「あしたのあたし」トークゲスト:細馬宏通
2018年11月3日に三鷹SCOOLにて行われたワークインプログレス公演「あしたのあたし」。ゲストに細馬宏通さんお招きしたアフタートークの模様を(ほぼ)ノーカットでお届けします。
■部屋に散らばったビーズを集める時は裸足になると足の裏にビーズを感じることができて集めやすい
吉田アミ(以下アミ)よろしくお願いします。
細馬宏通(以下細馬) はい。
アミ この部屋にようこそ。
細馬 この部屋なんですね。(ごちゃごちゃしたものが一通り、収まった舞台を見渡して)片付くね、大人数でやると。
アミ 今日は結構手伝って貰ったんですけど、昨日まではずっと、(立川)貴一くんと2人だけで、黙々とやっていたので辛かったです。
細馬 だろうね。掃除って沢山でやると早いね、直近の感想。
アミ 直近の感想(笑)。あと、部屋に散らばったビーズを集める時は裸足になると足の裏にビーズを感じることができて集めやすいっていう。
細馬 それは足の裏にめり込んだ物をこう……。それは凄い集め方ですね。確かに手でこう やってくっついた物を取るっていう。
アミ そうですね、意外と小さ過ぎて、落ちていることにさえもに気付かないんですけど、足裏によってどこにビーズがあるかわかるっていうことを今回この作品を通じて、わたしは知りましたね。
細馬 ね? 小さなお子さんのいる所だと飲み込んじゃったら大変だから、お母さんが足裏で感じながら集めると良いかもしれない。
アミ そうですね。良いと思います……。全然関係ない話なんですけど。気になったので。
■演じる時の基本的な声って何だろう
細馬 お芝居の話ですよね。
アミ はい。いかがでしたか?
細馬 いやー……、なんっすかね、かなり身内感がすごい。
アミ 身内感(笑)嫌がらせとしか思いようがないっていう。パートナーが主演ですし。
細馬 そうですね、えっと、劇の中にホソちゃんっていうのが出てくる。
アミ ホソちゃん(笑)。そうなんです。
細馬 うちでもホソちゃんと呼ばれてまして、あの、まっ、そのまんまですよね。
アミ そのまんまなんですね。わたしは知らないまま、この台本書いてますけど。
細馬 それはともかくね、えっと面白かったのは、今回、Yuko Nexus6(以下Yukoさん)の語り口と言いますか普段の喋り方というのは、本当に身近でよく知っているんですよね。で、今回、聴いてて、ほぼそのまんまだったんですよね。それは結構、面白い問題だなって思って。つまりね、演じる時の基本的な声って何だろうっての考えちゃったんですよ。他の二方(三宅里沙、清水みさと)はむしろ、ハードルが高い、誰かがこうナチュラルに言ったことをもういっぺん自分のいつものトーンに翻案して、声だけじゃなくて身体も翻案している。だから明らかに(録画された)ビデオとは違うライブだよね。
アミ そうなんです。おわかりいただけましたか?
