悪縁~ちょっとしたはずみのものがたり~〔R18有料作〕
春川裕貴(ゆたか)。
伝説のバンドTXにいたヴォーカル。
つか、要するに(笑)
年季の入ったロックミュージシャン。
西夕夜。
美形バンド『樹絵瑠(ジュエル)』のヴォーカル。
ごくノーマルの二人はごくノーマルの出会いをし、ごくノーマルの結婚をするはずだったのですが………
ちょっとした気の迷いで始めた同性性愛の果てに、二人が行き着いた場所は…
という、
まあ、
ありふれた同性交流ものです
苦手な方はブラウザバック願います<(_ _)>
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樹絵瑠での、音楽番組出演~収録~を終えて局を出ると、既に時刻は夜半だった。
何か食って帰ろうぜえ。
誰言うともなく言い出して、行きつけの店を目指したその時、俺はみつけたんだ。
109の建物陰で人待ち顔のかれを。
悪い。
俺でえと。
えーっとなる仲間を置き去りに、俺はかれのところへ飛んで行った。
「みつけちゃいましたよ」
かれはあっとなり、耳まで赤くなった。
さすがの白肌。
「なんでこんなとこおンの」
「収録アフターっす。そちら『でえとはぐれ』とみましたが、当たってますよねえ?」
「当たってねえよ。つうか…当たってるよ」
ちょっとくすぶった様子で言う。
この正直者。
「だから春さん大好きっすよ。飯行きましょう飯」
俺が急かすと、かれはまるで、『しょうがないなあ』みたいな態度で俺についてきた。
ちょっとこどもっぽい。
春川裕貴(ゆたか)。
かつてTXなるバンドでヴォーカルやってたおにーさん。
今はソロだ。
めちゃめちゃ小柄なのに凄い声量があり、おまけに歌ってる歌が、紙一重放送コードすれすれ。
聞くところによると春さんは、作詞家上枝エレンと作曲家兼アレンジャーのスドーによる、音楽サイボーグとして育てられた~見出された?~のだという。
スーパーシンギングサイボーグ。
だからうまさには定評がある。
ヤザワやサザンほどじゃないけど、ガクトやイザムよりはイケてる、そんな感じの立ち位置。
小柄で色白で、ちょっとだけ関西イントネーション。
長身の俺からすると、ついついいじりたくなる可愛い先輩。
俺は春さんが大好きなのだ。
「今日樹絵瑠やったん?」
「はい。NHK様々で」
「“様々”に、樹絵瑠で出られる番組なん、あんの?」
「ありますよー。少ないのは、まあ認めますけど」
かなり坂を上がってきてしまった。
革着て片耳ピアスした、ごく長身の男と小柄度高い男が連れ立って歩いてたら、番組見てる人なら一発でわかってしまう。
俺は少し焦り始めた。
「どこ入ります? 何食います?」
「何でもええよ。ただこの辺、こないだレポーター張っとった」
「なら俺のちょい知りのとこで。次の角、戻り気味に曲がりますよ」
すっと脇道に入るだけで門がくぐれる。
料亭『幡豆(はず)』の一番好きなとこだ。
愛知県内の地名みたいなその店は、俺の本当の親父がよく使ってたところで、俺にとっては家みたいなもの。
気兼ねはいらない。
かえって春さんが気後れしたみたいで、
「こんなところ俺ら不釣り合いやて。少なくとも、俺は絶対不釣り合いや」
「そんなことないすよ。俺オムライス頼みますけど春さんは何にします?」
「オムライスう? 料亭にそんなもんあんの?」
「何でもありっすよ。何でも聞いてみるに越したことないす。俺、親父がここで、メザシ頼んだの見たことあるっす」
「メザシねえ、それはいいな」
「頼みます?」
「や、普通にあるもんでいい」
春さんは慌てて断り、俺は典型的なおまかせと、全然典型的じゃないオムライスを注文した。
オムライスを肴にワインをあおりだした俺を見て、春さんはド肝を抜かれたらしかった。
「酒、だめやなかったっけ」
「全然てわけじゃないんです。でも飲めない設定の方が誘われにくいっしょ?」
「知能犯やなあ。俺がばらすとか思わへんの?」
「ばらさないっしょー、春さんは。俺、人を見る目ありありですから。そして俺の目に、あのオンナは」
と、最近春さんと噂になってるデルモを暗に示唆した。
「あのオンナは?」
「だめっす」
「!」
春さんの箸が止まる。
ショック受けたかな、と見てると、箸は思いのほか早く動きを取り戻し、春さんは素直に述懐し始めた。
「だめだよなーやっぱし。昨今あんまし連絡取れんし、『忙しい』増えたし」
「ほんとに忙しいだけかもっすよ」
「そんなには忙しくないだろう。あのクラスは」
「春さんほんとはわかってるじゃないっすか」
「まあな…」
ため息をついて、酒をあおる。
俺はここぞと言い募ることにした。
「やめちゃったほーがいーすよ。あーゆーオンナ、実ないすよ。俺の親父誰か前提で寄ってくる系の女っすよあれは」
「せめて俺に、おまえくらいの身長あったらなあ。『♪金もいらなきゃ女もいらぬ、わたしゃもすこし背が欲しい~』だな」
「玉川カルテットでしたっけ。でも俺は、まんまの春さん好きっすよ。いまここで、押し倒してもいいくらい」
「おい。おまえ、そっち系だったの?」
「違うすけど、春さんなら、自分、喜んでいただいちゃうっす」
と、ほんとにその場に押し倒した。
「おい、おいバカ」
「バカでえす」
のしかかり、唇を奪い、そのままドレスシャツのボタンを外してゆく。
「やめろ、こら、人が」
「来ません。料亭ってそーゆーとこですから。それとも…」
と正面から見下ろし、
「俺とじゃ嫌っすか」
「そ…れ…は…」
春さんの抵抗が、いささか弱まった隙に、俺はまんまと目的を達した。
予想以上に白く、なめらかな肌だった。
それでも地球は回っている