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『残機』考察

ACAねさんは漫画やアニメが好きなのはよく知られています。中でもチェンソーマンが大好きで、オールナイトニッポンでは「主題歌やりたくて勝手に何曲も作ってる」と話していたくらい熱烈なファンなんですよね。大ファンだということが伝わってくるツイートを紹介します。

ACAねさんのコメント

余談ですが、アニメ・チェンソーマンでは毎回エンディング曲が変わります。超豪華なラインナップのアーティストがチェンソーマンのために書き下ろした曲が毎週流れるという、ファンにとってはオープニング、本編、エンディングを楽しめる贅沢で最高すぎるアニメになっています。更に、エンディングは各回のストーリーをイメージした内容の曲になっているようで、関係者もこの事について言及しているんですよね。

こちらは主人公デンジ役の声優戸谷さんのツイートです。2話のイメージにピッタリハマっているという素晴らしい仕上がり…ACAねさんもファンも感動ですよね。

こちらはReal Soundの記事です。やはりデンジの心中を表した曲だと書かれています。ネット上で残機の考察を検索してみましたが、検索結果に出てきたもののほとんどがチェンソーマンのストーリーに沿ったものでした。やっぱり残機はチェンソーマンのためだけに書かれた曲なのか…と考えていましたが、一つ引っかかっていたことがあるんですよね。

ACAねさんは「自分の生活と交えながら吐きながら魂込めました 楽しかったあ みんなで攻撃しあうことで支えあってます」と発言しています。デンジが早川家に来て共同生活が始まる話が第2話でしたが、残機にはACAねさんの生活の中で複数の人と何かをしている様子を交えているのかな、と思いました。
基本的にACAねさんは生活している中で経験したことを元に曲を作っているんですよね。何度も紹介してきましたが、こちらのインタビューを見るとわかると思います。

ACAねさんは何気ない日常のワンシーンを曲にする傾向がある気がします。こんなことを言っていたのを知っていますか?

「トイレ探しても見つからない時のうた」、気になりますよねw
こんな些細な日常の一コマさえも歌にしてしまうんですね。

私はずとまよの曲を何曲か考察してきましたが、ACAねさんだけが経験した特別なことではなく、誰もが経験したことがある日常の風景をテーマにしていることが多いように感じます。正義や低血ボルトは思春期の自分と家族とのやり取りを表しているようですし、ばかじゃないにのは進路を決めきれなくて悩んでいる様子を表現しているみたいです。(反抗期に親と口を聞かなかったり、進路に悩んだこと、誰でもありますよね?)
勘冴えて悔しいわはいじめられた経験の話ですし、MILABOやミラーチューンはアーティストを目指すACAねさんだけの話ではなく、夢を持っているなら、諦めずに突き進んで欲しい!というメッセージがこもっている気がするんですよね。誰もが共感できる内容の歌詞であっても、それを複雑難解にできるのはACAねさんの感性が研ぎ澄まされているからだと思います。

誰かに理解してもらいたいという孤独(バリア)ではなく、孤独のまま他者と向き合えるかという可能性や希望も表現しているのが、ずとまよの曲の特徴であり、その孤独は難しい言い回しであっても共感できるんですよね。

考察のヒントになったのが、残機の英語のタイトルである"Time Left"です。"Time Left"を訳すと、「残り時間」です。そして、イントロの「嫌」の一言でピンときました。歌詞を見ずに曲を聴くと、「Yeah」と言っているのかと思いましたが、まさかの「嫌」。なるほど、これは嫌なこと、みんなが避けたいアレのことかも!と思ったのです。

孤独を歌うずとまよ×ACAねさんの感性×残機"Time Left"というタイトル、それをチェンソーマンの雰囲気に寄せた歌詞と、アニソンとしても高く評価できるところ、そして中毒性の高い曲に仕上げてくるあたり、ACAねさんの天才性が爆発していると思います。それでは歌詞を追っていきましょう。

嫌だなぁ、やらなきゃならないのか…。

嫌なことをしないといけない、この嫌なこと、私は学校のテストのことだと思いました。残機の英語のタイトルの残り時間とはテスト期間のことを表していて、テストまでのカウントダウンや本番を迎えるまでの心境を表現している気がしました。しかも、一人でテスト勉強するのではなく、何人かと勉強することになった、他の歌詞からそんな感じがしました。