細馬 同じ語りなのに。それを見ながら私たちはこう自分の語り口というのを、いつの間に身につけるんだろうね。今日(の劇)はかなり変なことだよね。
アミ ビデオを撮るっていう行為が他人に見られるっていう行為ではなくて、完全に内省になってるんですよね。Yukoさんのビデオを撮るという行為は。普通だったらYoutuberとかなら自分じゃない他人に向けてビデオを撮るんですけど、あれは完全に誰とも言えない自分自身に向けて日記を書いているっていう。この語りは誰に向けているのだろう?と思って。なぜ、書くのか。なぜ、語るのか。にせんさんねん、と語りはじめるあのときの気分。あの瞬間にしかないものがあると思うんです。
細馬 そうだよね。
アミ すごい気持ち悪い……気持ち悪いって言ったら、絶対的に失礼なんですけど、見たことない、すごい、すさまじいものを見せられたと思って。あれ。あれって、あのビデオですけれど。なんで、わたしに見せてきたのか。
細馬 とりあえず、(Yukoさんの宅録ビデオ)カメラ、近いですよね。
アミ 近い! 今だったらYouTuberとかいるから、あういうふうに1カメで自分の言いたいことを語るっていうのは今は、YouTubeでは出てきているスタイルだけれど。でもやっぱりそれはカメラの向こうの大勢へ向けての内容なんですけれども、結局、あれ(Yukoさんの宅録ビデオ)はカメラがある必要性っていうのがどこにあったんだろうみたいな話とかも(Yukoさんに)ちょっと伺ったりとかもしてて、どういう事なんですかね。すごく不思議なんです。
■ドキュメンタリーが背景にあったとしても、こうして作る以上、フィクションでしかない
細馬 私はあれ撮っている家の間取りとかも分かってるんですけど、結構狭いんですよね。Youtuberだったら、もっと自由のきく所、たとえ座っているにしてもある程度自由のきく空間っていうのを作って、それで喋ると思うんですけども、わりとそんな動きまわれる空間じゃない所で喋るっていうのはちょっと不思議な感覚ですよね。
アミ あの今、ちょっとお伺いしたいのが、トイレの前あたりにカメラを設置していて、でも鬱でちょっとやる気無いけどトイレには行くからその時にちょっとでも録画しておくっていう……?
Yuko あれはカレンダー(トイレに設置してある)にパンダの絵日記を書くっていうやつで、別に映像を録画するためではなかったです。
アミ あ、混同してましたね、混同したままそういう設定をしていました(笑)。生理現象という自分ではコントロールできない現象をきっかけに、録画するっていうルールだと思っていました。あ、これ、その、誤解したままそこは演出になっています。あのー本当に台詞に関してはそのままではないんです。かなり変えてますし、利用して……利用してっていう言い方も失礼なんですけれども。もちろんそれは、原案という形で考えていて、あくまでも自分の中で一回、一度こういうものだっていうのの中で作り直したっていう。なんか、言ってほしくはない、聞きたくない声は消し去るっていう。けっこうわがまなな、世界の再編集。だって、どれだけドキュメンタリーが背景にあったとしても、こうして作る以上、フィクションでしかないから。だったら、嫌いじゃない世界になってほしい。
細馬 まっ、だからフィクションでもあるんですよね。だからなんだろうね、別にYukoさんだけじゃなくて僕もそうだしアミちゃんもそうだし、他の人もそうだと思うんですけど、僕らは年月をかけて自分の語り口をまず作るんですよね。で、一旦作っちゃうとほぼどんな言葉でもやってこい!って感じになる。別にこれは誰か1人の話を聞いていた対応ではなくて、ここにいる大抵の人はですね、大体、自分がこういうふうに語るよねっていうのは段々育ててきてて、そこに自分には無い新しい言葉とか新しいフレーズがやってきた時に、こう接ぎ木をしてなんとかしちゃいますよね。そのプロセスが面白い。ただその接ぎ木をする時に、例えば誰かが面白いフレーズを言ったとするでしょ。それを即、自分のものにするかっていうと多分ね、他人の抑揚とか他人の声の強弱とかが残ってて接ぎ木される。だから、新しい言葉を覚える時は大抵、他人がちょっと入っている。今日のお二方(三宅&清水)も、多分、Yukoさんの口調みたいなものを半ば、接ぎ木しながらやってる。その接ぎ木部分を感じちゃうんだな。なんて言うんでしょう、他の(Yukoさん以外の)人から、ホソちゃんって言われるとぞわっとする(笑)。
アミ ぞわっとしますよね(笑)。個人的な語りが、少し残ったまま誰かの声で発声される。わたしはそのグラデーションみないなものに可能性っていうか、救われるような、なんというか、面白みを感じます。
細馬 なぜ、「ぞわ」ってするかっていうとそこに例えば、清水さんだったら清水さんの声なんだけれども、半ば、Yukoさんの口調っていうのがそこに接ぎ木されているのね。で、それが僕は分かっちゃうんですよね。だからフィクションだと分かってるし、他人の声だと分かっているのにちょっと「ひっ」て感じがします(笑)。
アミ なんか、自分の知ってるものが違うものに変わっていく様ななんか恐ろしい感じがする?
