ハナウタ365(17)もう一日黒田節。から生まれたもの
黒田節に威圧されてしまったみたい。
こんな作品を書いてしまったよ。
槍と酒
ある日、黒田長政は、福島正則のもとに家臣の母里(もり)友信を使いに出すにあたり、母里に厳命した。
福島正則は酒豪である。
そなたも酒豪で通っておるゆえ、呑みっくらを求められるやもしれぬが、受けて立ってはならぬ。
そなたの用向きは使者である。
使者が使者以外のことで表立ってはならぬ。
心得よ。
承知。
友信一言淀みなく答えたが。
行ってみると案の定、正則殿は既に酔っていた。
よい飲み相手が来たとばかり、正則殿は酒を勧めてきた。
主君の戒めもあり、懸命に固辞する友信に、正則殿、
「黒田の者は、これしきの酒も飲めぬのか」
とばかり、それでもなおかつ執拗に酒を強い、巨大な大盃まで取り出した。
見事な漆仕立て。
直径はゆう一尺。
いちどきに三升は入る代物だ。
「これを飲み干せば、何でも褒美を取らす」
何でも?
軽々しい物言いに、カチンとなる友信ではあったが、酔い果てておる正則殿は、気づきもせず引き続き言い募る。
なんだなんだ。
酒豪と言われる母里太兵衛でさえ、このくらいの酒飲む自信がないとはな。
黒田家の侍も大したことないようだ。
腰抜け揃いの弱虫藩め。
長政殿もお気の毒なことよ。
藩に触れ、主に触れた。
もはやこのまま帰ることはできぬ。
友信、
されば。
とだけ言い、なみなみ注がれた清の酒、一息の内に飲み干した。
それだけではない。
おかわり。
おかわりも干して再び、
おかわり。
都合九升飲み干して、ねだった褒美は日本号。
第百六代正親町(おおぎまち)天皇が将軍足利義昭へ下付され、義昭から織田信長へ、信長から豊臣秀吉へ、秀吉から福島正則へと譲られた天下の名槍である。
正則殿はまさに青天の霹靂であったろうが、さすがに否とは言わず、この日を境に日本号は母里友信のものとなった。
これで話が終われば粋なのだが…
酒醒めた福島正則、慌てたの何の。
武士に二言はない。
と昨日自分が言ったことも覚えている。
それでも惜しい。
太閤にも申し訳ない。
ついに使いをやって、槍を返してくれるよう友信に頼み込んだが友信これを拒否。
当たり前である。
主君から厳命された禁酒を無理やり破らされた上に、藩も主君も愚弄された。
この屈辱は日本号でも濯げぬと思っておるに、返せだと?
頑なに拒んでいたら、正則殿主君とやりとりし、主君長政殿に言わせる、返しやれと。
私はこれで主の叱責も受けたのに、返すのか。
叱られ損か。
ええいこの上は、鬼に責められても返すものかあ!!
意地張っておるうちに、事は正則殿と主との遺恨となってしまい、納めるのにあの名軍師・竹中半兵衛殿のお身内、竹中重利殿の仲立ちを受けたという。
酒はうまいものだったのに、以後はうまくなくなった。
名槍得てもつまらぬ人生となってしまった。
酒は呑んでも呑まれるな。
正則殿。
心得られよ。
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