#シロクマ文芸部 金魚鉢
金魚鉢、という言葉を聞くと、私はなぜか暑い夏を思い出す。
「チリンチリン」
思わず目が覚めた。
横たわってる体に、開け放した窓からわずかばかりの風を感じる。
「ふぅ~、寝ちゃった」
最近になり膨らみ始めたお腹をさすりながら、私はこれから5ヶ月後に生み出されるだろう生命について、思いを馳せていた。
額に大粒の汗をかいていた。
喉の渇きを覚えた私は、緩慢な動作で立ち上がる。
開け放した窓に近づき、どこまでも広がる建物の集合体を眺めた。
「チリンチリン」
わずかばかりの風が、風鈴の金魚を涼やかに揺らす。
夏の日差しはきついのに、そこにだけ柔らかい光が反射してとってもきれい。
それはまるで恋のような、いや愛のような、触れたら一瞬で弾けて消えてしまう儚さによく似ている。
この子もいずれ、恋をするのだろうな。
お腹に手を当てながら、私は果てしなく続く建物の凹凸や色の移り変わりを、いつまでも眺めていた。
空に浮かぶ、大きな金魚はいつの間にか消えていた。
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