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「企業危機管理の基本と実践」のnoteを始めます

はじめまして。弁護士の浅見隆行です。
2000年に弁護士になった直後から企業の不祥事対応、要するに企業危機管理を中心に仕事に取り組んでいます。

自己紹介がてら、企業危機管理をテーマにしたnoteを始めることにしたきっかけをご説明したいと思います。
短くしようと思いましたが、書き始めたら、ちょっと長くなりすぎました。

企業危機管理との関わり

2000年10月に私が弁護士になった頃は、雪印乳業集団食中毒事件(2000年6月)や三菱自動車リコール隠し事件(2000年7月〕をきっかけに、「コンプライアンス」という言葉がちょうど世の中に出始めたばかりでした。
私が就職した中島経営法律事務所が企業危機管理を専門とし、コンプライアンスの第一人者とも言うべき中島茂弁護士が代表をしていたこともあり、私も必然的にコンプライアンスの業務を中心に行うことになりました。

もっと遡れば、これは必然でした。
元々、私は、子どもの頃にテレビで報じられていた企業の不正をなくしたい、そのために検事(検察官)になりたい、というのが、司法試験を受験した動機でした。
しかし、司法研修中に企業危機管理の存在を知り(2000年当時は企業危機管理というのはとてもマイナーな分野で、多くは、反社会的勢力や悪質なクレーマーの対応を意味する程度でした)、「不正が起きてから対応するのではなく、不正が起きないようにしたら良いのではないか」と検察官志望から企業危機管理を専門分野とする弁護士になろうと進路を変え、中島茂弁護士に師事することにしたのです。

さて、私が弁護士になって一番初めに行った仕事は、企業の土壌汚染をきっかけにした危機管理案件でした。
右も左もわからないうちから、土壌汚染をきっかけにした地域住民への説明会の実施、行政への報告対応やマスコミへの記者会見対応など、企業危機管理のど真ん中に立たされたのです。
これがきっかけとなり、その後は、企業危機管理ばかりを20年以上取り組んでいます。
企業に押し寄せる政治結社の街宣車に対して身体を張って抵抗する、いわゆる総会屋やプロ市民などのコントロールができない会社の株主総会をサポートする、個人情報を漏えいしてしまった企業の個人への謝罪など・・・。
一般的に世の中の人たちがイメージする訴訟中心の弁護士や、ドラマなどに出てくる格好いい渉外弁護士とは全然違った仕事をしていると思います。

8年前からは、宣伝会議が発行する「月刊 広報会議」で「リスク広報最前線」と題した連載を続けています。
連載当時は危機管理広報という言葉自体があまり認知されていませんでしたが、今では毎年1月号は「危機管理広報特集号」になるほど、企業のニーズは高まっています。

また、私が「危機管理広報の基本と実践」という本を出したのも、この連載が始まった頃(2015年)です。
危機管理広報が今ほど注目されていなかった頃に書いたもので、SNSが今ほど浸透する前に書いたものですから、内容が少し古くなってしまいました。きっかけがあれば、改訂版を出したいと思っています。


企業危機管理を取り巻く環境の変化

私が20年以上企業危機管理に取り組んでいる間に、世の中は大きく動きました。

1.コンプライアンスの浸透

まずは、コンプライアンスの浸透です。
2000年にコンプライアンスの言葉ができ、コンプライアンスが浸透してきたことをきっかけに、企業が不正・不祥事を起こすことがそれまで以上に忌み嫌われ、企業の信頼喪失・信用低下に直結する時代となりました。

今では多くの企業が当たり前のように行っているコンプライアンス教育が始まったのも、2000年以降です。私もコンプライアンス教育を行うための集合研修の講師やeラーニングの教材作成などには多く関わり、今でも多く行っています。

2.ガバナンスや危機管理の法制度化

次に、2005年の会社法成立による、コーポレート・ガバナンスや企業危機管理の法制化です。
企業が不正・不祥事を起こさないように組織的に取り組むこと、起きてしまった後にはキチンと事後対応することが法律によって義務づけられたのです。
その後、グループ・ガバナンスとして、グループ全体での取り組みが求められるようになりました。

これをきっかけに、現在では、不正や不祥事を起こした企業の多くが、危機管理委員会や第三者委員会のようなものを作るようになりました。第三者委員会を作れば免罪符になるわけではないとは思いますが、それはまた別の機会に投稿します。

3.その後の環境の変化

さらに、2006年頃には企業の社会的責任(CSR)が求められるようになりました。ダスキン事件判決において危機管理広報の必要性が指摘されたのも2006年です。
2016年には日本取引所が「不祥事対応のプリンシプル」を公表し、上場会社に適切な危機管理対応を求めるようになりました。その中には、危機管理広報も含まれています。
2000年当時から口酸っぱく言っていた危機管理広報の重要性が、ようやく公に認められることになりました。

noteを書くことにした理由

やっと本題であり、まとめです。
この度、私が「企業危機管理の基本と実践」と題してnoteを始めることにした理由について、です。

以上で説明したように、2000年当時は日の目を見なかった企業危機管理が、今では法制度化され、世の中に当たり前の存在になったのは隔世の感が否めません。
不正や不祥事が起きないように企業が取り組むことは、それは非常に望ましいことです。
しかし、従来から企業危機管理に取り組んでいた者としては、現在、多くの企業が取り組んでいる内容や世の中の動向を見ると、「そうじゃないんだよな」と隔靴掻痒な部分もたくさんあるのです。
目的を理解せずに表面的な取り組みしかしていないケースがあまりにも多いと感じます。
そこで、企業危機管理の基本的な原則とその背景にある考え方、実践でのノウハウの一部を伝えていきたいと思って、noteを書くことにしました。

冒頭にも書いた月刊広報会議での「リスク広報最前線」の連載や拙著「危機管理広報の基本と実践」でも考え方を中心に説明しています。
noteを安易なマニュアルにはするつもりはないので、相当理屈っぽい内容が多いと思います。
また、現在進行形で起きている不祥事をタイムリーに取り上げるよりは、ある程度、不正や不祥事の内容がまとまったところで解説するようにします。

もし興味があったら読んでいただけたら幸いです。


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