りかと奈美


〔りか〕


渾名はトリトン。
いるか人間の子だからだ。
アタシには水掻きも呼吸用の穴~ 噴気孔と言うらしい~もないのに何でアタシがトリトンなのよ!
だいたいトリトン、イルカのコトじゃないでしょう!
イルカ、英語だとドルフィンじゃん!!

めいっぱい怒鳴ったので、渾名はドルフィンに変わった。


親友の奈美が言う。

トリトンかわいいじゃん。
ドルフィンのほうが重たいじゃん。
何でりかは。

奈美はアッという顔に変わった。

そうなのよ。
アタシには『りか』ってかわいい名前があンの。
何が悲しくってトリトンだのドルフィンだの呼ばれなくちゃなンないのよ!!


〔奈美〕


そう言ってダイゲキドしてるりかはめっちゃかわいい。
泳ぐのも早いので、水泳部に所属してる。
インターハイも持ってくだろう。
それほどに才能がある。

いるか人間の子だからだよ。

それだけだろか?


インターハイは荒れた。
りかのぶっちぎりと思われたレースは、くじら人間の二世、平野みすずの独壇場になったのだ。

悔しい!
悔しい!

りかは泣いていた。
負けて初めて気づいたのだ。
自分が水泳を好きなことに。
何か励ましたい!
必死に考えるあたしの耳に、キキキキキ、という、甲高い音が届いた。
パパだ。

スナメリのお嬢ちゃんは小回りがきく。
頑張ってくじらについていかせろ。
最後のターンの時にザンブと上がる、くじら人間の水しぶきの中をくぐれたら、スナメリのお嬢ちゃんの勝ちだ!

そこか!
あたしはりかにテレパシーを送る。
パパとほどは明確ではないけれど、私とりかの間にも、微弱なテレパシーが通じる。
スナメリと、いるか。
種族はちょっと違うけど、あたしたちは仲良しだから、伝わるはず!

りかの、驚いたようなテレパシーが返ってきた。

奈美!
あんたもいるかなの!?

違う。
あたしがいるか。
あんたはスナメリ。
あんたの方が細くてかわいい!!


〔みすず&パパ〕


りかはがんばった。
平野みすずぴったりマークして、最後のターンで大波をくぐり抜けて勝った。

あんた根性ある。
大好き!

いるか人間の祝福に、あたしのスナメリはちょっとテレ、次にこう言った。

ありがと。
でもアタシ、もうつがいいるから。


以来あたしたちは学校も、部も公認のカップルだ。
あたしはまだ、いるかっぽくなってないけど、遠からず変化してゆくだろう。
もちろんパパは怒ってる。
恋人が女だと知ったからだ。
でもりかが、

オリンピックの金メダリストなんですよね。
ずっと憧れてたんです。

って言ったらすぐ気をよくした。

お父さん単純だね。

うん。
ものすごく。


〔大団円〕


獣人はどんどん増えている。
パパの後に現れた馬人以降、すでに、38種類もの動物人種が発見されている。
獣人権運動の高まりで、昨年ついに獣人権も憲法に併記された。
ママはまだ、パパをちょっと気味悪がってるけど、あたしはあたしなりにパパを受け入れられるようになった。
こんな社会も悪くない。




又吉マタキチさんの

https://note.com/matamatakichi/n/nc3709dbd07a8

の後譚として書きました。



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