【慣用句deショートショート】流行り言葉って宇宙用語にしか聞こえない…
「おい、君!君は会社に来てからというもの、そうやって板の上に寝っ転がってるだけじゃないか。仕事をしろ、仕事を」
カチョーが、黒いアームカバーをしきりに上げながらしかめっ面で俺を見下ろしてきた。
「これは実験ですよ」
「実験?」
「そう。板につく、っていう慣用句あるでしょ?じゃあ、板みたいなところに体をずっと付けていたらどうなるのかなっていう実験」
「そんなことしてどうする?」
「板につく、とはどういうことなのか?ということが大衆に説明ができる」
「カチョー、最終チェックお願いしまーす」
「君。僕は上司として君と何十年やってきたから、君の魂胆ぐらいお見通しだよ」
「ギクッ」
俺は体が震えた。
その振動で、床板も鳴る。
慣用句にかこつけて、苦手な分野から逃げようとする俺の性格を見抜いたカチョーは、エスパーだ。
仕方ない。
俺はヘッドフォンを取り、デスクに戻った。
静けさの中で、赤鉛筆を走らせる音だけが響いている。
ここは某出版社の編纂業務の一室だ。
さあて、「ちいかわ構文」を調べるとしますか。
「・・・・ッ!」
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートを頂けると幸いです。
頂いたサポートは、自分や家族が幸せになれることやものに使わせていただきます。