マリコ〔KOBUさんに捧げる一作3〕
ぼくは第六子だけど、実質は一人っ子だ。
そう、母がこれでもかと人工授精に挑んだおかげ。
男児三人、女児二人。
やっと出産まで行ったのがぼく。
母は三十四になっていた。
同じ三十四才母に雫井涼子さんて人がいて、おこさんのマリコがぼくと同学年。
マリコは勝ち気で惚れっぽい。
最初にぼくをすきになり、次に担任・藤川誠、次に同級の鮎田弘之、次に戻ってまたぼくになった。
気分次第のマリコ。
でもぼくはずっと好きなままだった。
勝ち気、わがまま、惚れっぽい。
でもかならず、ぼくに戻ってきた。
いつしかぼくは、いつかマリコと結婚するかもしれないとすら思い始めていたのだけど。
母は問う。
ぼくに問う。
マリちゃんが好きなの?
マリちゃんと生きてくの?
ママは、
ママは置いてきぼり?
いつか同じ質問が来る気がしてた。
中二の夏にそれは来た。
その日マリコはめちゃめちゃ真面目に、いや、一瞬だけ真面目になって聞いた。
お母さんとあたしが同時に溺れたら、しゅんすけはどっち先に助けるの?
お母さん?
ぼくは迷わずすぐ答えた。
うん。
ぼくは知ってる。
ずっと聞かされてきた。
最初の流産も、次の未着床も、その次の未着床も臨月流産も、つらくてつらくて耐え難かった。
だからママ、しゅんすけに会えたのは奇跡なの。
こうまでいう母を、ぼくはほっとけない。
たぶん一生ほっとけない。
そして、そんなぼくと一緒にいたら、マリコはマリコでなくなってしまう。
だから。
ぼくはマリコを縛らない。
縛れない。
あそう。
マリコはめんどそうに言った。
そして続けた。
じゃああたしたち終わりだね。
で、終わったんだ。
たぶんぼくはマリコのほうを愛してた。
ずっとずっと。
だから別れた。
だって。
母はきっと見たくない。
ぼくが誰かを愛するのを。
それがわかるからぼくは、ぼくは、ぼくは・・・
ほんとうに結婚していいのよ?
そう言った母は式場でさゆみを殺した。
やっぱり我慢できなかったじゃない。
血まみれのナイフを母の手からもぎ離しながら、ぼくはぼくの判断が正しかったとあらためて感じた。
少なくともぼくは守れたのだ。
マリコだけは。
※ テーマは『中止』でした。