しょっぱいぜ 初めて嗅いで舐めた出会い
自暴自棄です 平均的な正論が貧乏
いらっしゃいませ ニンニク増しで目指した健康体
腹歌満たしてる

友達に頼られてテスト勉強一緒にすることになったけど、教えるの苦手だしどうしよう…。友達は全然勉強できてないからやけくそになってるし、でも、平均点取れたらそれでいいってわけじゃないよね。とりあえず腹ごしらえにラーメンでも食べて気合い入れようかな。

人に勉強を教えるという慣れない作業、確かにしょっぱいかも知れません。平均的な正論とは正しい答えの平均値、つまり平均点のことだと思いました。平均点を取ればとりあえずはクリアですが、良い成績を収めるにはそれよりももっと上を目指さないといけません。だから「平均的な正論」では「貧乏」のままなので、ACAねさんたちは頑張ろうとしているシーンが目に浮かびました。
ACAねさんはラーメンが好物です。「ニンニク増し」という歌詞もラーメンのことを指しているんじゃないかなと思いました。

優等生 無知なフリして踊っちゃって
欠点です 現状把握しちゃうから中断中
もう譲渡 見せびらかし合いましょ劣等感妄
変えられゃしないってわかってるからぁ?

周りからは優等生って思われてるけど、自分で勉強するのと教えるのとでは違うんだよね。そんなことは知らないふりして、教えてもらえる〜って踊るように嬉しがられたよ。どこが苦手なところなのか把握するからちょっと待って。うーん、ホントは見せたくないんだけど、私のノートがあるから、これを参考に勉強しよっか。授業内容はみんな同じだからこれでわかるよね。

個人的な意見ですが、ACAねさんはかなり頭のいい人だと思います。歌詞の言い回し、特にサターンの歌詞は天体の惑星の位置を登場人物の距離感に例えているところや、ATP、DNA、ヌクレオチド(温れ落ち度)と言った生物学用語を多用するところ、また音楽はもちろん様々な分野に明るいところなど、優等生だった面影が感じられます。「欠点です」はそのままで、長所と短所の欠点ではなく、テストが赤点という意味の欠点だと思いました。
「もう譲渡」して友達に見せてあげるノート、なかなか勇気がいることです。自分が書いたノートを友達に見せることに抵抗はありませんか?私はあります。クセがあってあまりキレイじゃない字や変な落書き、自分ではわかるようにメモっているけれど、人が見たらなんのことかよくわからないまとめ方をしていたり…しかも、今まで頑張って勉強してきた内容を、なんの苦労もせずにゲットできる友達がなんだかずるく見えてしまう。頼られていても見せたくないものを見られる、劣等感を感じる瞬間です。複雑な感情が渦巻いていますよね。しかし背に腹はかえられない状況です。

MVではニラちゃんが二人登場します。残機ニラちゃんと彼女の中に潜む悪魔ニラちゃんです。これは優等生であるACAねさんと、「勉強教えるの嫌だな…」と思っているちょっと意地悪なACAねさんの心を表しているように思いました。平然を装っていても内なる悪魔の囁きが聞こえてくるようです。

直感で自己中な理解不能プレイヤ
求められたなら惨事会
くだらん口喧嘩でマシになんだ
モットーもっと?もう意外と辛いのに

直感的にしかわからない自由すぎる考え方の友達…どう教えたらいいのかわからないよ。解き方を求められたら私にとっては大惨事なのに…。「ここはこうやって解くんだよ」「え?よく分からない!」「だからね、ここをこうやって…」「もぅ、わからないよ」こんな口喧嘩みたいなやり取りしつつも多少は理解してマシになってきたかな。え?もっと教えてって?もう結構辛いんだけど。。

残機というタイトルと「プレイヤ」という歌詞、ゲームを連想させますよね。この曲が初披露されたのは全国ツアーテクノプアのライブでした。しかも、チェンソーマンのエンディングで流れたのはそのツアーの真っ最中、見事な伏線の張り方でファンのテンションを最高潮まで上げたACAねさん、素晴らしいとしか言いようがありません。
「理解不能プレイヤ」というのもさっぱり勉強についていけない友達を上手く表現していて面白いなぁ、と思いました。