細馬 そうそう、面白い一方でとにかく「ひっ」て思います。
■演出家と役者という序列ではなく、すごく親しいもの
アミ 残酷なやりかただ。でも、演出としては彼女たち2人には自分の中にある共感出来るYukoさんの部分を抽出してやってくださいっていう話をしてたんです。最初、「鬱日記」の部分って、あまりにも個人の言葉過ぎて、覚えにくいって言われて。えー、そうなの? って、わたしも役者って、なんでもできるのかな? って思ってたし。わたしたちと彼女たちの関係は演出家と役者という序列ではなく、すごく親しいものでした。自分にないものでも演じられるのが役者じゃないのかと。ひどい話ですけれど。ふむふむ、こういうやり方は非人道的なのかもとか、作りながら気がついたところも多かった。自分のなかの共感できる部分を引き寄せてもらえればいいだけで、ほんとうはそのまま、一言一句間違えずに言うことが正しいわけではないんですけれど。そこがけっこう、最初、壁みたいな、演者とわたしたち演出チームが考えている理想と離れてるかなって。難しくて覚えられないって言ってて(短期間であそこまで覚えた彼女たちの能力はすごぶる高いので誤解なく)、他人の言葉だから他人の生の言葉ってこんなに覚えにくいんだって。でも、それでもすごい頑張って覚えてくれて。わからないものもわからないまま飲み込んでくれたっていう。三宅もみさっちゃんもすごい。この二人に頼んで良かったなって。すごい、すごいって、思いました。この二人じゃなきゃできなかったっていう。それで、やっと、昨日おとついくらいに動きを入れようって話になれて。動き。動きをつけるまでにまだ時間がかかった。それまではやっぱりビデオ日記にトレースでしかなくて。正解はYukoさんの言動。みたいな、そうじゃなくって、わたしはふたりのそれぞれが透かしてみえるのが理想で。あまり動かないで鬱っていうのもそうだしっ! ていう話だったんでだけれども、動きでまあ、感情みたいなものを表現するっていうふうにしたり、似せ過ぎないような、特に最初の台本の読み合わせしている時は身体は絶対に動かないから、台本の文章をただ読むだけになっていて。みんなで、ただ読んでるだけになっちゃった感じなんですけど。動きをわりと今日とか、突然、すごい三宅の動き、めちゃめちゃ変えた。貴一くんが突然、飛び上がって、あ、この部分、実際、絵を描かせるのが面白いよなーって、わたしが思った瞬間同時に、あーそれを、あとで指示するのかなーって思って見ていたら、走って、使っていなかったチョークを手に持って、あれ? なにしてんのー? って思ったら三宅に持たせて、左でみさっちゃんはそのまま、演技を続けていて、なんか、指示してんなあとか、他人事みたいにみていた。あ、これ、絵っていう言葉をきっかけに、動きにつけるのか。あ、それ、ちょういいじゃん!みたいに。演出ブースに戻ってきたときに、おお、やるじゃん。って思った。2人のこう、存在っていうのが、鮮やかに浮かびあがったような感じで、自分は良かったなって。
細馬 それは面白いよね。
アミ あの瞬間がじつに演劇的だった(笑)。
細馬 だいたい僕らが他の人の話を聴いて面白いって思ったり、そのフレーズいただきっとか、その言い方好きって思う時って、ごく短いと思うんですよね。諺くらい(の長さ)だと思いますよ。世界で一番最初に「猿も木から落ちる」って言った人って、多分すっげー魅力的な声でそれを言ったと思う。聞いた人は、フレーズの内容だけじゃなくて、その声に多分やられたのね。まるごといただきっその言い方も含めて、ってんで広まったのが「猿も木から落ちる」。
アミ「光あれ!」って(笑)。聖書みたいに。
