悪縁~ちょっとしたはずみのものがたり~続の続の続の続。大団円〔R18有料作〕



 竜樹さんの敷いてくれたガード態勢は、マスコミの恰好の餌食となった。
 老ロッカ一老いらくの恋、だの、略奪愛だのの見出しが躍ったが、俺の実際の相手がタ夜であることは、いがいに漏れておらず、大概の見出しには判で押したように、『年下美女唖然』の小見出しがついていた。
 彼女も彼女で、『突然冷たくなったんです…』と、マスコミ相手に涙ぐんでみせ、すっかり俺は悪者扱い。
 いや。
 悪者っちゃー悪者だ。
 夕夜からすれば、理不尽極まりないやりかただもんなあ…
 それでも俺は頑迷に、夕夜を避け通した。
 翌年春、夕夜のデートスクープが雑誌を賑わすまで、俺は竜樹さんちに籠り続けた。
 相手は夕夜がレギュラーで出演し続けている、動物触れ合い番組の共演者。
 更にふた月様子を見てから、俺は竜樹さんちを出た。
 もう電話は鳴らず、待ち伏せもなかった。
 終わったんだ。
 ほっとすべきところなのに、俺は激寂しかった。

 九月の初め、珍しく、まとまった休みが取れたので、俺は車で実家を目指した。
 海老名を出たあたりで雨が降り出し、せわしなく動くワイパー見てたら、突然Fランドに行きたくなった。
 全然コースちゃうやん。
 自分に突っ込んで突っ込んで突っ込み倒したが、車は既に某県を目指していた。
 自分で自分のコントロールが出来なかった。

 現地に着いた頃にはもう、殆ど閉園時間だった。
 雨は本降りだし、ジェットコースターは当然動いていない。
 ヒーローもののアトラクションにでも寄るか…
 漠然と園内を歩いていたら、なぜか着いた場所は観覧車の乗り場前。
 そしてそこに、いたのだ。
 ビショ濡れのままその場に佇み、観覧車を見上げている夕夜が。
 茫然となった俺もまた、その場にただ、立ち尽くした。
 心は前に、躰は後ろへと反応し、俺は結局微動だに出来ず、その場に立ち尽くしているのだった。
「ついに来ましたね。春さん」
 振り向くことなく夕夜は言い、
「ずっと…ずっと待ってたんですよ」
「毎…日…?」
「まさかっ。毎日は無理っす。でも…雨の日は極力来てました。いつか…いつか春さんが俺とのこと、懐かしんで来てくれるんじゃないかって。無駄だと…思ってたけど…やってみるもんですね」
「タ…俺…」
「何も言わなくていいすよ。俺、わかってますから。でも春さん、俺のこと誤解してますよ」
「…」
「思い出してくださいよ。俺が押し倒したんです。俺があんたに欲情した、それが始まりなんです。俺、あんたに守ってもらったり、ビンタ張ってもらったりしなくても、ちゃんと社会生活送れます。だから…」
と、夕夜は肩で大きく息をした。
「だから年上ぶって、理性働かすの止めてください。俺と…俺といてください…」
 語尾が雨音にかき消される。
 俺はもう、自分を抑えられなかった。
 傘を振り捨てて駆け寄って、後ろから抱いた。
 夕夜も俺も、こどもみたいに泣いていた。

          *

 結局俺たちは縒りを戻し、竜樹さんの大顰蹙を買った。
(最終的には許してくれたけど)
 でもそんなこと構うものか。
 俺たちはいま完璧に調和してる。
 いつか別れが来るのだとしても、今を満喫しつくそう。
 それが俺と夕夜の誓いだ。
 誓いだが…

「夕、夕、お願い、いい加減ほどいて。手足腐って落ちちゃうー」
「落ちません。一時間や二時間で、手足は腐って落ちません」
 夕夜はしれっとした口調で言いながら、俺~俯せ状態で、両手両足縛められている~の後ろに指を試している。
「だめって。俺バージン戻ってるから。お願い、無理やめて」
「勝手にバージン戻ったんでしょう? 自業自得っすよ」
「うわあああっ」
「痛っしょー、さぞかし」
「痛い…けど…」
「?」
「おまえと…居られて…嬉しい…」
「まじっすか!?」
 顔面輝かせた夕夜が、俺の真横に倒れ込んでくる。
「俺もっす」
 ディープキス。
 脳天まで痺れるようなキス。
 これぞ恋の醍醐味。
 醍醐味だが…
 マジこの態勢はありえない。
「ほどいてー。年寄りいじめんといてー」
「だめです。ほどくと春さん、またどっか行っちゃうもん」
「行かねーから! ちょい、夕、やめ、あっ、ああっ、ああっ」
 お構いなしの夕夜が、俺の後ろを弄び始める。
「やめ、あ、ああっ…あ…」
 俺のが怒張し始める。
 こんな日々が続くのだ。
 これからも。
 この先も。

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それでも地球は回っている