でも何でこんなに、裕太ひとりが貪られ続けなきゃならないんだろう。
 裕太自身が男好き?
 だったら毎土曜、あんなにつらそうにしてるわけがない。
 各グループに一人、とりわけかわいがられてしまうコがいるとは聞いている。
 例えば5starずだと“まつゆう”こと松井優弥さん。
 KYOTOだと…


 秋。
 マムンが奇妙な企画を立てた。
 レインと旅する三日間。
 豪華客船でファンと旅。
 船上でゲームしたり、ライブやったり。
 これが意外と楽しかった。
 レインのファンは八割が裕太ファンだけど、俺のファンもちょっとはいて、ファン対抗ゲーム合戦なんかではかなりがんばってくれたりした。
 小さいファンの輪だからけっこう顔と名前一致しちゃったりなんかして、AさんBさんみたく気軽に呼んでると、
「俺の悠斗に手を出すやつは誰だ!」
なんて裕太があおるから、コンビ猛烈ラブラブ説なんか出ちゃったり。
 マムンが同席してないだけで、こうも裕太は明るくなるのかと、俺はかなりびっくりしたのだった。

 最後の夜、裕太の船室で、俺はいいものを見せてもらった。

 土砂降りの雨の中
 君に寄り添い歩く
 傘は壊れてもうないよ
 どうするの

 土砂降りの雨だから
 誰にも見られないね
 キスは雨粒混じりだし
 情けないね

 ねえ君は知らないだろう
 ずっと好きだったんだよ
 ねえ君はどうなのかな
 聞かせてよ

 土砂降りの雨の中
 君に寄り添い歩く
 傘は壊れてもうないけど
 このままで

 今までレインにこんなポップな曲はなかった。
 すごくいいと伝えると、裕太はすごく照れくさそうにした。
「初めて終わりまでいったんだ」
 そう言って再びギターを弾き出したけど今度は曲想が違う。
 きょとんとした俺を、くすっと笑ってみつめたかれは、
「編曲だよ。アレンジ」
 また違う曲想で奏で始める。
 ダンサー志望だった俺には、ほとんど縁のなかった職種。
 アレンジはつねにアレンジャーさんに頼むものと思ってたから…
 あ、バンドスタイルのKYOTOならやれるかも。
 でも俺らみたいなボーカルデュオでは絶対無理と思ってた…
「聞いてて」
 その夜『土砂降り』は、十数通りの歌い方で歌われた。
 どれも楽しい感じの仕上がりで、こんなレインもいいなと思った、いや、こんなレインでありたいと思ったんだ。
 思ったんだけど…

 船を降りた裕太はもとの裕太に戻ってしまった。
 レインは“美しくも切ない旋律”、から離れていかなかった。
 俺たちはその年の賞という賞を総なめにした。
 それはとりもなおさず、世間が能面の裕太でいてほしがっているという証拠でもあった。

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それでも地球は回っている