いのちのうた〔納品用無駄な努力。それでも頑張ったんだよ的なナニカ(>_<。)〕
かわいい花
空を見上げる
青かったり
雲が流れていたり
雨もある
雨ひとつとったって
強かったり弱かったり
激しかったり
春先には
気持ちいい程度に淡くだったり
路傍の花
小さな
名も知らぬ花
かわいい
そっと手を伸ばす
指が空を切る
ああ
生きているときに
もっといっぱい気づけばよかった
☆
八月三十一日の夜に
八月三十一日の夜に、みんなで家出した。
礼ちゃんは、奈美にもう二度といじめられないために。
佐知ちゃんは、まえだせんせいに、二度とこっそり呼び出されないために。
三太は通学班の上級生に、二度と殴られないために。
美樹はお母さんから塾、むりじいされないために。
私は…
合計三十二人がいちどきにしんだ。
理由がさまざますぎて、おとなたちはいちようにだまりこんだ。
『最近の子は簡単に死を選びますよね』
『ほんとに。命がどんなに奇跡か、ぜんぜんわかってないんですよ』
そこのあんた。
あんただよね。
私が七才の時に、空き地に腕ずくで引っ張り込んだの。
あんたのせいで、あたしはこんな、よごれたおんなになったんだ。
おとなはなんにもわかってない。
わかったふり、してるだけだ。
九月一日はこない。
こさせない。
☆
北浜礼の八月末日
奈美のママはPTA会長だ。
他のお母さんはそんたくする。
お母さんどうしにそんたくがあると、こどもどうしもなんとなくそんたく。
理々が転校してくまで、わたしも奈美にそんたくしてた。
理々をみんなでシカト。
理々はかんぜんにこりつした。
理々はもういない。
いなくなって初めて気づいた。
今はわたしが弱者だ。
奈美は理々がだれにも言いつけないからいじめてた。
わたしもどっちかっていうと言いつけないほうだ。
だってみんなと仲良くしたほうが楽しいじゃん。
でもだから、今度はわたしがひょうてきになった。
最初はみんながわたしを小突いて通るようになり、小突きは足のひっかけに変わり、ものかげでのでこぴんや、つねりに変わり、かばんもたされ、おごらされ、ゲームのソフトもとられた。
とられたことがわからないように、ソフトはお店で補充した。
おこづかいもお年玉も、補充ですっからかんになってるのに、奈美は言った。
あと、あれとあれとあれがほしいなー。
お母さんにないしょで、おばあちゃんに電話しておねだりしたけど、おばあちゃんは、
さすがに三本はだめだよ
ってお母さんに伝言して、わたしはお母さんにこっぴどくしかられた。
今は夏休みだ。
コロナで日数が減ってるとはいえ、夏休みは学校へ行かないですむのでありがたい。
でももうそれも今日で終わる。
明日は学校で、学校には奈美がいる。
わたしは奈美がこわい。
奈美さえいなければ、まなつも樹菜もわたしとふつうに話してくれる。
でも奈美が来たら、そく知らん顔。
だれもわたしのがわには立ってくれない。
おこづかいも底をつき、お母さんやおばあちゃんの信用もなくなった。
いやだもう。
夕方になっても夜になっても、家に帰る気にならない。
このままどこか行ってしまいたい。
とぼとぼ歩いてると、交番の前にさしかかった。
おまわりさんが番立ちしてて、私をみて、にこっと笑った。
おつかい?
一人で大丈夫かい?
一人デ
大丈夫
カイ?
エコーした。
何度も何度も何度も何度も。
そしてわたしはついにことばをしぼり出した。
大丈夫じゃないです!!
わたしはその場にしゃがみこんで泣き出した。
どうなったかはごそうぞうにおまかせする。
ただその晩は、長い長い一晩になったとだけ言っておく。
☆
どんな悲しみも孤独も
生きていてこそです。
声を出してください。
泣いてください。
飛ぶ前に。
沈む前に。
切る前に。
どうか。
お願いです。
☆
最後にもう一つ。
この作品は、こどもたちとその未来を強く案じ続けるあるかたのために、二〇二〇年に書いたものです。
☆
有線
ネット時代だってえらい人が言ってるけど、ほんとは有線だって僕は知ってる。
ことの起こりは電話のコード、抜いたり差したりしてたこと。
言い忘れたけど僕は、こどもだけどまんが家で、週に三社くらいから督促がくる。
好きで描いてたのに、仕事になってつまんなくなった。
督促は聞かないことにしよう。
携帯を切りパソコンも切り(描くのは番号出してない、もう一台のでやってるからいいんだ笑)、それでも家にかけてくるぶれいものがいるからたまにコード抜いてて。
お父さんの会社からの連絡が受け取れなくなって、僕はお父さんとお母さんからこっぴどくしかられた。
そんなにいやならやめなさい!!