うざいくらい 叫んだって喰らったって
譲れない日々よ 栄養になってまた 汚しあえ
残機わかんなくて 上がんなくて
脊髄反射の涙腺は 濁った声で歌えば感謝です

テストなんか要らない、あーもううざいとか叫んでもどうにもならないんだから、頑張らなきゃ。学力向上させて解答用紙にたくさん書き込めるようにしないとね。まだ分からないところあるみたいだし、気分も上がってないみたいだし、なんか半泣きな状態にもなってるけど、感謝されたのは良かったかな。ていうか、私もテスト勉強しなきゃならないんだけど…泣きそう。。

サビで注目してもらいたい歌詞は「栄養」です。勉強をして方程式や単語などを覚えていくのを、脳に栄養を蓄えることに例えているというのが一つ目の解釈です。もう一つの解釈は、サウンド的なことになるんですが、「栄養」が「A4」に聴こえました。A4とはA4用紙のこと、つまりA4サイズの解答用紙のことを指している気がしたんです。その解答用紙に今までの勉強の成果を書き込んだり、消しゴムで文字を消して筆跡を残すことを「汚しあえ」と表現しているのかと思いました。残された時間に友達の勉強に付き合わないといけないし、更に自分の勉強もしないといけない、「このままじゃヤバい」というACAねさんの焦りが見え隠れしている感じがします。

試したいわ あたたかくて
絶体絶命な 夜は気持ちい
平凡な生活 ゆめみたけど
先手必勝が 気持ちいいな

教えてあげたり教えてもらった勉強法、試してみよう。もうテストまで時間がないのヤバすぎる…。絶体絶命なんだけど、夜遅くまで勉強して深夜テンションになっちゃった。テストが無い平凡な生活がいいけど、そうも言ってられないよね。普段からテスト対策をしていれば本番もスラスラ解けるから問題ないとは思うけど。

「絶体絶命な夜」を経験したことありませんか?学生さんならテスト、社会人ならプレゼンの準備など、「明日が大事な日なのに全然間に合わない!ヤバい!」みたいなことを。夜更かししたり、時にはオールしたり、そのせいで変なテンションになったりもしますよね。逆境に立ってもなおハイになっている状態を表していると思いました。

帰ってすぐに水やり 人間の営み
実のところ恵まれても 虚無感が友だち
眠気覚まし耳打ち 飲み干すまで合図血
仲良しこよしの時間

家に帰ったらいつものルーティンで植物に水やりして、自分も一服。周りからは成績優秀って言われてても、なんだかやり甲斐のない日々を送ってる。あの子に電話して起こしてあげないと。ご飯食べたら勉強スタートするよ。さあ、付きっきりでやらなきゃ。

ACAねさんは家で植物を育てていたのか、動物を飼っていたのかわかりませんが、水やりというのは飼っているものに食事を与えるだけではなく、自分自身も一息ついてリラックスしようとしていたのかもしれませんね。
ACAねさんは「帰って植物に水をやり、猫の肉球に水を染み込せることにより自分としては潤う過程が大事なんじゃないかというような曲を作りました。」とコメントの中で語っています。ここ一番という大事な日を目の前にして、何もできていないヤバい状況であっても、心が荒れてパニックになるのではなく、潤いを保つ、心の健康をキープすることが大事だと言いたいんだと思いました。
疲れて眠くなってきた友達を起こすために電話している様子を想像しましたが、なんだかんだ言っても仲の良い大切な友達なんでしょうね。
「仲良しこよしの時間」とはマンツーマンで付きっきりの状態を表していると思いました。

直感で自己中な理解不能プレイヤー
求められたなら三次会
細かいご指摘も有り難き
結局 瞳孔開いてしまうのに

友達に勉強教えてってお願いされたら勉強会やるしかないよね。「その説明じゃよくわかんない」とか細かい指摘もこちらの勉強になるから逆にありがたいかも。あぁ、ちゃんと問題解けるかなぁ…。夜になっても気になって目が冴えちゃうよ。

この「三次会」ですが、一番の「惨事会」の同音異義語になっていますが、ここにも面白いギミックが隠されているように感じました。三次会というのはマンツーマンの勉強会という解釈をしましたが、それは何故かというと、一次会は授業、二次会は補習だと思ったからです。視覚的、聴覚的に攻めてくる面白い言葉遊びだと思いますね。ACAねさんの感性が光ります。

