レインズ・デイズ・アフター③会見
譜面と曲入ったメディア渡されて、一階の会見室へ向かう。
もう曲が入っているのか、裕太はぜんぜん冷静だ。
あんなことのあとなのに…
凄すぎる。
けどドレスシャツの前ボタン一つずれてる。
俺の視線に気づいて慌てて直す。
耳まで赤くなってるのが意外だった。
会見室直前、ボタンをなおした裕太がマムンに問うた。
本名?
だめ。
多田悠斗。
何でえええ!
子供のようなだだコネ顔したけど、会見室のドアが開いたらすっと表情を消した。
室内はすし詰め状態だった。
テレビ、ラジオ、ネット、新聞、スポーツ紙、雑誌、ミニコミ大手…
ティアーズファンジンの編集代表もいる。
何が発表されるかもわかってないのに…
「しかも二十分遅れ」
無表情のまま裕太が囁く。
どこかを見ろ的身のこなし。
示された方向の程よい位置に、あのおっさんがいるのが見えた。
表情変えるな。
裕太のオーラが伝えてくる。
懸命にポーカーフェイスする。
マムンが片手を挙げると、指揮者が構えたときのように、室内がしんとなった。
「お待たせしたね。ソーリーソーリー。お詫びにうちの新ホープ紹介するね」
みんなを静まらした手を俺たちの方へ払う。
みんなが一段と静まり返る。
視線の集中線はもちろん裕太一人にだ。
数瞬遅れてシャッター音とかが始まった。
見惚れたのだ。
間違いなかった。
そして見惚れたことを恥じるように、次々質問が飛び出した。
鹿田裕太ですよね。
もう一人ってことはデュオっすかー。
その地味な…
語尾がモゴモゴと消える。
押しつぶすようにマムンの声が上がる。
「多田悠斗。特技はダンス。挨拶代わりに回っとく?」
ここでローリング見せろってこと?
踊るべき?
逡巡してたらメディアから端子抜けて、かなりな音量で曲が!
これから売る曲!!
的な顔をマムンがしかけたその時、いきなり裕太が歌い出したのだ。
だーかーらー
ダメだって
ダメだって
ダメだって
ダメだって
ダメやー
ゆーうーたーやーんー
ポカーンと
見守る取材陣の前で、
裕太はたった一度だけ笑んだ。
「サービス終わり」
会見は終わった。