君の能力はいつか目覚める
東京ディズニーリゾートの年パスを持っているので、よく出勤前や出勤後、休日は舞浜へ足を延ばす。
寒くなり始めたその日はリゾートラインに乗っていた。雨ゆえか平日ゆえか、はたまたその両方か。リゾートラインの中はとても空いていた。
ぴよよよよよよ。
本を読んでいたところ、すぐ前方から機械音が聞こえたので、おや、と顔を上げる。
海外旅行客と思しき少年が、パーク内で売っている銃のおもちゃを鳴らしている。「バズ・ライトイヤーのアストロ・ブラスター」だ。
ぴよよよよよよ。
少年の隣では男性が、優しい眼差しを注いでいる。お父様だろう。
時折、おもちゃの銃口にあたる箇所を指差して少年に声をかけている。言葉はわからないが、「ほら、光ってるな」とかそういう内容なのだろう。
「その銃、宝物やなぁ。よかったね」と思いながらK本へ視線を戻そうとした瞬間、少年がおもちゃを鳴らし、ふと顔を上げた。
銃口は、こちらの方を向いている。
少年と私の視線がぶつかった一瞬、私はとっさに、
「Oops...!」
銃で撃たれる小芝居を打った。寒くなり始めた季節、おでんにするには丁度良い加減の大根芝居でたる。
わざとらしく右胸をつかんでみる。この時の私は何も考えていなかったが(いうても常に何も考えていないが)、心臓は左胸だ。
お父様はすぐに私の大根芝居に気づき、「Thank you...!」と顔を綻ばせてくれた。さて当の少年本人はどうだろう。こういう場合、だいたいが「めっちゃノッて銃乱射してくる」か「恥ずかしくなって銃をおさめてしまう」かに分かれるのではと推察される。
後者の場合は申し訳ない限りなのだが……と思い少年を見やると、
心底驚いた表情で、銃口と私を5往復ほど見比べていた。
もう、「俺の銃に、こんな秘められし力が……!?」ってな具合の驚きっぷりである。
なるほどこのパターンもあったかと、私とお父様は思わず破顔してしまう。
笑うという反応は、場合によっては子どもの夢を壊し心を傷つけかねなかったなとすぐに反省した。私も大人に笑われることに傷つく子どもだったから。
「ごめんね、私は無事だよ。でもそのブラスターはとても素敵なものだよ。かっこいいね」
急いでそう謝ろうと思ったところで、再び少年に撃たれた。
私はそこから、ゆうに一駅分の時間を少年に撃たれ続けていた。
少年は私を銃殺しまくっている間、ずっと笑顔だった。もう、クエンティン・タランティーノの映画ばりの銃乱射であった。才能がある(?)。
少年がリゾートラインを降りるとき、互いに手を大きく振って別れた。最後の最後まで、私は撃たれ続けた。苦しみながら手を振った。周りの客からすりゃ何あの人って感じだな……。
次の駅へ運ばれながら、私はぼんやりと幼少期の願望を思い出していた。
「そういえば、私も"買ってもらったもの"が"量産物のなかに紛れ込んだ特別"であることを願っていた時期があったなあ」。
ムーンスティックのおもちゃ、本当に浄化作用があったりしないかな、とか。
お母さんに買ってもらったルビーの指輪(おもちゃ)、毎日つけてたら、突然光りだしたりしないかな、とか。
でも私は知っている。そんな力を秘めてなんていなくとも、私のムーンスティックは、少年のブラスターは、自分だけの"特別"になるのだ。
それに"秘めし力"なんてのは、そもそもブラスターではなく少年自身に宿っている。
そう遠くない日に君の力はきっと目覚めて、"無限の彼方"へ向かっていく。
その時はどうか、この宇宙を頼んだぞ。スペースレンジャー。
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