までいわれた。
いやだけど…
やめたくはないと思った。
不承不承コードをつなぎに降りて、つなぎたくないから逡巡して(僕この逡巡って字大好き。二つ点のしんにょうも、巡航ミサイルの巡もかっこいい)、つなごうかつなぐまいか考えてたとき、コードの接続口からそれが出てきたんだ。
ツナグノカツナガナイノカ!!
めっちゃ細い、銀色の竜だった。
びっくりした!
胴は二ミリもないのに、鉤爪もたてがみもひげもある。
それが僕を正面からにらんでた。
オマエガ描コウガ描クマイガドウデモイイ!
デモコレヲミロ!
と僕の手を鉤爪でつかんだ。
すると僕はみるみるちっちゃくなって、
気づくと銀の細竜の背中にいた。
どこだここは。
いろんな色の光が、前後左右飛び交ってる。
光の交差の真ん中を、僕と僕の竜が飛んでいる。
ある時はほかの竜と並び、ある時はほかの竜と離れ、瞬く間に何億キロもの旅をしてる。
赤い竜が僕らを追い抜いていった。
僕らの三倍速度。
業務用回線データだ。
速くて守りも堅い。
片言じゃないんだな。
当たり前だ。
ここは俺らの世界だからな。
あの透き通った竜たちは何だ?
一つところでぐるぐる回ってる。
あれはお前の作業用パソコンのデータだ。
おまえがネットにつながないから孤立してる。
そういうことか。
ああでも。
おまえが思った通りでもある。
孤立回線は、汚染や乗っ取りの危険から守られる。
外界とつながってる竜は、少なからず汚染の危機もある。
そこの、
と黒い竜を指した、
ああ言うのが食いついてくる。
ファイヤーウォールついてるのは弾けるが、
赤い竜が黒を撃退、黒は弾きとばされた。
脆弱なデータは、
と指さす先、青いデータが真っ黒く染まった。
こんな中を俺らは飛んでる。
おまえらの通信を守るために。
言ってる間も銀の竜は飛んでいる。
黒い竜をかいくぐり、赤い竜には道を譲り、先を急ぐ。
どこ行くの?
着けばわかる。
銀の竜はさらに加速した。
ついたところは印刷所だった。
N社の担当のサワダさんが、印刷所の人たちに謝ってた。
明日には入れられるんで。
ほんとにすいません。
サワダチャンだから待つんだよ?
それにノゾム先生だから。
ノゾム先生の新作面白いもんな。
あれ絶対当たるよ!
おとなが、おとなの人が何人も、僕の作品を待ってる…
知らなかったこんなこと。
僕は好きなことを好きなように描いて…ただただ…
知らなかったろう今まで。
社会の仕組みも俺たちのことも。
おまえたちの知らないとこで、俺たちはこうして働いてる。
通信業界の重鎮だけが知ってる。
スマホ売り場のにーちゃんねーちゃんも知らないんだぞ。
だから
目が覚めたら僕は自分のベッドにいた。
お父さんとお母さんが心配そうに、僕を見下ろしていた。
廊下に倒れてたのだという。
電話コードの接続口のすぐそばに。
手には電話コードの端が握られていたという。
大丈夫かノゾム。
びっくりした。
もう二度と目を覚まさないんじゃないかって。
お母さんはもう半泣きだ。
まんがやめたいならお母さん言ったげる。
サワダさんとクリキさんとオオガワラさんよね。
お母さんはもう手にスマホを持ってる。
桃色の竜がこそっとこっちをみてるのも見えた。
家庭回線の竜だ。
あいつらが、働いてて。
その向こうにサワダさんたちがいて。
僕の作品を楽しみにしてくれてるんだ…
通信ハ、俺タチノ努力ノ上ニナリタッテル。
後悔サセナイデクレ。
銀の竜の言葉は今も、僕の中にある。
あれから二十年すぎた。
今も僕はまんが家を続けている。
☆
生きるってきっとこういうことだと思うんです。
だから
とりあえず明日を見ませんか?
まず明日を。
※
白☆で改ページのつもりでしたがそうなっていません(号泣)