【ことわざdeショートショート】小さな世界

#ショートショート
#短編
#葦の髄から天井を覗く

”私には好きな人がいます。告白したいのですが、勇気が出ません。どうしたら勇気が出ますか？（ネズミの国　女性　16歳）”
俺はすぐさまキーボードを軽快に叩き込む。
”なぜ勇気が出ないのでしょうか。それはきっとあなたの中にある「好きな人に嫌われたくない」という思いが、告白の邪魔をしているのでしょう。
ですがこの世の中、全ての人間に好かれるのには無理があります。
たとえ好きな人に嫌われたとしても、まだ16歳です。
これから先の長い人生、あなたを心から好きになってくれる人が現れるはずです。
それを楽しみにしながら、ひとまず今は好きな人に気持ちをぶつけてみたらどうでしょうか？
あなた様の人生がより良いものとなりますように”
（アリの国　男性　50代）

ここは様々な人たちが悩みを相談するチャットサイト。

俺は長々と打った文章をもう一度見直し、「投稿」ボタンをクリックした。
その瞬間、通知音が鳴った。
”あなたの返信が50いいねされました”
「ふーっ」
パソコンを閉じ、俺は首をぐるりと回した。

「タカシー、学校おくれるわよー」
「はーい」

母の甲高い声が階下から聞こえてくる。
朝から元気なものだなぁ～。

こうして（人間の国　タカシ　11歳）は、ランドセルを背負って慌ただしく部屋を出るのだった。