扉〔ひばりんさんへの感謝三作の①〕
受話器を上げたら、いきなり子供の声だった。
おかあさん?
ゆうとだよ
元気してた?
違うよと言う前に、ゆうとくんはつらつら話し始めていた。
あたらしいおかあさんが好きじゃないこと。
でもあたらしいおにいさんは好きなこと。
いじめっこににらみをきかせてくれてること。
めっちゃありがたいと言っていた。
でもって今度ぼくもおにいさんになるの。
あかちゃんは女の子なんだって。
あめだまとかあげちゃだめだからねって、くりかえしくりかえし言われてる。
しないよぜったい。
あかちゃんお口小さいもんね。
ぜったいしない。
そういってゆうとくんは一度言葉を切った。
でね、おかあさん。
きょうでんわしたのはね、おかあさんのへやにまえあった、リボンちゃんの人形、あかちゃんが遊ぶようになったら、貸してあげていいかなって、あ、ひときた、またかけるね。
電話はいきなり切れた。
ただの間違い電話だけど、私はおなかが温かくなった。
夫がきた。
誰?
あかちゃんから。
こんどのおうちでおにいさんが二人できるんだって。
幸せになってくれるといいね。
私の言葉に夫は黙って、私の肩をそっと抱く。
もう少ししたら、もう少ししたら、私もいちどがんばってみるね。
ゆうとくんみたいな元気な子、授かりますように。
ひとかけらの勇気もらって、私はもう一度だけと、クリニックの扉に手をかけた。
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