ガリシアの総力!セルタ・デ・ビーゴ:王者との激闘
全国レベルで結果を残すためにガリシアのクラブが結集して創設されたガリシアの総力にして希望。前半戦のラ・レアル戦など、今シーズンスペクタクルなサッカーを演じ続けている。そんなセルタが今シーズン最強のアトレティコのホームに殴り込んだ一戦を例に、魅力を解き明かします。
攻撃の狙い:最強の泣き所
この試合もいつもと同じように532で入ったアトレティコ。予想していたセルタは、キックオフ直後からアンカーのタピアがダウンスリーの数的優位を形成。そのままSBを押し上げる、、わけではなく、少しの前進にとどめます。
というのも、WBが出てくるか中盤3枚からIHが対応に来るかという判断を迫るためです。アトレティコの3バックはとにかくゴール前を固める意識が強く、人を捕まえたりスペースをカバーしに行くという意識がかなり弱いですので、どちらが出てきてもどこかに穴が開くことになります。
例えばマルティンにボールが出てジョレンテが対応に来た場合、内側のノリートやアスパスがその裏を狙いに行きます。
3CBがカバーに出てこないので中盤の選手がカバーに入ります。それがコケであったりコンドグビアでったりするわけですが、いずれにしろ中盤が大胆にスライドするわけです。
これはコケが出ていった場合でも元々居たスペースを埋めるためにやはり中盤がスライドしてきますので同じようなことが起こっています。
そうすると、逆サイドに振り直されたときに中盤のスライドが間に合わないんですね。先制点のシーンでもブライスメンデスががら空きになりました。
そのまま大外のウーゴマージョに展開され、メンデスにインナーラップされて詰めれないところを簡単に差し込まれて終了。ニアにメンデス、マイナスにアスパス、センターにミナと中盤の援護がなく晒されたフェリペの3方に完璧な飛び込みを決められ成す術がありませんでした。
アトレティコの逆襲:懐刀343
先制後、アトレティコはまたもやお決まりの攻撃時343を使い始めます。
コンドグビアともう1人、サウール・コケのどちらかが中盤に残り、あるいはコンドグビアだけを残して2人とも前線に入ります。いずれにしてもしっかり5レーンに人を置いていきました。
本当になんで先制されるまで攻撃時も352を続けるのかはあまりわからないですが、、一応リスクを抑えつつ先制点を奪いたいという思惑があるのでしょう。結果は裏腹ですが。
序盤の532の形では、442で守るセルタの中盤のラインをうまく超えられずに苦しい時間が続きました。前線2枚がボールを追い回し、1人はボール、もう1人は同サイドに選択肢を限定。4枚の中盤がスライドしてWBにも対応され、中盤も相手に封鎖されました。前にスアレスが孤立し、バックラインもガッチリブロックで守っています。クラスターによって人材不足に陥っている現状もありますが、インナーラップでハイラインの裏を突く得意な攻撃ができませんでした。
who scoredによると、先制点までのセルタのポゼッションは67%を超えています。しかし先制点からハーフタイムまでのポゼッションはほぼ5分で、30分以降となると4割まで減少しました。
そして前半の終了直前、ゴールキックからのビルドアップをセルタが捨てました。この時間帯は押し込まれていたので一度全体を押し上げたい気持ちがあったのかもしれませんが、アトレティコの得意な状況を作ってしまいます。
肉弾戦で圧倒し、ハイラインの裏のスペースをつくという最も強みが出るパターンをやらせてしまいました。弱気になった一瞬、最終的にジョレンテの馬力、スアレスのゴール前の嗅覚という個の力でねじ伏せられました。
逆襲に次ぐ奇襲
後半、アトレティコが仕掛けます。今シーズンの鉄板532を捨てて伝統の442守備へ。よりハイサードに強く、タイトに。前半の終盤同様、フィジカルで圧倒しに行きます。他の中堅チームとことなり、セルタは戦術とテクニカルな部分の比重が大きく、純粋な肉弾戦に長けたチームではありません。自分たちの強みを前面に出して勝ちに行ったというところでしょう。