細馬「見よ!」みたいな(笑)それくらいの長さ、僕らの共用できるのは。だから僕の僕なりの語り方の中に時々、「猿も木から落ちる」っていうフレーズが入ってきてる訳ですけれども、それは違和感無いよね。ところがね、1分とか3分とかまとまった語りって多分そういうんじゃ済まないんですよ。単にあっそのフレーズいただきっとか、その言い方良いねとかいうのでふっと接ぎ木するだけじゃなくて、もうその人のこう枝だけじゃなくて幹みたいなのがちゃんとある事だと思うんですよね1分や3分の事は。それをもういっぺんトレースしようって思ったらまず自分じゃないからね。
アミ そうですよね。
細馬 じゃどうするかっていうと、新しいやり方を編み出すんですよね人は。その中でさっき言ってたその為にやっぱり色々。例えば、あのこう後ろ向いて壁に(身体全体を)ばたってやると、こうやる(手をふったり)とちょっと良い感じとか、色々編み出していくんでしょうね。
■鬱日記辛かった
アミ そうですね。後、鬱日記をずっと練習していたんですけど、ちょっと数日前にオープニングの方をやったら、みんな、めっちゃ楽しそうになって。オープニングの踊ってるシーンあるじゃないですか、紀伊国屋で買い物するっていうシーンをやったら、「ひゃ~」って明るい感じになって、ちょっとそれが対象的で鬱日記辛かったんです、マジで……みたいな感じになってて。やっぱり、自分自身のそれと、共鳴してしまう部分があったりとかして、だからわりと凄い対象的でそのシーンが楽しく出来たっていうのがあって。あれはあの瞬間、作れてよかった。
細馬 最初のところはね、躁うつ相哀れむじゃないんだけど、2人いてさあ、あのグルグルとダウンダウン系とアップアップ系が周って(動いてて)。
アミ あれはどういうふうに捉えましたか?
細馬 三人を?
アミ そうそう。2人はツインなんですけど。
細馬 まっ、なんとなく冒頭だけ見る限りね、別に躁うつで役割が決まってる訳ではないんですよね?
アミ そうそう。
細馬 1人の中の似ている人がもう1人そこにいるという感じに見ていましたけどね。その解釈は色々あるだろうね。
アミ 解釈は人それぞれなので、確定したいわけでもないし、その場にキャラクターが決められていない、それぞれの背負った自分自身がある状態でいてほしかった。
細馬 オープニングもそうだけど、じゃんけんあったよね。なんなのあれは? 創作?
アミ 創作じゃないです! あれは大谷能生さんの実家の青森の八戸に帰省した時にたまたま見て印象に残ったそうで。大谷さんのブログにも、書かれているんですけど。子供たちが遊んでいる遊びで。これ、けっこう気持ち悪いよなあってずっと思っていたんですが、作品作っているときにふっと思い出して、貴一くんに見せたら「これ良いっすね」って話になって、あっ、いただこうってなりました。10歳まで生きた子にはチョコレートをあげよう!って。生きていることだけでも肯定。
細馬 あれ、なんて言ってたっけ?
アミ この世にいない、生まれたばかり! 1歳、2歳、3歳……。って言ってて。ゼロ歳……、この世にいないところから、人がはじまるんですよ。
細馬 天才的だよね。誰が作ったの? 猿も木から落ちる並みの天才だよね。
アミ 青森だからイタコに関係するんじゃないのかって(笑)。生まれる前のことってあんまり思い出したりしない。ってか、考えない。
細馬 だって最初にこの世に居ないって言ってるし。あの、それ、真似たいよね。
アミ 真似たいね。
細馬 俺もやりたいと思ったもんね。
アミ 「この世に居ない!」ってまだ産まれてなかった……。って、大人がそのゲームをしている子ども達が怖かったって。なんか、産まれ直しって、人の人生が同じ人に交わったりみたいな感じであったり、けっこう効果的に綿密に光を付けたり消したりっていうのは意識して演出に入れてたんですけど、それは日がまたぐみたいな、ページをめくるとか、そういう感覚的な所の動作でリンクさせていって、演出はしていったところなんですけども。このへんは話して決めてないところなので、このあと違うよとか、なりかねないですけれど。
