私本義経 行家と結ぶ
存念
義仲は勝手に滅びた。
平氏は追われて滅びた。
源氏は安泰なのだろうか。
頼朝的には、義経が目の上の瘤。
鮮やかに勝ったことが目障りなのだ。
義経に二心はない。
一心に兄を慕い、成果を挙げんとした。
それで憎まれたら身も蓋もない。
だが頼朝はまさに身も蓋もないのだ。
私に対する態度だってそうではないか。
大きな支配地を求めたわけではない。
たかが松田あたり、くれておけば良かったのだ。
吝(しわ)い頼朝。
居丈高な頼朝。
おまえがふんぞり返っておるその場は、もともとは、我が兄・義朝のものであり、もっと言えば悪源太・義平がその手血にまみれさせて広げたものなのだぞ。
後から来て、のうのうと、鎌倉殿とか呼ばれておるが、儂が令旨を伝えなんだら、おまえなぞ、いつまでも伊豆の色男にすぎなかったのだ。
父の名、兄の名に乗っかって大きくなり、次には範頼や義経に戦さすことで、成果だけ独り占めしておるにすぎぬ。
そんなおまえがいよいよ義経を、ひいては儂をも消し去ろうと動き出した。
そうはさせんぞ頼朝。
本当の戦さ上手は義経じゃ。
義経の名声がお主の小賢しさ、すでに暴いてくれておる。
儂は義経を支援するだけでいい。
素っ首洗って待っておるが良いわ!
白拍子
またも叔父上の来たるか。
はい。
本日は、ほとんど一日粘って行きました。
おまえの読みが当たるので、会わずに済んではおるが。
わたくしとて、すべて確実に当てることは無理かと。
当たり前だ。
神ノ子と宣旨いただいていても、所詮人の子、降りもの憑きもの無きときは、舞の上手な女性(にょしょう)に過ぎぬ。
憑きもの。
そう。
たずさが現れた時は驚愕した。
通常は、私に縋り、受け止めるのがやっとの静が突然、私を褥に押し倒したのだ。
私の上に打ち跨がり、好色な笑みを浮かべたかと思うと、
初めてのこと、覚えてあるか。
そう言って、私を己に導いたのだ。
蠢く内襞、執拗なる攻め。
腰の動きまで完全にたずさだった。
覚えてあるか。
覚えてあるか。
忘れるはずがない。
女人といたしおるのに、女人にいたしおるのに、いつも煽られていたのは私だった。
たずさの腰は驚くほど貪欲に、私を求め、吸い付き、搾り取った。
吸いつく襞が忘れられなかった。
それが今再び味わえてある。
例え憑依の時だけであっても、あの味わいが黄泉から戻り来るのだ。
私が静を手放せなくなったのは、当然どころか必然であった。
きょうから四日断食を。
なんと?
近々景季が参ります。
病みの態で会うのです。
そのための。
断食か。
だが何のために。
すぐにわかります。
そして景季が去った直後から、急いで体力を戻すのです。
????
静の言うことはとんとよくわからぬ。
だが従って、何ら悪いことはあるまい。
策は図に当たった。
訪うた景季の用向きは行家討伐だった。
私もあやつは嫌いだが、仮にも叔父である。
この手で縊り殺す気にはなれなかった。
応ずるに困難である。
この通り病身であるため。
並びに…
同族の血を流したくはないので。
ああ。
言いながらわかったのだ。
私は兄に弓は引かぬ。
だって同族ではないか。
源氏の歴史が同族殺しの繰り返しであっても、私はそのならいに並びたくはないのだ。
そして。
行家に与したくないのもそこだった。
あの者は同族殺しで。
しかもその手で奪った命はわが直兄で。
許せるわけがなかろうが!
それなのに。
叔父は私を救いに来たのである。
それでも地球は回っている