レインズ・デイズ・アフター番外編③レイン・クルーズ(後編)


クルーズといえば豪華な食事。
ファンミーティングなんかでは、タレントさん、各テーブルに回ってくれたりする。
実際悠斗グループは、悠斗が給仕の格好で控えてる。
お味はいかがでございますか?
お誕生日ですか?
おめでとうございます。
一人一人にかしづいてみせるから、ファンの子たちは天にも昇る気分だろう。
裕太グループはただただ裕太を見てるだけ。
結構高い額払ったのになー。
そういう声すら聞こえだしている。

あたしは悠斗に助言した。
裕太にもうちょい愛想良くさせるべきじゃない?

裕太には裕太の考えがあるんだよ。
でも裕太のこと考えてくれて、ありがとう。

悠斗が優しくあたしを見る。
考えた?
いやこれはその、
あたしがつまんないって思っちゃっただけで…

優しくしないで悠斗。
あたしはあなたのファン蹴落として乗船してきた図々(ずうずう。図々しいファンのことを、裕太はそう呼んでいるのだ)の一人。
あなたに優しくされる資格、ない…

そうなのだ。
あたしたちはなんかしてもらえる、なんかしてもらいたい、そんなばっかでクルーズに参加した。
悠斗のファンたちは、何か悠斗にしてあげたいって乗ってきた気がする。
この違い…

でも私に、何がしてあげれるんだろう。
じれてその辺の紙に裕太描き殴ってたら、本人に見られた。

うまいじゃん。

え?
これはそのっ!

こっそり裕太受けの二次描いてるなんて、本人には絶対言えない!!

絵。
いいかもな。
おまえらに自由に描いて貰う。
貰ってやるよ。

わお!

時ならぬ、裕太イラスト大会。
裕太ったらけっこうまじめにポーズ取ってくれてる。
彫像のように微動だにしない。

裕太…

プロなんだな。
だからこれが出来るんだ。
あたしはずっと、裕太を美しいとしかみてこなかった。
こんなファン、嫌われるの当然だ。
当然だ…

イラスト大会は中学生の女の子が描いた、 ピカソの1907年の作『アビニヨンの娘たち』みたいなキュビスムふうのと、あたしの漫画タッチのが特選として選ばれた。
(おかげであたしのpixネームがバレてしまった。読み手さんも乗船していたのだ汗)

全部大事にするからな。

裕太はそういって、みんなを見回し、笑った。
人間らしいいい笑顔だった。

夜はレインの完全独占ライブになった。
人間らしい裕太が歌うと、これまでに買ったどの曲よりも映えた。
楽しそうに歌う裕太。
悠斗はハモったり、アクロバティックなダンスをいれたりする。
ローリングする悠斗を示して、

マムンに言われても回らなかった悠斗が、大サービスで回っております。

お染ブラザーズ(海老一染之助・染太郎)か!

突然悠斗が止まって、

目回った。

裕太グループも悠斗グループもキャハキャハ笑った…


テレビで見る裕太は、相変わらず能面だ。
でもクルーズに行った子だけは知ってる。
裕太は笑う。
人らしく笑う。
ほかのファンの知らない裕太~と悠斗。レイン~をあたしたちは持っている。
心に焼き付けてる。

それでも地球は回っている