少し戻りますが、「眠気覚まし耳打ち」のところでギターのサウンドが聴こえますが、インターホンのようにも聴こえます。このサウンドもダブルミーニングなんじゃないかと思いました。実はチェンソーマンの中でインターホンの音がターニングポイントになる回があるんですが、それを表現しているのと、勉強会(三次会)をする為に友達がACAねさんの家にやって来て、インターホンを押したところを表しているんだろうと思ったんです。チェンソーマン好きなら反応してしまうところですよね。

ただ穏やかでいたい
誰にも迷惑かけたくはないと思うが
戦わないと 撫でてもらえない
単純明快でした

ただ、穏やかに過ごしたい。焦ったり、何かに追われたり、そんなことはしたくない。それにテストの結果が悪かったら家族をがっかりさせちゃうし。でも嫌なものでもやらなきゃ成績表はもらえないし、やるしかない。そんなことはわかりきってるんだけどね。

デンジが平凡で穏やかな生活をしたかったけれど、そうはいかない、戦わないとマキマに撫でてもらえない、デンジとACAねさんの2人がダブるような描写です。

言いたいことジャンケン ご愛顧じゃ
まずは実感湧くまで 拵え
すぐ吐けなくて 呆気なくて
脊髄反射の涙腺は 萎んだ脳で歌えて感謝です

お礼に何かおごってくれるの?じゃあジャンケンで決めよ?テストの結果が返ってくるまで気持ち落ち着かせないとね。なかなか解けなくて、呆気ない終わり方だったかもしれないけど、本番は全力で臨めて良かったよ。

「ご愛顧じゃ」ですが、チェンソーマンに出てくるパワーの話し方「〜じゃ」を意識しているように見えました。「萎んだ脳」とはこれまで蓄えた「栄養」を出し切った後の様子を表していると思いました。

だりいし痒いし薄っぺらい
くだらないことで笑いたかった
賄いじゃ満たされない不安感
暴れるのは疲れる でも侮れない
傷にはセッションで絶頂で健康で
きもちいな

勉強するのも教えるのもだるいし、なかなか理解してもらえないのは歯痒い。普段こんなに話すことなんてないから、もっとくだらない話して笑いたかったなぁ。賄いみたいなお菓子を一緒に食べたら小腹は満たされるけど、もっといろんな話ができてたかもって思うと友達との関係がなんか不安。振り回されるのは疲れるけど、でもこれもコミュニケーションの一つだよね。わからないところはこれからも一緒に勉強したり、深夜にハイになったり、テストが終わったらホッとして気持ちよく過ごしたいよ。

「セッション」という歌詞が出てきました。私は勉強会のことを指していると思いましたが、この言葉を使うことによってアーティストらしくバンドマンとバチバチお互いの意見を交わし合い、作品を作り上げていく雰囲気を醸し出しています。
この考察はACAねさんが優等生で、友達に勉強を教えるという構図でしたが、ACAねさんが友達にヘルプを求める逆のパターンを想像するのも面白いと思います。

学生さんっていつもくだらないことで笑いあってますよね。人によると思いますが、大人になったら仕事仲間とバカな話ってなかなかしにくいものです。そんなくだらない話で盛り上がったありふれた日常って大人になったらとても懐かしく、愛おしく、あのときに戻りたいなぁ、と思うものです。「10代の頃は息苦しく、生きていくのがしんどい時もあった」とACAねさんはライブで語っていたのですが、そんな色んな思いをした学生時代が今となってはかけがえのないものになっているのではないでしょうか。そうじゃなかったらこんな風に曲にして昔のことを懐かしむことはないと思うからです。
しんどいときにどう生きていくべきか…ACAねさんは一つのモデルを示してくれている気がします。ツラい、しんどいと思っている今を、何年か経ったときに振り返って懐かしむ、そんな広くおおらかな心を持って!そんなメッセージを送っているように感じました。

チェンソーマン風の歌詞をThe ROCKというサウンドに乗せて、真意を紛らわせる手法…ACAねさんにしかできないと思います。そしてチェンソーマンへの愛がないとできませんよね。ACAねさんは人としてもアーティストとしても素晴らしい方だと再確認した一曲でした。

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