細馬 2人が交代する所(の演出)は面白かったですよね。
アミ なんでああなったのか。でも、あれでしかなかったんです。
■宅録って言葉があるんだけど宅演出みたいだよね
細馬 っていうのはさ、人と人が喋る時に起こる事みたいに思ってたんだけれども、たいていの場合、Aさん喋るBさん喋るって1秒おきに喋ってるわけじゃないじゃん。Aさんが喋ってて、のりしろがあって、Bさんが喋って逆にAさんが喋ってる時にBさんが被って喋る時とかという事はよくあるよね。実際は、そういうAさんの言葉とBさんの言葉のオーバーラップの部分があったり、それが暴れたりっていうのを繰り返してて、僕らはなんとなく会話を楽しんでるよね。内容だけじゃなくてね。その伸び代が付きすぎたり、オーバーラップしすぎたりっていうのを楽しんでるよね。なんかそういうのを感じましたね。
アミ 音は凄い意識してやってて、照明は貴一くんにまかせてて。すごかったんですよ、全ての身体を使って。でも、いっこも嫌な部分なかったから、あ、この人に任せても大丈夫なんだって安心した。
細馬 僕、右側に貴一さんいたので、彼の演出の所作がよく見えたんだけど、オープニングのとことで口にライト咥えて、右手でフェーダーをいじってみたいな。あれ凄かったですよね。
アミ 身体を全て使いました!みたいな。頑張りました的な(笑)。あれも別にそうしてくださいって、いったわけじゃなくって。勝手にそうしていた。それがうれしかった。
細馬 いや、なんだろ、本当はスタッフが何人かで分担するんですよね?
アミ そうなんですよ、本当に。助けてください(笑)。演出家ってもっと楽な仕事なんじゃないんですか?
細馬 えっとなんだろ、一人でやってる感がすごかったです。
アミ 一人っていっても、二人で全部話しながら決めてったんですけど、貴一くんとは、3年前に一緒の舞台でやったときが会っただけで、ほぼ喋ってないまま、ぶっちゃけ、この人とは話合わなそうだなって、会ったときは思ってました。公演の、20日くらい前に会って、なぜかうちに来ることになって。わたし、シェアハウスやってるんですけど。その間も、1週間くらいいなくて、その後に1週間くらい経って再会して。で、起きて、寝食を共にして、寝ては起きてはそういう(演劇の)話をしててって。なんかこういうふうに作品を作ったことははじめてで。いまだになんだかよくわからないです。わかりやすい関係に落とし込もうとしても、それをいつもはみ出してしまう。
細馬 なんだろうね、宅録って言葉があるんだけど宅演出みたいだよね。
アミ 確かに、本当そうですよね。あの舞台にあったものはぜんぶ家にあるものなので。
細馬 ひと部屋の中にフェーダーが2つあって並べてて、しかも隣だからすぐ伝わるじゃないですか。そっち明かり要るから上げといて、で、こっち音こうするぞとか。2人で譲り合いもしながら。
アミ けっこうやってる人、居ないと思うんですよ、こんな頭おかしいこと。イカれてる自覚はあります。
細馬 かなりのダブめいてるよね。
アミ そうそう。それでもやっぱり、距離が合わなかったら、絶対。喧嘩になってたし。そのほうが多い。たまたま、たまたまですよ。ほぼ知らない相手と、考え方が似ていたり、趣味が似てたりして、物を(舞台に)置いていく時にもやっぱり色を考えながら配置したり、何かが落ちた時の物音の配置方法とかも、たまたま好きなものが似てるっていうのが救われましたね。ずっと2人の孤独な世界でこの世に2人しか居ないみたいにな。つれー! みたいな。誰か早く降りてきてくれないかなって。
細馬 色々なテクニックがいると思うんだけど、基本スイッチとフェーダーだよね。スイッチとフェーダーだけでこれだけの変なことが出来るってのは面白かった。
アミ でしょ!?
