アーサー・フレックと愛への渇望
JOKERの序盤。主人公のアーサーは何も悪いことしてないのに不良少年に暴行され、カウンセラーと面談して薬もらって、肩を落としてボロアパートに帰る。
彼にとって人生はとてもつらいものなんだろうなと、観客はこの時点で既に理解している。
だから、アーサーが母親とベッドに座って
「マレーだ」って嬉しそうに呟いて一緒にテレビを見始めたとき、私もすこしホッとしたんです。
アーサーにも、安心してくつろげる場所があって家族がいるんだなって。
アーサーのお母さんはトーマス・ウェインの手紙のことばかり話してるけれど、アーサーのことを気にかける言葉も口にするし、すごくいいお母さんってわけじゃないにしても、ちゃんと家族なんだって私も信じていました。
だからこそ、その後の展開はショックでした。
(※このあと、ネタバレに配慮しない文章になるので注意してください)
考えてみれば、ダークナイトなどの前作で描かれているようにジョーカーって正体不明の悪なんですよね。だから、ジョーカーにはルーツなんて必要ないし、だからこそジョーカーはジョーカーなのだとも思うけど、アーサーは人間だから、あのときはまだアスファルトに咲いた小さな花だったから、お母さんと自分の間には精神的にも血縁的にも親子の絆はなかったって知って本当に本当につらかったと思います。
アーサーって、すごく子供っぽい印象があります。純粋無垢で無力な子供みたいな、無邪気で頼りない雰囲気がある。
それは、彼が虐待されて育った子供だったからかもしれません。冒頭で不良少年に暴行されて抵抗できなかったのも、子供の頃から虐げられてきたからなのかも。
未だに親から与えられる愛情に飢えていて、憧れのマレー・フランクリンのことも『この人が、もしも自分のの父親だったらなぁ』という眼差しで見ている節がありました。トーマス・ウェインにも、「ただ父親として愛してほしいだけなのに」というようなことを言っていたし。
隣人のシングルマザーに恋をしたのも、彼女が一人娘を大事に育てているお母さんであるという点が関係していたのかもしれません。
たしかに彼女は綺麗な女性だけれども、アーサーの女性に対する愛欲ってそこまで成熟していなさそうだし、母性を求めている部分が大きい気がします。
それにしても、まさか、彼女との恋愛が妄想だとは思わなかったので、私は非常にビックリしました。
言われてみればたしかに、
「あなた、私のこと尾行したでしょ?」
ってわざわざ部屋訪ねてくるとか、どんなご都合展開だよと思いますし。
ナイトクラブで発作起こしながらステージに出てきたアーサーを観て私は、
「こりゃダメだ、終わった。すべったわこれ」と思っていたのに、彼女は微笑みながら拍手してくれているし。
おかしな点はいくらでもありました。
私だって、もしもゴッサムシティでシングルマザーやってたら、娘守らなきゃいけないし、もっとお金ありそうな手堅い男性と恋に落ちたいです。
「まぁでも、アーサーって子供みたいで放って置けない雰囲気あるし、チャーミングだよね。だからこの人も好きになってくれたのかな......」
と、呑気に考えていた自分を今となってはぶっ飛ばしてやりたいです。
全部妄想だった!
家に帰ってきたらずぶ濡れのアーサーが部屋にいたときの彼女の恐怖たるや、想像するに難くない。しかし、恋人だと思ってた女性に、赤の他人に対する怖れの感情を向けられて、あっ全部妄想だった!と気づいたアーサーの気持ちを考えると、めちゃくちゃかわいそうで悲しくなります。
ジョーカーになればハーレクインという彼女が半ば約束されてるし、よかったねアーサー。