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『消えてしまいそうです』考察

この曲は、2022年9月16日からNetflixで独占配信された映画「雨を告げる漂流団地」の主題歌として起用されました。考察に進む前に、映画のあらすじなどに触れてみたいと思います。「雨を告げる漂流団地」のストーリーは…

幼なじみの航祐と夏芽は、航祐の祖父の他界で関係がギクシャクしていた。夏休みに、航祐はクラスメイトと取り壊しの進む、昔住んでいた団地に忍び込む。そこで夏芽と遭遇した航祐が謎の少年・のっぽの話を聞くと、辺りは大海原に変わり、団地は漂流し始める。

引用映画ナタリー

といったものです。
ACAねさんは映画やテレビ番組のタイアップとして曲を書き下ろす場合、その映画や番組の内容に沿った歌詞を書いているように見えます。(あくまでそう見えるだけで、真意は他にある、というのが私の考察なのですが)
『消えてしまいそうです』にもその傾向は見られます。シティポップ調のイントロ、メローで安らぎを感じるメロディラインと歌詞が大変心地よいです。しかし、サビになるとガラッと表情を変え、各楽器の演奏がパワフルになり、間奏には不安感を煽るサウンドを使っていませんか?「夏休みだー!」という開放感、廃墟になった団地に忍び込み、漂流し始めた団地には嵐が襲いかかるという展開、MVを観ていてもこの映画を表した曲のように見えます。

ところが、腑に落ちない点があったのです。それは『消えてしまいそうです』の英訳タイトルである"Blush"です。"Blush"を辞書で調べてみると、「赤面する、顔を赤らめる」とあります。恥ずかしいから、消えてしまいそうになったのでしょうか。「雨を告げる漂流団地」に登場する子どもたちは小学生です…ここで、私が考えた点と点が線になりました。「夏休み」「小学生」「赤面する」この辺りが考察のポイントですね。夏休みの大冒険の終わりに待っていたアレ、子どもの頃に経験した人は多いんじゃないでしょうか。それでは考察を進めていきたいと思います。

助けたい表面 寂しさが少年
始めからここに浸ってしまうから
片手間だって わかったから
痒いもんね 体育座り本音
畳の香ばしい匂いが痛くする
もう ひとけのない部屋

夏休みもあと残り少し、なのに宿題がまだたくさん残ってる。とにかくなんでもいいから終わらせないといけないのに、やり始めようと思ったら遊びの余韻に浸っちゃって全然進まない…。優柔不断な自分が歯痒くて、体育座りしながら「もうホントにやだ」って本音漏らしたよ。畳の匂いを嗅いでいると、外に飛びしていきたくてうずうずする。部屋で一人で宿題しないといけないなんて、悲しすぎる。。

夏休みにたくさん遊んで、宿題を放置してしまった経験はありませんか?この曲は残りわずかとなった夏休みに、残った宿題をする羽目になった少女時代のACAねさんを描いた曲だと思いました。ヘルプを求めていたところを「助けたい表面」にしたり、映画になぞらえて「寂しさが少年」というのがおもしろいですね。宿題をする時はいつだって孤独なものです。和室に一人座り込んで宿題と対峙する様子が伝わってきました。(実はこの考察は何ヶ月か前には完成していましたが、夏休みのこの時期に合わせて投稿したかったのです)
私は他の曲の考察で、ACAねさんは頭脳派であり、相当頭の良い方だと述べましたが、幼い頃は遊びたい盛りで、腕白なこともしていたのかな、とふと思ったのです。勉強ができる子でも、宿題をやってないことってありましたからね。振れ幅が広い人ほどおもしろく魅力的ですが、ACAねさんもその一人だと思いました。

スーパーの曲がり角 歩いた
秘密のはなし そんな帰り道が
恋しくなってしまうから
願うもんね 夢なんかじゃなくて
君の合図 歩き方で気づくよ
もう ひとけのない部屋

スーパーでおやつとか買い物した帰り道、友達と待ち合わせの約束して、たくさん遊びに行った。あの時に時間が戻ったらいいのにな。もう遊んでる余裕なんてなくて、歩き方だって焦ってるのがわかるくらい。誰もいなくても一人でやらなきゃならないのかな。。

遊んでいたときの思い出が頭から離れないようですね。

柔らかな緑は ただ
僕を やり直させようと必死で
ままごとを続けた
木を ねぇどうしたいんだ
あゝ 今日が

周りの人は私が適当にした宿題をやり直させようと必死で、私と同じくらい焦ってる。遊び続けていたことを反省してるけど、どうしたらいいの…。今日ももう終わっちゃうよ。

「柔らかな緑」と「木」、同じ木から伸びた枝葉のようです。家族構成を表す図をファミリーツリーと呼んだりしますが、それと同じような感じがします。同じ根っこを持ち、ひとつ屋根の下で生活する家族に助けてもらっているようですね。それから正義のMVに登場するキャラクター、木っ手男の「木」ともリンクしそうです。
「ままごと」という単語で子どもらしい遊びにふけっていたようにも見えますし、宿題を適当に終わらせた、勉強ごっこのようなニュアンスも含まれているようにも見えます。