細馬 まあ普通はどっちかなんだよね。光か音か。普通はそれはそれで分業でやって。ちょっと離れた所でこういう音出してるからじゃあこっちで照明上げてやろうみたいな。
アミ うおー。そこわかっていただけるのはめっちゃうれしい。うん、そうなんですけど、このオペレーション自体が相当おかしいんですけど、やりながら手止めて、もうそれやるの?みたいな(笑)すぐ物壊しちゃうんでみたいな、自分が壊しそうになったら止めてね?とか。なんか一人でいると、ダメな方に行きがちな二人が監視しあっているのが演出。
細馬 演出でいうとそうだね物だよね、なんかこう高音っぽいですよね。
アミ そうです。つねに関係ないところでわんわん鳴ってる。われわれはどこにも属せない野良演出家です。
■白い部屋がとにかく落ち着かないから自分の物を置く
細馬 つまり、ぱっと見た時に引っ越し先のがらんとした所で居心地が落ち着かないので、とりあえず身の周りの物を汚してやれみたいな感じあるよね。白い部屋がとにかく落ち着かないから自分の物を置く、ひょいひょいっと置いて、ちょいちょい汚していくとようやく落ち着けるみたいな。恐るべき子供達が毛布かぶってちょっと落ち着くみたいな。
アミ 不安を安心させていく作業。そうです。見に覚えのないものだけだと不安になるから。安心するために、あの美術はあった。
細馬 どうでも良いけど、吉田アミが賞を獲った時のトロフィーですよね(後ろの舞台を向いて)」
アミ トロフィーが雑に置いているっていう(笑)。日本で3人くらいしか持っていないという。大切なものを雑に使いがちなんですよ、この演出家チームは。
細馬 それなりに思い入れあるものだったりする?
アミ 思い入れがあっても見たくない物もあったりする。けっこうどうなの、お店で買える物かな。例えば逆にぬいぐるみもそんなに自分は集めてなくて、こんなにいっぱい使う予定もなかったんだけど……。でも、わたし、前回の舞台作品(「あしたのきょうだい」)でも使っているから、わたしの趣味かなって思われるかもしれないけど。貴一くんがこのぬいぐるみを「ホソちゃん」なんです。って言ったから、この子(貴一くん)頭、大丈夫かなって(笑)。頭、イカれてるんですけれど。それでも、だから私じゃないんです(舞台にぬいぐるみを使用したのは)。」考えたのでは。でも、そうだなって。それはいいアイディアだなって。
細馬 みんなでホソちゃん、ホソちゃんって。流行らせないでくださいね(笑)。このぬいぐるみ、一応、私、に似せてあるんですね。
アミ それはホソちゃんだよって、貴一くんが言うから。メガネも、貴一くんが作った。そのへんにあった針金で。
細馬 ホソちゃんのぬいぐるみの影が途中(スクリーンで)ほわ~って出てたりして……。
■1人だけ世界と速度が違って3日が1日のような動き方
細馬 そう言えば、今日の劇のオチっていうのは、取り残されて終わっちゃったんですけど。
アミ そうなんですよ。そこで終わったのは、この公演自体がワークインプログレスだからで。本公演ではないのと、今日から明日へと続いていく、現状の自分のままで、終わりではないという事で、中途半端な希望とも絶望とも言えない様な狭間の所で終わらすというのがうちらの趣味だと思うんですけど、本当はもっと90分くらいの作品にして照明とかも色々スタッフを増員してやりたいんですけど、一回ここまでやってるんで絶対指示できると思うんですよ、2人でやったら。チャンスをわたしたちにください。
細馬 クラウドファンディングとか?
アミ クラウドファンディングもやるんですけど、F/TとかF/TとかF/Tとかどっかお金くれる所で出来る場所でやりたいんですけど。なんでくれないんですかね?
