#毎週ショートショートnote【穴の中の君に贈る】
顔を見なくなってから、早8年がたった。
君は今も元気にしているのだろうか…。
君との出会いは、ぼくが小学2年生のときだった。
学校の帰り道、やけに北風が染みるなかをトボトボと歩いていたんだ。
ふと畑の方に目をやると、何か光るものが。
サツマイモだった。
サツマイモは光らないぞと思うだろうが、何を隠そうぼくの大好物はサツマイモ。
「掘ってみるかい?」
畑の主であるおじさんに声を掛けられ、僕の心は揺れ動いた。
ぼくは畑の中へと一歩、踏み出した。
辺りに広がる土のいい匂い。
昔ばあちゃんの家に遊びに行くと、こんな匂いがしてたっけ。
ぼくはノスタルジックな思いに駆られながら、サツマイモを掘っていく…。
気づくと大量のサツマイモを抱え、家路につく。
母のサツマイモ料理はおいしくて、それが一週間続いた。
だが、ある一点の事実がその後の僕を悩ませた。
それは小学校を卒業し、いよいよ大学進学で家を出る事になっても片時も忘れることが出来なかった。
昨日母から電話があった。
あのサツマイモ畑は更地になったらしい。
ぼくは安堵したと同時に、僕が掘った穴に埋めてしまった君のことを思った。
シャベルよ…。
今も君にはシャベルのままでいてほしい。
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