奥さまわくわくスペースがほしい


実家には自分の部屋はなく、ずっと欲しかった。押入れを部屋にしようかとも思ったが親に却下され、わずか一畳ほどの物置にしていたスペースに勉強机と本棚を置いて、部屋とまではいかない自分空間を作った。狭い環境が逆に心を落ち着かせた。昔から狭い空間が避難場所だったのだ、トイレはまさにそうで、自分自身を守るために閉じこもった。心がこれ以上壊れていかないように。そこでよく空想の世界に浸っていた。そこから出た瞬間に一気に現実の世界に戻るのである。
思春期のほとんどはその穴蔵のような空間に身を潜めた。ヘッドフォンをして音楽を聴き、本や雑誌を読みふけり、壁に貼ってあるポスターを見つめながらあらゆることを考えたり空想に耽った。その空間は外の世界から遮断された、地下室のような存在だった。自分の地下室に潜るためにそこへ降りて行き、現実の世界へ戻るために地下室から上がってくる。

結婚して最初の3年間は義母と同居していた。一応寝室とは別に夫と私の部屋、というスペースがあったが、圧倒的に夫の私物で占領され、ほとんど夫の部屋だったことに毎日憤慨した。どうしても自分のスペースを確保したい。自分の部屋が欲しいと主張し続けた。引っ越して、自分の部屋を持つことになった。二階の南向きの明るい部屋だ。最初は歓喜したのだが、少しして憂鬱になった。私にはその部屋は圧倒的に広すぎて、明るすぎる。自分の私物は机、本棚くらいしかなく、六畳の部屋は無駄にがらんとして、「もっとこの空間を使ってくれー」と部屋が嘆いている。薄暗い穴蔵出身者としては、全く落ち着かない空間だ、という現実に打ちひしがれた。だから結局自分の部屋にいる時間なんてなく、大体のことは居間で済ませてしまうし本当に潜りたい時は喫茶店に駆け込む。

作家の湊かなえさんが家を建てる際に、奥さまわくわくスペースというちょっとした書き物や手芸ができるような場所を作ったという話を聞いて、あの穴蔵を思い出した。わくわくスペースというネーミングはキャッチーすぎるけど、求めているものはほぼ一緒だ。畳一畳分くらいでいいのだ。そこで思う存分潜り込みたい。
今の家には残念ながら気の利いた穴蔵感のあるスペースはない。唯一、息子の部屋はロフトベッドにしていて、下の薄暗いスペースに勉強机を置いているので、そこが理想には近い。しかし、息子のスペースを取るわけにはいかないし、母親もロフトベッドにするのはどうかしてる。寮生活送ってるみたいな気分だし、楽しいかもしれないが・・いや、やっぱりどうかしてる。
ああ、わくわくスペースが・・と思いながら、居間で子供たちがワーワー騒いでる横で、パソコンを開いているのである。













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たみい
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