短編連作『倉』①〔R18有料作〕
一
中高一環教育も良し悪しだ。
ううん、教育論的な面ではなく、当の、通ってる、私たちの問題として。
素晴らしい出会いでもあれば、六年間は天国。
BUT出会いが素晴らしくなかった場合、六年間は全くの、地獄の日々になってしまうのだ。
私?
私は多田澪。
水原学園中等部三年。
素晴らしい出会いをした方の十五歳、だった、先週までは。
「多田いるかー」
がさつな声が後方扉から侵入してくる。
私は間一髪、テラス側のドアから通路へと逃れる
高等部二年星田誠。
名前におよそ似つかわしくない、ニキビだらけのゴリラみたいな不良。
こんな男に見込まれるいわれはない。
でもやつは、私を好きだと…
「カノジョになっちゃいなよ。守ってもらえるよ?」
などとばかなことを言う友人もいるが、
「あんたアタシの立場だったらそうする?」
「う」
「しないでしょ?あんなのカレシにしたくないでしょ?」
女心はみな同じ。
美形ですらっとかっこいい、そーゆー彼氏が欲しいのだ。
たとえば理科の、天野先生みたいな…
天野秀臣、二十六歳四か月。
爽やかを絵に書いたような美形青年教師だ。
おかげで今年の三年は、理科担だけが超人気。
クラスでたった二人だけなれるそれに、幸運にも当選したうちの一人が私。
もう一人がネクラジミーなおかげで、理科のプリントを取りに行くのも私、集めるのも私、連絡事項伺うのも、みんなに周知はかるのも私って、超happy days続いてたのに…
でも星田、いつどこで私を見染めたんだろ。
うちの学校は、中等部と高等部、建て屋もシステムも全然違うから、接点なんて全然ないのに。
「接点なんて必要ねーの。俺は全学年に目え配ってる。各学年から一番のキレイドコロ選んで、そん中から、さらに一番選べばいいんだからよ」
え?
この声どこから?
振り向き終わる間さえもらえず、私は羽交い締めにされていた。
首に巻きついた腕の、じっとりとした汗。
口を抑える手のゴツゴツした感じ。
何よりその、爪の汚さが耐え難い…
そう思った次の瞬間、私は気を失っていた。
二
固い床に投げ出されたショックで私は正気づいたのだけど、正気づかない方がまだ幸せだったかもしれない。
私は半裸だった。
最後の二枚目を剥ごうとしている悪党はもちろん星田で、私が意識を取り戻したのに気づき、悪びれる様子もなく、下品に笑った。
「こうでもしないとやらせないだろ」
「やるって…」
「わかってんだろ、アレだよ」
「やっ、やだっ」
「今更暴れても無駄なのっ」
確かに。
追い込まれた状況はあまりにも不利だ。
でもだからってやつのするままになるの?
私初めてなんだよ。
天野ならともかく、こんなやつに…
そう思ったら涙が出てきた。
止まらない。
止められない。
「泣くなよお。白けるじゃねえかー」
明らかに鼻白みながら、星田が私に覆い被さってくる。
目を瞑る?
暴れる?
私はどうすればいいの???
でも事態はそれ以上進まなかった。
星田が止まったのだ。
完全に。
私の肌を這い回ろうとしていた分厚く醜い唇は、半開きのまま私を離れ、面皰だらけの首、顔とともに、すこし離れた一点を見ている。
そこでは、私が危うくされそうになったそれが、もっと邪悪かつ淫靡な形で展開していたのだ…
2へ続く
それでも地球は回っている