相手を慮る

小山薫堂さんだったか。
相手を慮る、という言葉を聞いたとき
自分の辞書にはないかもしれないという衝撃が走り、
そのくらいのパワーワードだった。

頑張ってくれていたチームのメンバーが
離脱した。
おそらく長引きそうだ。
でも慌てずゆっくり癒してほしい。

その仕事を私ともう一人で受け取った。

もう一人は派遣さんなのに、
ほんとうに頑張ってくれていて、
そんな彼女の姿を見ると
自分は決してても抜けないし、
少しでも彼女の負担を軽くせねばと思ったら
文字通り息つく暇もなかった。

あるとき、わたしのチームの業務がオーバーフローし、私自身もオーバーフロー。
もはやこれまでとばかりに、上司がそのチームを同じユニットの隣の島の係長の配下につけた。

今月の業務のピーク期で
家にも仕事を持ち帰らないと終わらないほどで、
神経も体力も削りながら過ごしていた時期だった。

新しくチームを受け持つことになった係長が
なかなかの剣幕で私のもとへやって来た。

この対応をしてもらわねば困る、と。

こちらは納期が迫るなか見通しがつかず
それどころではない、という状況下で、
睡眠時間も私生活も削りながらの中。

いまじゃなくてはダメか、
優先せねばならないことがある、
もしも待てないというのであれば
私を待たずに対応していただいて構わない
と伝えた。

これが勘に触ったのか。

こっちだってやらなきゃいけないことが山積みで
困っているんだ。
とにかくこまっているからどうにかしてほしい。

なかなかの剣幕。

面倒くさくなって、
やりますよ、明日朝までにお渡しします、
それでいいですか、と。

忙しいところすいませんけどね、
よろしくお願いしますよ

強ばった顔でそう言って去っていったのだけど。

終わらないけど納期目前の仕事をやって、
なんとか2時。
そこから一時間かけて3時。
この時間にメールを送ると労務上大変なことになるから、
朝イチでメールを送った。

それから1週間。

渡したものに不備がないか聞いてみたら
あ、大丈夫なんじゃないですかね、と。

え?様子おかしくない?急いでたんだよね?
THE・剣幕。

聞けばまだ実用に至ってないと。

おいおい。
オフィスで、みんなの前で、
あれは何だったのか。
THE・剣幕。

腹が立つというより悔しくて、
少し嫌みを込めて、
お急ぎとうかがっていたのでどうだったかなと思ったのですが、まだお使いになられてはいなかったんですね。と。

そうしたらまさかの。

あぁ、お忙しいときに対応してもらったのに
報告もしなくてすみませんでしたね
あ、忙しいなら何か手伝いましょうか?

と。

え、ぶん殴っていい?

残念極まりないやつだった。

中途入社の日も近くて
便りにしてたんだけどなぁ。
残念。

でもそのとき、引き潮のごとく引いてく自分のモチベーションのなかで、辛うじて残ったのは、

せめて自分は相手を慮ろうと言うこと。

私は忘れないようにしよう、と。

そうだ、わたしがこの会社に来た目標も見失わないように。

資格を取るための経験値、
マネージメント職の経験値。

ヘドロのような沼地でも
字面だけでいうならば、
この目標は悔しくも達成されている。

ゼロではない。
収穫はあったのだ。

あとは自分か削られすぎて
鰹節のようにならないこと。

研ぎ澄まされて
脆く折れないようにすること。

この砦は守らねば。