるのを堪え、スマホをポケットにしまう。**「この一日で圧倒的な差をつけるんだ」**と、自分に言い聞かせた。
静まり返ったオフィス
会社に着き、エレベーターを降りると、静けさに包まれたフロアが広がっていた。普段なら、あちこちから同僚の談笑や電話の声が聞こえるのに、今日は違う。静寂が支配するオフィスには、数人の社員がぽつりぽつりと座っているだけだった。
席につき、PCの電源を入れる。モニターがゆっくりと起動し、メールを開くが、新着はほとんどない。やるべきことはある。だが、同僚に確認が必要な案件が多く、思うように進まない。チャットを送っても返事は遅いし、電話をかけるのも気が引ける。
「……仕方ないな」
結局、自分一人で片付けられる仕事を優先することにした。しかし、どこか気が抜けてしまう。周囲の活気がないせいか、どうにも集中力が続かない。
単調な昼休み
12時を過ぎても、オフィスの雰囲気はほとんど変わらなかった。いつもなら、食事に出る人たちの話し声が聞こえてくるのに、今日はそれもない。
社員食堂に行ってみたが、閑散としていて、料理の匂いも心なしか弱々しく感じる。こういう時の食事は味気ない。結局、コンビニで買ったおにぎりと缶コーヒーをデスクで済ませることにした。
PCの画面を眺めながら食べていると、ふと、**「自分は何をしているんだろう?」**という気持ちが湧いてくる。もし今日休んでいたら、どこか遠くへ行っていたかもしれない。友人と出かけたり、家でのんびり映画を観たりしていたかもしれない。でも今、自分は静まり返ったオフィスで、一人黙々とおにぎりを食べている。
「まあ、こういう日もあるか……」
無理やり納得し、午後の仕事に取り掛かった。
伸びない針、進まない仕事
午後も相変わらず、仕事の進捗は遅かった。確認が必要な案件が多すぎる。手をつけられない案件を飛ばしながら作業していると、なんだか自分が無駄な動きをしているような気がしてくる。
時計を見るたびに、時間がほとんど進んでいないように感じる。普段なら、業務の合間に雑談が入ったり、上司からの急な指示が飛んできたりして、気づけば夕方になっているものだ。しかし今日は、その流れがない。まるで時間が止まってしまったかのようだった。
「……もういいか」
頑張っても、これ以上は効率が上がらないと感じた。
結局、残業はせずに定時で退社することにした。
静かな帰り道
会社を出ると、冷たい風が頬をかすめた。街はいつもより静かで、人通りも少ない。帰り道のカフェも、休日ののんびりとした空気を纏っている。
電車に乗り、空いた座席に腰を下ろす。窓の外には、淡いオレンジ色に染まった街並みが流れていた。スマホを取り出し、ニュースを適当にスクロールするが、特に目を引くものはない。
ふと、頭の中で問いが浮かぶ。「今日は意味のある一日だったのか?」
正直なところ、分からなかった。仕事の成果は少なく、特別なことがあったわけでもない。ただ、いつもと違う静かな一日が過ぎていっただけのようにも思える。
でも、休んだ人と比べれば、少なくとも一歩は前へ進んだはずだ。もしかすると、この一日があとで何かにつながるかもしれない。
「まあ、そんなものか」
そう思いながら、車窓の向こうをぼんやりと眺め続けた。