対してセルタは、相手の変化に気づかなかったという感じに見えました。WBかIHを引っ張り出す目的で高い位置に行きすぎなかったSBがそのまま4枚の中盤のラインを越えられなくなり、結果的にパス回しは目詰まりに。
アトレティコの勝ち越しゴールも、詰まったところに降りてきて打開しようとしたアスパスが囲まれて奪われました。陣形が変わったことで混乱し、守備も対応できずにあれよあれよと失点。大雑把な攻撃でやられてしまいました。
後半立ち上がりのアトレティコの攻撃の形はオーソドックスな4231。
442から前線が縦関係に、ウイングがライン間へ。サイドバックが大外を取りに行き、相手SBに対して数的優位を作って5レーンも確保。数的不利をウーゴマージョが気づいたときにはもう遅く、フリーで大外をロディーに駆け上がられてしまいました。2CBも完全に予想していなかった感じで出足が遅れ、スアレスにあっさり決められました。
ここでマージョは気付いたでしょう。相手は4バックで、攻撃の時は4231だと。SBが絞ったWGを追い越してくる動きはこのご時世珍しくも何ともないのでやられた後に分ったでしょうが、見事に奇襲されてしまい、一発で仕留めました。
空いたワイドレーン
キックオフ直後、ウーゴマージョは相手WGより高い位置を取りに行きました。2トップで2CBを追いに行ってボールの出所をつぶしに行き、中盤もそれに続いてタイトにプレッシング。相手SBに自由にやられるのを阻止します。こうしてペースをつかみ始めたセルタはアトレティコの勝ち越し点以降、70分にノリートとソラーリが交代するまでの時間帯ポゼッション率が6割に。主導権を取り戻しました。
しかし、左SBのマルティンはいかんせんポジションが低いままです。左サイドからの攻撃はほぼありませんでしたし、当初のプランと違ったからなのか攻撃にちぐはぐさが目立ちましたね。
そして終盤アトレティコの選手のラフプレーが一気に増えました。442になって各々が個人で頑張らないといけない部分が増えた戦術的な理由、ボールを多く持たれて単純な疲れなどによりテクニカルでスピーディーなセルタの選手についていけなくなった結果でしょう。結果論ですが、同点弾の兆候はここら辺に出ていたように思います。
最終的に横に振られて対応できなかった上に守備陣の連係ミスもあって1点をもぎ取りました。意図的かはわかりませんが、4バックにした相手の右サイドを繰り返し突いて、一発ものにして意地のドロー。戦術的駆け引きが勝負を決めた熱戦でした。
総括
両者の戦術的駆け引きが得点に直結し、結果として現れた試合となりました。この試合は大きく分けて、得点数と同じ4つのフェーズを進んでいきました。
①セルタの先手:532の中盤を攻略するためにSBがWB,IHを引き出す。
②アトレティコのギアアップ:343に変更、本気モードに。
③アトレティコの奇襲:4バックにして両SBを攻撃参加させる。セルタが対応しる前に得点。
④セルタの挽回:4バックのサイドにできた2レーン、ワイド・ナローを集中的に攻撃。体力・戦術的な疲弊をついて同点弾。
それぞれの時間帯で、お互いの対応が面白いように支配率に反映されました。それが得点につながっており、今期アトレティコの強さの秘密もセルタの地力も出た魅力的な試合でした。
特にセルタのワイド、ハーフレーンを上手に使ったサイド攻撃はセビージャとはまた違った魅力があります。先制点のシーンもそうでしたが、ハーフレーンを選手が走り抜けた後にできたスペースでボールを引き出す選手がおり、逆サイドへの再展開やそこを起点にした2次攻撃など多彩さが光ります。リーガでこの部分がしっかりしているチームは意外に少ないセルタの魅力でした。
攻守共に戦術的でスピーディー、なおかつテクニカルなサッカーというリーガ全体の魅力も詰まった好ゲームの紹介でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。