きよ〔30年前バージョン。若干ホラーです〕
部屋の片付けが嫌いなこと。
私の一番の欠点といえば、何をおいてもこれだろう。
三カ月前に平らげてしまった、菓子の空き袋もその辺に投げたまま。
遊びに来た友人が、あれはあんまりだと言っていたし、片付け魔の友人は、「頼むから私に片付けさせて」と、泣かんばかりに私にせがんでくれたが、片付け嫌いなくせに人に室内をいじられるのを嫌う私は、ほんとにすげなく断ってしまった。
(ために、彼女とは今でも絶交状態である。)
いつしかうちにはご同様の、『お片付けできません組』だけが遊びに来たり泊まったりするようになっていた。
私たちは口々に言い合った。
片付けは私たちの仕事ではないと。
小夜の所にはよねという、峰子の所にはしずという、そして私の所にはきよという、六十七、八の通いの老婆がいて、私たちお嬢の身の回りの世話をしてくれるのだと、それが私たちの言い分なのだった。
勿論そんな雇い人など私たちふぜいの暮らし向きには縁のない存在だったが、口にしあっているうちに、だんだん人物には肉付けがされてゆき、よねは洋装で小太りだの、しずは愚痴っぽく嫁と折り合いが悪いだの、私たちの間では、どんどん彼女らのディテールが、構築されていったのだった。
冬も近づいたある朝のこと、登校してきた小夜はめちゃめちゃ沈んでおり、私や峰子がいくら聞いても何も答えてくれないままに四日後に自殺してしまった。
その四日後に今度は峰子が浮かない顔つきになり、日一日と顔つきは暗くなってゆく、なのに私が何を聞いても、彼女は答えてくれようとせず、ただただ無為に三日が過ぎた。
四日目の放課後、私はただただ励ましの意味だけを込めて、
「じゃ、あしたね」
と峰子に手を振ったが、彼女は思いきり力のない笑みを頬に貼り付け、私にこう言ったのだ。
「あしたはないの」
「どういうこと?」
「文字通り。私も小夜と同じ道を辿る・・・あなたもよ」
「ちょっと!ちょっと峰子!」
呼び止める私にそれ以上は何も答えようとせず、峰子は帰宅し・・・
翌朝私たちは担任から、彼女の自殺を知らされたのだった。
どういうことなんだろう。
どういう意味なんだろう。
私には全くわからなかった。
あの夜、私は何度も峰子に電話したが、電話に出たのは留守電だけだった。
行けばよかったかも知れなかったが、苦手な数学の追試を目の前にして、友人の安否を気遣いまくるほど、私は決して善人ではなく、ために峰子はその夜のうちに、小夜のあとを追っていってしまったのだった。
小夜のあとを?
じゃあ私も?
おんなじように四日後に???
今日が四日目だ。
何かが起きるとすれば今夜だ。
私はひとり、夜半を待つ。
小夜が来るのか。
峰子も一緒か。
それとも全く別物か。
私はどんな対応をしたらいいのか。
生き残れるのか。
夜半になった。
小雨が降り出した。
小雨の中を足音が近づいてきた。
小夜のように軽快でも、峰子のようにずっしりでもないその足音を、私はなぜか知っていた。
でもまさか。
彼女は。
足音は、ついに階段を上がり、私の部屋の前で止まった。
ノックの音。
「お嬢様」
私はその声を知っている。
「お嬢様。お世話に参りました」
和服の似合う、ちっぽけな、老いてしわだらけのきれいめの老婆・・・
「きよ・・・」
名を呼んだ瞬間、私にもわかった。
小夜にはよねが、峰子にはしずが迎えに来たのだ。
そして私にはきよが来た。
そして四日後には・・・
↓三年前バージョン
30年前作は書写
三年前作は記憶起こしです