【毎週ショートショートnote】標的は違えども…
「よぉ~し、いいぞ。そうだ。そこから狙え」
「アッ!外しちゃった…」
「いいんだよ。ドンマイだ、としお」
流行り病により、4年ぶりの開催となった近所の夏祭り。
山車から響く太鼓や笛の音、よりどりみどりな出店から響く威勢の良い掛け声。
あ~、夏が来たな~とより深く実感する。
息子のとしおは7歳。
物心ついた頃は、まだ世の中は自粛モードだったから、こんな賑やかなお祭りを経験するのはほぼ初めてだ。
先ほどからとしおが夢中になっているのは、射的。
俺も子どもの時分には夢中になってやったもんだ。
今思えば、その原体験が今の俺を形作ったと言っても過言ではない。
「父ちゃん。これでいいかな?」
「おう。お前が良いと思えば大丈夫だ」
そう言って俺はとしおに親指を立てて見せた。
俺ゆずりのジャガイモ顔を、クシャっとさせてきて何だか愛おしい。
としおは銃を構えるなり、真剣な表情で標的をとらえている。
俺も思わず鋭い眼光で同じ標的を見つめている。
すると射的屋のおやっさんの表情が、青白くなっていっている。
ヤバいヤバイ。
思わず、我を忘れるところだったぜ。
それにしても、スナイパーとしていくつもの獲物を捕らえてきたこの能力が意外なところで役に立つとは、20年前の俺からしたら考えられないことである。
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