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【数学コラム】相加相乗平均

 今回の数学コラムでは相加相乗平均について話そうと思います。相加相乗平均は高校数学で登場しますが、数が2つの場合だけしか考えません。このコラムでは一般的な場合について考え、証明します。証明方法は難しいですが、数Ⅲの範囲で理解することができます。


 2つの正の実数$${a_1,\, a_2}$$の平均を考える時一般に次の数を考えると思います。

$$
\frac{a_1 + a_2}{2}
$$


これを相加平均と言います。
 平均の仕方は他にも考えられて、例えば、2つの正の実数$${a_1,\, a_2}$$を掛けてルートを取れば平均らしくなります。

$$
\sqrt{a_1 a_2}
$$

これを相乗平均と言います。
 相加平均と相乗平均を考えたとき、必ず次の不等式が成り立ちます。

$$
\frac{a_1 + a_2}{2} \geq \sqrt{a_1 a_2}
$$

これが高校数学で習う相加相乗平均に関する不等式です。これは簡単に証明できるので、証明は自明のものとします。(実際に自分で証明してみてください。)

 ただ、平均とは2つの実数の場合だけ考えるのではなく、一般的に多くの実数が存在する場合に平均を考えます。例えば、$${n}$$個の正の実数$${a_1,\, a_2,\, \cdots , \, a_n}$$が存在したとき次の不等式は成り立つのでしょうか?

$$
\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n} \geq \sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n} \,\,\,\,\,(n\geq 2)
$$

この不等式は、実は成り立ちます。そのことを証明していきます。

 この不等式を証明するには数学的帰納法を用います。
 まず、$${n=2}$$のときは最初に見たとおり成り立つので大丈夫です。
 次に、$${n=k-1\, (k\geq 3)}$$のときに成り立つと仮定します。つまり、次の不等式が成り立つと仮定します。

$$
\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1}}{k-1} \geq \sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} \\
a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1} \geq (k-1)\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} \\
\therefore a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1} - (k-1)\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} \geq 0
$$

このとき、$${n=k}$$の場合を考えます。ここで、次のような関数$${f(x)}$$を導入します。

$$
f(x) = ( \frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1} + x}{k})^{k} - a_1 a_2 \cdots a_{k-1}x \,\,\,\,\, (x\geq 0)
$$

この関数が任意の正の実数$${x}$$で$${f(x)\geq 0}$$となれば、数学的帰納法より証明したい不等式は証明できたことになります。よって、「任意の正の実数$${x}$$において$${f(x)\geq 0}$$」となることを証明していきます。
 まず、関数$${f(x)}$$の導関数$${f'(x)}$$を考えます。

$$
f'(x) =  ( \frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1} + x}{k})^{k-1} - a_1 a_2 \cdots a_{k-1} 
$$

この導関数$${f'(x)}$$を見ると、この導関数$${f'(x)}$$は$${x}$$に関して単調増加する(つまり$${x}$$が増加すれば$${f'(x)}$$も増加する)ことが分かります。したがって、関数$${f(x)}$$は下に凸な関数です。

 次に場合分けをします。①$${f'(0)\geq 0}$$の場合と②$${f'(0)<0}$$の場合です。
 ①の場合、関数$${f(x)}$$は$${x}$$に従って増加する一方で、$${f(0)>0}$$であるのは明らかなので、すべての正の実数$${x}$$において$${f(x)\geq 0}$$です。
 ②の場合は、$${f'(x)=0}$$はただ一つ正の根を持ちます。それを$${x_0}$$と置くと次のように計算できます。

$$
( \frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1} + x_0}{k})^{k-1} - a_1 a_2 \cdots a_{k-1} = 0 \\
 \\
\therefore x_0 = k\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} - (a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1})
$$

関数$${f(x)}$$は下に凸なので、$${x=x_0}$$で最小値をとります。

$$
f(x_0) = (a_1 a_2 \cdots a_{k-1})^{\frac{k}{k-1}} - a_1 a_2 \cdots a_{k-1} (k\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} - (a_1 + a_2 + \cdots + a_{k-1})) \\
 \\
f(x_0) = a_1 a_2 \cdots a_{k-1}(\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}} + a_1 + a_2 + \cdots a_{k-1} - k\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}}) \\
 \\
\therefore f(x_0) = a_1 a_2 \cdots a_{k-1}\{a_1 + a_2 + \cdots a_{k-1} - (k-1)\sqrt[k-1]{a_1 a_2 \cdots a_{k-1}}\}
$$

したがって、最後の式の右辺の中括弧は数学的帰納法の仮定より$${0}$$以上なので、最小の値をとる$${x=x_0}$$において$${f(x_0)\geq 0}$$となります。ゆえに、②の場合においてもすべての正の実数$${x}$$において$${f(x)\geq 0}$$となります。
 以上①②より、すべての正の実数$${x}$$において$${f(x)\geq 0}$$となり、証明が終了します。


 いかがだったでしょうか?少し難しかったと思います。ただ、相加相乗平均の不等式の証明で、関数の凸性を利用したりする発想がおもしろいですよね。
 (ちなみに、この証明は杉浦・清水・金子・岡本「解析演習」(東京大学出版会)をもとに書いており、また、証明方法は吉田洋一氏によるものだそうです。)

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