そうか、日本語力の問題なのか...と思った日
塾で中高生に英語を教えていると、多くの生徒が英語が苦手あり、嫌いなわけなんだが、そもそもそれ以前に日本語力に問題がある場合が多いことに気づく。
特に、それは英作文を書かせてみれば一目瞭然である。
先日、ある中学生の英作文講座を担当した。まず、初めに並び替え問題を行ってもらったのだが、どのような問題かというと、
のような問題だった気がする(選択肢の順番は覚えていないので、適当である)。
正解は「A space shuttle will take you to the moon. 」である。
しかし、その生徒は「You will take a space shuttle to the moon. 」と答えてきた。このミスをただの文法ミスとして解釈するのは危険な気がする。(なぜなら、そもそも文法的には決して間違っていないからである。チョムスキーが述べた通り、文法の正誤と意味は独立しているというのが如実に出ている。)
そもそも、中学英語を全く覚えていないという方のために簡単に説明を加えておくと、この問題は「スペースシャトルによって月に行ける」という文章を「スペースシャトルが月に連れてってくれる」と捉えなおし、「take 人 to ~(人を~に連れていく)」という表現を用いて答えてほしいという問題である。
なので、月に連れていく側の主語はスペースシャトルであり、連れていかれる側があなたということになる。
だが、私の生徒の解答だと、「あなたがスペースシャトルを月に連れていく」というん文章になり、「いや、ほなスペースシャトルいらんやん」という話になる。
このミスが発生するのは、彼の英語力というより国語力の問題だろうと考える。なぜなら、抑えてほしい文法事項はきちんと押さえている。
しかし、何が主語で、何が目的語であるかという、言語の最も基本的な部分を取り損ねている。彼だけでなく、主語と目的語の関係を取れない生徒は非常に多い。(普段いかに何も考えず日本語を使い、正しく思考できていないかが反映されている。)
さらに、自由英作文を書かせても、もちろん文法や単語の使い方も無茶苦茶であることの方が多いのだが、それ以上に「いや、こことここは全く繋がってないやん」とか「これはこの主張の理由になってないやん」というミスのオンパレードである。
なので、現在私は英作文の指導に苦戦しているわけだが、なぜこんなにも日本語力が養われていないのか。文章力、ひいては思考力がここまで乏しいのかについて考える必要があるのではないだろうか。(実際、定期テストで400点以上取るような子でも英作文を書かせると似たような結果になることが多い。)
それについて、文学者の鹿島茂さんは、「日本は、明治時代以降、急激な経済成長を果たし他の先進国に追いつくためにスピードが求められた。一方で、考え方を身に着けるというのは時間がかかりすぎるため、答えだけを与えるような教育や価値観が根付いてしまった。そして、それが現代の教育や職場環境にも残っており、考える力を養うための教育がなされていない」と述べていた。
歴史的背景が正しいか否かは分からないが、実際そうなっていると思う。なぜなら、自分の頭で考える子が非常に少ないからである。
すぐに答えを求め、講師も嬉しそうにそれに答える。グッととどまって己の力で答えを導かせるということをしようとしない。
その結果、少しでも頭を使わなければならなそうな数学の問題などは手すら付けようとしなくなる。
そのようにして、思考力が錆びついていってしまうのではないか。
そして、その結果、英作文では、覚えたばかりの単語を並べ立てるだけの文章が完成するのではないか。
よって、私は英作文の指導をするときは、まず日本語で書きたいことを書かせて、それを添削するようにしている。
私がイギリスでエッセイ(日本で言うレポート?のようなもの)を各授業を受けていた時、「私はまず日本語で書き上げてそれを英訳してるんだけど、それでもいいの?」と聞くと、「それはあんまりよくないかな。できれば、英語で考えて英語で書く方が良い」と言われた記憶がある。
確かにそのとおりである。英語で学ぶ以上、英語で思考できる力を身につけないといけないわけだし、日本語のニュアンスを英語で全くそのまま伝えることは不可能である。よって、私が書き上げた日本語のエッセイも、英語にすると、意味は大きく異なる可能性が高い。
よって、そのような指導は当然であり、正しいと思う。なので、それから私はなるべく英語で書き出すようにしていたのだが、最初の方はそれは厳しいと思う。
ましてや、普段から英語を用いていない中高生に、英語で考えて英語で書けというのは酷な話である。
なので、まずは日本語で書けと指示をする。そして、日本語を見て、文章の整合性を確認する。わけのわからない文章を書いてきたら、日本語の書き直しを入れる。
そして、日本語をクリアしてやっとそれを英訳していくのだが、そこも一苦労である。
大抵の学生が全部を直訳しようとする。例えば、「スマホをいじる」ってなんて言うの?とか言ってくる。
なぜ「いじる」を直訳しようとするのか。「use smartphone」で良いではないか。このような意訳の力も日本語力であろう。と考えると、やはり、英語をする前に日本語力が必要ということになろう。
というわけで、より指導の悩みが増えた一日であった。
海野華月