カウンターの麗人
カウンターで
彼女はひたすら泣いていた
せっかくお作りしたカクテルが
むなしく汗をかいている
でも泣き顔も泣き姿も
ただただうつくしく、
店の佇まいをいささかも
乱すことはない
私は知っていた
彼女のつらい恋物語を
十五の祝いに海上に出て
その若者を見た
かれを乗せた船が難破したとき
無我夢中で助けて岸に押し上げたが
気づいたかれが心惹かれたのは介抱した修道女
そして修道女の正体は、たまたまその地の修道院に行儀見習いにきていた、隣国の姫だった
そんな成り行きになるとも知らず、彼女はその若者を一心に慕った
人の脚なぞより数倍うつくしい、虹色の鱗の半身まで捨てたのに、人一倍うつくしい声で歌えた喉まで捨てたのに
若者は、この国の王子は、かの修道女、隣国の姫を選んだ・・・
なべて恋などそんなもの
いつか涙も乾く
だから
私は声をかけず
ただただカクテルを前に置くのだ
バーもののけ
連作の壱
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