いのちのうた〔納品用無駄な努力。それでも頑張ったんだよ的なナニカ(>_<。)〕


 かわいい花


 空を見上げる

 青かったり
 雲が流れていたり
 雨もある

 雨ひとつとったって
 強かったり弱かったり
 激しかったり

 春先には

 気持ちいい程度に淡くだったり


 路傍の花
 小さな
 名も知らぬ花

 かわいい

 そっと手を伸ばす




 指が空を切る






 ああ



 生きているときに



 もっといっぱい気づけばよかった







 八月三十一日の夜に


 八月三十一日の夜に、みんなで家出した。
 礼ちゃんは、奈美にもう二度といじめられないために。
 佐知ちゃんは、まえだせんせいに、二度とこっそり呼び出されないために。
 三太は通学班の上級生に、二度と殴られないために。
 美樹はお母さんから塾、むりじいされないために。
 私は…

 合計三十二人がいちどきにしんだ。
 理由がさまざますぎて、おとなたちはいちようにだまりこんだ。

『最近の子は簡単に死を選びますよね』

『ほんとに。命がどんなに奇跡か、ぜんぜんわかってないんですよ』

 そこのあんた。
 あんただよね。
 私が七才の時に、空き地に腕ずくで引っ張り込んだの。
 あんたのせいで、あたしはこんな、よごれたおんなになったんだ。
 おとなはなんにもわかってない。
 わかったふり、してるだけだ。

 九月一日はこない。
 こさせない。


 北浜礼の八月末日

 奈美のママはPTA会長だ。
 他のお母さんはそんたくする。
 お母さんどうしにそんたくがあると、こどもどうしもなんとなくそんたく。
 理々が転校してくまで、わたしも奈美にそんたくしてた。
 理々をみんなでシカト。
 理々はかんぜんにこりつした。

 理々はもういない。
 いなくなって初めて気づいた。
 今はわたしが弱者だ。
 奈美は理々がだれにも言いつけないからいじめてた。
 わたしもどっちかっていうと言いつけないほうだ。
 だってみんなと仲良くしたほうが楽しいじゃん。
 でもだから、今度はわたしがひょうてきになった。
 最初はみんながわたしを小突いて通るようになり、小突きは足のひっかけに変わり、ものかげでのでこぴんや、つねりに変わり、かばんもたされ、おごらされ、ゲームのソフトもとられた。
 とられたことがわからないように、ソフトはお店で補充した。
 おこづかいもお年玉も、補充ですっからかんになってるのに、奈美は言った。

 あと、あれとあれとあれがほしいなー。

 お母さんにないしょで、おばあちゃんに電話しておねだりしたけど、おばあちゃんは、

 さすがに三本はだめだよ

ってお母さんに伝言して、わたしはお母さんにこっぴどくしかられた。

 今は夏休みだ。
 コロナで日数が減ってるとはいえ、夏休みは学校へ行かないですむのでありがたい。
 でももうそれも今日で終わる。
 明日は学校で、学校には奈美がいる。
 わたしは奈美がこわい。
 奈美さえいなければ、まなつも樹菜もわたしとふつうに話してくれる。
 でも奈美が来たら、そく知らん顔。
 だれもわたしのがわには立ってくれない。
 おこづかいも底をつき、お母さんやおばあちゃんの信用もなくなった。
 いやだもう。

 夕方になっても夜になっても、家に帰る気にならない。
 このままどこか行ってしまいたい。
 とぼとぼ歩いてると、交番の前にさしかかった。
 おまわりさんが番立ちしてて、私をみて、にこっと笑った。

 おつかい?
 一人で大丈夫かい?

 一人デ

 大丈夫

 カイ?

 エコーした。
 何度も何度も何度も何度も。
 そしてわたしはついにことばをしぼり出した。

 大丈夫じゃないです!!

 わたしはその場にしゃがみこんで泣き出した。


 どうなったかはごそうぞうにおまかせする。
 ただその晩は、長い長い一晩になったとだけ言っておく。




 どんな悲しみも孤独も

 生きていてこそです。

 声を出してください。

 泣いてください。

 飛ぶ前に。

 沈む前に。

 切る前に。

 どうか。


 お願いです。






 最後にもう一つ。


 この作品は、こどもたちとその未来を強く案じ続けるあるかたのために、二〇二〇年に書いたものです。



有線

 ネット時代だってえらい人が言ってるけど、ほんとは有線だって僕は知ってる。

 ことの起こりは電話のコード、抜いたり差したりしてたこと。
 言い忘れたけど僕は、こどもだけどまんが家で、週に三社くらいから督促がくる。
 好きで描いてたのに、仕事になってつまんなくなった。
 督促は聞かないことにしよう。
 携帯を切りパソコンも切り(描くのは番号出してない、もう一台のでやってるからいいんだ笑)、それでも家にかけてくるぶれいものがいるからたまにコード抜いてて。
 お父さんの会社からの連絡が受け取れなくなって、僕はお父さんとお母さんからこっぴどくしかられた。

 そんなにいやならやめなさい!!