細馬 多分ね、今日終わった所でうわ~ここで、がさっと終わるのかというショックがあったね。そっかここか‥‥・。
アミ 鬱のお客さんとかも来てて、けっこう辛かったみたいな、さっきも2人くらい聴いて、そこがちょっとざわっとしたけど、自分も今同じ状態なので凄くよく分かったなという話も、それを話してくれただけでわたしはちょっと、やってよかったなって。思います。ありがとうございます。
細馬 鬱の人もそうだろうし、鬱家族も感じることけど、身近な人が3日間寝込んでるっていう、3日間のぬめり具合って独特のものがあって、時間が長いというよりは、粘液質の中を、うお~っと進んでる感じ。
アミ 1人だけ世界と速度が違って3日が1日のような動き方なんじゃないかな。そこを正して、同じ歩みにしようって。矯正するのってどれだけ暴力的なんだと。でも、出来ている人はできていない人にそうやって強要する。
細馬 で、家族から見るとね、ヤツが3日間起きてこないっていう感覚は、家にいない時でも鈍痛のようにやってくるので、普通のスピードで生活しているじゃん、そうするとその普通のスピードの生活がうにゅ~ってぬめっていくんだよね。3日寝てましたって言われた時に、そのうにゅ~感をまた思い出した。3日間寝てましたっていうのは単なる数字じゃないんですよね。粘液質のその色々あったぬめりを思い出すんですよね。思い出すって不思議な感覚ですね。別に3日間をリアルで体験するわけじゃないんですよね。
アミ 同じものを他人に体験させたいとはまったく思っていないと思います。あ、あと、ビデオに撮られていない部分っていうのが絶対あるはずで、2人で演出したっていうのは、やっぱりその撮られていない時のもう1人いた自分っていうのも常に意識して貰いたかったっていうので、結局、人って人から見えてる部分だけじゃないから明るいけど、裏ですごい闇を抱えていたりとかあるだろうし。
細馬 だから、ああやって誰に見せるでもないビデオ日記を撮っているからといってそれが本来の自分で、それ以外がそうでもないわけでもない。あのビデオに出て来れるっていうのはまたある自分で、あのビデオに出て来れない、出る気のない自分も沢山いるわけですよね。
アミ だからまあ途中で言葉をにごして終わっちゃった事もあるし、まあ色々バリエーションはあったんですけど、聴いてた人は、ほぼ寝てた、寝てたしか残ってなかった感じなんですけど(笑)。それでいいんですけれど。
細馬 「寝てました」って言うときも、「今日は『寝てた』っていう事を言おう」っていう時の「寝てました」と、色々別の言いたいことがあるのかもしれないなあと思ってカメラの前に座るんだけど「寝てました」って言っちゃって、そこで気持ちがフェードアウトするときの「寝てました」は違うのね。そういう違いはちょっとした語尾とかに表れて、それでやっぱり伝わってきますよね。
アミ それをドキュメントとして撮ったっていうのは宝だと思うんですよね。それを見せてもらった時に私の作品のために「ありがとうございます! いただきます。」って、人でなしがすぎる。人間として人でなしとしか言いようがないみたいな(笑)まっそれは演出を一緒にしている中で嫌な感じにはしたくないねと、凄く気をつけたりとかしてて、なんでそういうふうにするのかと言うと、自分も追いつめる事になるから同じ様に共感したりとかする部分もあって、途中、三宅とYukoさんが喧嘩してる所もあの2人がどういう関係か全く言わない様にしてるんですけど、だからこそ、あれが今の自分と過去の自分の対話。その時辛かった事も今だったら私はこう思うみたいに見えたら良いなという感じで、凄い熱演してくれて、うれしかったんです。
細馬 見たら凄いパクチーここ(机の上)にあって、三宅さんパクチーの夢でうなされてるのかなって。
アミ 匂いでね(笑)。
細馬 すっごいパクチーの中。
アミ シンバルの下にパクチーがあって、シンバルが落ちたらパクチーが舞ってパクチーの匂いが広がるかな~ってYukoさんが言うからパクチー置いたんですけど、全然広がらなかったんですよ(笑)。あれはスタッフが後で美味しく頂きます。(笑)いただきました。
細馬 とりあえず、あのパクチーが良かったです。