君の吸い込んだ空気で
消えてしまいそうです
未完成で低姿勢で気持ち任せです
乱暴に手を振った 気配に負けそうです
君のSOSは 僕のものって 思い込んだ夏

ため息をつかれると、恥ずかしくって申し訳なくて消えてしまいたいくらいだよ。未完成の宿題を目の前にして、私の力だけじゃどうにもできないから、頭下げてお願いするしかない。「もう、こんなの無理だよ」ってお手上げ状態になってる家族を見て、そのムードに押し潰されそう…。助けてくれる人たちのSOSは、私が原因なんだなって思っちゃった苦い夏休みの思い出。

「吸い込んだ空気」に注目です。プラスとマイナス、入口と出口があるように、物事には対になる物や事象があります。「吸い込んだ空気」はどうなるんだろう?と考えた時、吐き出されるのが一番自然だな、という答えに辿り着きました。では、どんな息なのでしょうか。子どもが適当に終わらせた宿題を見ないといけない家族の立場を想像すると、ため息が出たんじゃないかな、と思いました。映画の嵐のシーンと、助けを求めてSOSを出しているところを上手く重ねて表現していると感じました。

屋上から一番近い階段あははって
簡単に放り投げた哀傷論
表したところでだって
どうにもならない
成長も儘ならない
8月9月育っては生滅
もう行き場のない部屋=僕

屋上に一番近い階段から、もうやってられないって紙飛行機にして放り投げたプリント。時間ないし、自分の気持ちを表現しようにもどうにもならないよ。振り返ったら、毎年学年は上がっても大して成長せずにいつも同じことやってるなぁ。8月が終わったら9月になって二学期が始まる、そうなると長い夏休みも終わり。それまでに終わらせられるのかな。缶詰状態で宿題やらなきゃ…どこにも行くところ無いよ。

長い夏休み、大変な宿題も中にはありますよね。例えば、読書感想文や自由研究です。これらはワークブックやドリルの問題を解くのではなく、自分がどう感じたか、自分の観点で疑問に思ったことなどを研究し表現するものです。自分の感情を述べる=「哀愁論」なのかな、と思いました。長文を書いて、まとめるのを投げ出したくなる人もいるでしょう。それを「簡単に放り投げた」と書くのがおもしろいと感じました。小学生の時、学校でもらったプリントで、紙飛行機を作って飛ばしたことありませんか?そんな光景が目に浮かびました。
2番が始まる直前には本をパラパラとめくる音が組み込まれていますが、これも「はぁ、宿題やるのめんどくさいなー」という気持ちを表現しているようです。

柔らかな緑はただ
僕をやり直させようと必死で
ままごとを続けた
木をねぇどうしたいんだ
自由は 強打

自由な時間を過ごせるのは幸せだけど、自由には責任が伴うことが分かった。自由気ままに遊んでたら、そのツケが最後に回ってきて大ダメージ受けてる…。

初めてこの曲を聴いた時、「強打」とは何かよく分からなかったのですが、考察を進めていくと、自分が受けたダメージを「強打」と歌っているのか!と思いました。

巻き込めないよ 回り込めない夜更けは
眉唾の眼で張り裂けそう 弱いんだよ
無理に笑うように変わった あの日から
気づいてたのに
時空は 遠に先走ってゆくよ 僕の前を

自分のせいで人を巻き込んで迷惑かけてごめんなさい。でも、そうならない様に夜更かしして、「これで合ってるのかな」とか自分と相談しながら、なんとか一人でやろうとするんだけど、眠気にはめっぽう弱い。「宿題やんなきゃー」とか考えながら、それでも無理して笑って遊んでた時から分かってたことなのにね。ああ、時間が過ぎるのはホントに早いな。

わかっちゃいるけど、やめられない、好きなことはやめられない人なら誰でもわかるかと思います。

ねぇどうしたいんだ
今日が何度目の季節だった

私、自分のことどうしたいの?何回目の夏休みなんだろ、いい加減学習しないといけないよね…。

やっぱり何年経っても、遊びたいときには勉強を放り投げてしまいますよねw

もう吸い込んだ空気で
認めてしまいそうです
未完成で低姿勢で 気持ち任せです
乱暴に手を振った 気配に負けそうです
僕のSOSは 君のものって 思い込みたい夏

ため息を漏らされると、自分のせいで困ってるんだろうなって…。自分の非を認めざるを得ないよ。(中略)でも信頼してるから助けを求めたのは、わかってほしいな。

大切に思っている家族、家族の人たちもACAねさんのことが大事なんでしょうね。だからこそ、知らないフリして放ったらかしにできなかったのでしょう。お父さんやお母さんやお姉さんに泣きついて、「手伝ってよー😭」とせがむシーンを想像し、幼い可愛らしさと哀愁を感じました。

夏休みの切ない終わりと、「期限までにやらなきゃならないことはしっかりやろうね!」というメッセージが込められた曲だと考察しました。ますます親近感が湧く人物像に、これからも応援したいという意思が強くなりました!

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