覆面判定人〔ぷーさん(現ふぅ。さん)に捧げる一作〕
お気に入りのレストランの、経営者が変わっていた。
やたら調度がケバくなり、スタッフさんもクロークも無愛想。
それでも味がよければと、我慢して席に着いたが。
味の良し悪し以前に、十二分経っても誰も注文を取りに来ない。
私はことを荒立てるほうではないので、我慢に我慢を重ねてみた。
三十三分すぎた。
きっと私が悪いのだ。
入店時、何かスタッフさんの気分を損ねたのだ。
早く出てしまおう・・・
椅子をガタリと動かすと。
初めてスタッフさんが私をみた。
一人はちらりと。
もう一人はじろりと。
じろり。
こんな見方されるなんて、私ほんとに何かしたんだ・・・!
三十分待ちましたが、ついにメニューさえきませんでした。
帰ります!
まあ私ったらなんてことを毅然と!
でもなんで私の声、テノール?
テノール?
私の声じゃないの、これ・・・?
少し向こうのテーブルの、スーツ姿の紳士が発したのだと気づいたのは、丸々一分後だった。
この方は三十三分。
私は四十七分待ちました。
逆にあの角のご婦人は六分で注文が通り、二分二秒でバターとパン籠が来ました。
私たちとあの方には、どのような違いがあったのですか?
堂々とその方はおっしゃって、それから私のほうを顧みました。
出ましょう。
私が奢ります。
笑顔がまぶしい人。
第一印象はそれだった。
言われるままに店を出た私たちは、ちょっといけてない感じのする、こじんまりしたビストロに入った。
そこには・・・
めちゃめちゃおいしいアラカルトが待っていたのだった。
私はたぶん、かれに胃袋を掴まれたのだと思う。
そして心も。
いけてないビストロは、翌年店舗拡張してレストランとなり、その後六年かけてゆっくりと、ムシュランリストの星を増やし続けている。
そして私は疑ってる。
かれはたぶん、ムシュランの・・・
聞いた方がはっきりすると思うけど、かれはきっと答えないだろう。
私も今のままでいいと思ってる。
でも、私の心の中ではかれは、間違いなく・・・
恩人であり、恋人である。
ぷーさんありがとうございます
お気に召したらいいんですけど・・・
この作品を表現するにあたっては、ぽてぃろんさんのこの記事に触発していただきました↓
50年来の老舗だって・・・
あり得ない接客ですよね・・・
続編書きました↓
どうかな?