アミ なんでパクチーなんだろう……。気持ち悪いんですけど色々引き寄せの法則みたいなことが今回この公演で色々あって、なんか色々ちょうどみたいな感じで向こうからやってきて役者2人もまさかやってくれると思ってなかったんだけど、三宅はシェアハウスにもともといた子で、みさとちゃんはたまたま出会って実は三宅とはよく舞台に一緒に出てて次も一緒に出るんだけどって言ってて、え?本当に~とか言ってそのまま飴屋さんの話としてて、飴屋法水さんの「スワン666」行くことになって。もういろいろたまたま偶然。
細馬 別の日って事?一回会ったよね?(スワン666の公演で)
アミ たまたま(笑)。他の日にも一緒に女優陣と観に行ったんですよ。佐々木敦さんに11月3日にうちの劇に出演する女優2人ですって。その時はわたしがマイクを持って右、行ってください。左、行ってくださいっていうリアルタイムに演出するくらいで考えていて。照明は……・でも自分でやるのか、やりたくねえなあ、どうしよう無理無理無理無理!と思ってたら、貴一くんが「東京に戻りたいです」みたいな。唐突に偶々です。で、なぜか来る事になって。貴一くんじゃあ、演出やってくれるかなあ? って。あ、じゃあやります。みたいな。すっげえ、軽く応答(笑)。っていうすごい不思議な流れで、一番気持ち悪かったのが、紀伊国屋の話を(劇で)してたじゃないですか?紀伊国屋の袋を手に入れなきゃダメだねって言ってたら、貴一くんの前に短期で住んでいた人が。映画の『ベルリン天使の詩』で来てくれてた人がいってってくれた紀伊国屋の袋で。手に入れた瞬間「やった~っ」二人で言って、(会場の)SCOOLに行く途中で各駅停車に乗っちゃったから途中乗り換える時に、貴一くんがアミさん紀伊国屋のポイントカード落としましたよ?と言ってきて、え?わたしは落としてないよ?ってなって拾ったのが吉祥寺の紀伊国屋のポイントカードで、これ使える!みたいになって、紀伊国屋にポイントカードがあるなんて知らなかったし。
細馬「紀伊国屋の紙袋とポイントカードは別で手に入れたのね。」
アミ そうそう。紀伊国屋って良いよね、高級スーパーで買って来たのねこのバカやろうみたいな感じで。ポイントカードは誰かの蓄積でしかない。
細馬 それはそんな大した話じゃない……。
アミ 細馬さんも頼む予定じゃなかったんだけど、いらっしゃるって話で、じゃっダメもとで聞いてもらって良いですかって、それで大丈夫ですよ。え?オッケーでたわーみたいな。私達が願った事が叶っちゃって、もしかして1億円欲しいとか言ったら貰えるかもねっとか言って(笑)。一億、あっても作品づくりにしかつかわないバカやろうなので。
細馬 まだ紀伊国屋の袋だから(笑)
アミ (笑)
細馬 そこから1億円はなかなか当たらないと思います(笑)。大劇場で公演やったりとかは?
アミ 大劇場より、まずはこの「宅演出」と呼ばれものを、なんとかしたいです。
■出演者の失敗を、その人のせいにしたくないんです
アミ ポインターで指示出してたの分かりましたか?
細馬 ポインターの意味は?
アミ こっちへ行ってくださいとか、この物拾い忘れてますよみたいな。出演者の失敗を、その人のせいにしたくないんです。気が付かなかった、わたしたち、演出のせいだって。演者の不手際だっていいたくない。気が付かなかったわたしたちが悪いんです。圧倒的に。だから、どうやって伝えるのかみたいな工夫を色々してました。Yukoさんは新聞の中にカンペを入れてたりとか。無理なくやる方法ばかり考えていました。人を非難するぐらいなら、自分が傷つけばいいじゃん、っていう考え方になるところが一致しています。
細馬 それは全然問題なかった?
アミ 全然問題なかったですよね。だからYukoさんは貴一くんと会ったこともなくて、貴一くんは、三宅もみさとちゃんも知らないし、この内容も内容だし。そんなものをいきなり渡されて、はい、やりますって。何の根拠もなく、やってみようと、そのとき思ってくれた。彼が今までやってきた作品とは全然、違うものだし。来ていきなり、この台本、渡されて、良いっすね。みたいな。時間なかったから、ありがとうのふたつ返事だったけれど、ほんとたまたま合っただけです。だからこそ、信じられた。
細馬 人材も、関わる人もダブっぽい感じで。
アミ そうですね(笑)。だから奇跡的なものを、感じています。
写真:前澤秀登 トランスクリプション:増井彩