までいわれた。
 いやだけど…
 やめたくはないと思った。

 不承不承コードをつなぎに降りて、つなぎたくないから逡巡して(僕この逡巡って字大好き。二つ点のしんにょうも、巡航ミサイルの巡もかっこいい)、つなごうかつなぐまいか考えてたとき、コードの接続口からそれが出てきたんだ。

 ツナグノカツナガナイノカ!!

 めっちゃ細い、銀色の竜だった。
 びっくりした!
 胴は二ミリもないのに、鉤爪もたてがみもひげもある。
 それが僕を正面からにらんでた。

 オマエガ描コウガ描クマイガドウデモイイ!
 デモコレヲミロ!

と僕の手を鉤爪でつかんだ。
 すると僕はみるみるちっちゃくなって、

 気づくと銀の細竜の背中にいた。
 どこだここは。
 いろんな色の光が、前後左右飛び交ってる。
 光の交差の真ん中を、僕と僕の竜が飛んでいる。
 ある時はほかの竜と並び、ある時はほかの竜と離れ、瞬く間に何億キロもの旅をしてる。
 赤い竜が僕らを追い抜いていった。
 僕らの三倍速度。

 業務用回線データだ。
 速くて守りも堅い。

 片言じゃないんだな。

 当たり前だ。
 ここは俺らの世界だからな。

 あの透き通った竜たちは何だ?
 一つところでぐるぐる回ってる。

 あれはお前の作業用パソコンのデータだ。
 おまえがネットにつながないから孤立してる。

 そういうことか。
 ああでも。

 おまえが思った通りでもある。
 孤立回線は、汚染や乗っ取りの危険から守られる。
 外界とつながってる竜は、少なからず汚染の危機もある。
 そこの、

と黒い竜を指した、

 ああ言うのが食いついてくる。
 ファイヤーウォールついてるのは弾けるが、

 赤い竜が黒を撃退、黒は弾きとばされた。

 脆弱なデータは、

と指さす先、青いデータが真っ黒く染まった。

 こんな中を俺らは飛んでる。
 おまえらの通信を守るために。

 言ってる間も銀の竜は飛んでいる。
 黒い竜をかいくぐり、赤い竜には道を譲り、先を急ぐ。

 どこ行くの?

 着けばわかる。

 銀の竜はさらに加速した。

 ついたところは印刷所だった。
 N社の担当のサワダさんが、印刷所の人たちに謝ってた。

 明日には入れられるんで。
 ほんとにすいません。

 サワダチャンだから待つんだよ?
 それにノゾム先生だから。

 ノゾム先生の新作面白いもんな。
 あれ絶対当たるよ!

 おとなが、おとなの人が何人も、僕の作品を待ってる…

 知らなかったこんなこと。
 僕は好きなことを好きなように描いて…ただただ…

 知らなかったろう今まで。
 社会の仕組みも俺たちのことも。
 おまえたちの知らないとこで、俺たちはこうして働いてる。
 通信業界の重鎮だけが知ってる。
 スマホ売り場のにーちゃんねーちゃんも知らないんだぞ。
 だから



 目が覚めたら僕は自分のベッドにいた。
 お父さんとお母さんが心配そうに、僕を見下ろしていた。
 廊下に倒れてたのだという。
 電話コードの接続口のすぐそばに。
 手には電話コードの端が握られていたという。

 大丈夫かノゾム。

 びっくりした。
 もう二度と目を覚まさないんじゃないかって。

 お母さんはもう半泣きだ。

 まんがやめたいならお母さん言ったげる。
 サワダさんとクリキさんとオオガワラさんよね。

 お母さんはもう手にスマホを持ってる。
 桃色の竜がこそっとこっちをみてるのも見えた。
 家庭回線の竜だ。
 あいつらが、働いてて。
 その向こうにサワダさんたちがいて。
 僕の作品を楽しみにしてくれてるんだ…

 通信ハ、俺タチノ努力ノ上ニナリタッテル。
 後悔サセナイデクレ。

 銀の竜の言葉は今も、僕の中にある。

 あれから二十年すぎた。

 今も僕はまんが家を続けている。





 生きるってきっとこういうことだと思うんです。
 だから

 とりあえず明日を見ませんか?

 まず明日を。







白☆で改ページのつもりでしたがそうなっていません(号泣)



それでも地球は回っている