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さくら

いつからだろう、ふと視線を感じる時がある。
用事があるふりをして後ろを見ると、
田中君がそこにいる。
彼がそこにいることはさほど不思議ではない。
彼とは小中高大学校と保育園から数えたら17年近く一緒の学校に通っていた。
学校が一緒なだけで、同じグループで遊ぶような関係ではなく、
同じクラスになったりした時に「あっ、また一緒だ」と思うだけ。
その彼の視線を最近よく感じる。
でも変な下心?的な感じではなく「ただ見られてる」って感じ。
気持ち悪いとかはないけど、何か話があるなら声をかけてくれたらいいのにって思うけど、私から話しかけるのも変だから、ただひたすら気づかないフリをしている。

昼休憩になって、学生でごった返している大学の校内を、食堂に向かって歩いていると、
「おぉ〜さくら〜」
と、ナツが声をかけてきた。ナツとは最近いい感じになって来ている男の子。
うん?20歳の私たちが男の人を男の子と呼ぶのはおかしいのかな?
男子というのも変だけど、男性と言うにはまだ子供っぽすぎるし、
それになんか生々しい。
大学生って結構、中途半端なんだよね。
今は18歳で選挙権があるし、20歳になれば成人として親の承諾なしで色々な事ができる。でもだからと言って本当になんでも親の承諾なしでするかと言われればそんな事はしない。
(これは私だけかもしれないけど大半の大学生はそうだと思う)
大人として振る舞いたいけど、学生という立場ではまだ子供なのかなって。
「ん?どうした考え事?また腹でも減ってるのか?」
「ちょっと、なんでもかんでもお腹が空いていると思うのやめてよね」
「じゃー違うの?」「いや、当てるけど」
「やっぱり!さくらは可愛いな、素直で」
可愛いとかそんな言葉をサラッと会話に入れてくるナツが本当にビックリする。
高校の時に仲良かった男子からそんな風に言われた事ない。
私の事を特別に思ってくれているのかな?って勘違いを起こしそう。
ナツは学内ではまぁまぁ有名人。悪い子ではないけどノリが軽め。
大学生なんだからこれぐらいハジけててもいいのかも?って思わせてくれる。
「ナツっていいよね」と言う子と「ちょっと悪ノリで私は無理」っと言う子と、好き嫌いが分かれちゃうタイプ。
私は「まぁ〜いいかな〜♡」なんて思っているんだけどね。
私は見た目で誤解されやすいけど、誰かと付き合った事がない。
高校の時にお遊び程度に付き合った事はあるけど、真剣な交際とまでは行かなくて、グループ交際から1対1の付き合いになる前に私がビビって、
結局お友達で的な感じで終わってる。
大学生になったら素敵な人と恋に落ちて付き合ったりするんだろうな〜。って思ってもう2年生。やばいと焦りだしている。

食堂にはもうすでに何人かの友達が席についてランチを食べ始めていた。
アイが私を見つけて「こっち、こっち!」と大袈裟に手を振っている。
私は「わかったわかった」と手で合図して、ランチを頼みに列に並んだ。
「ナツは何するの?」っと
私のすぐ後ろに並んでいたナツに声をかけると、ナツはその後ろの女の子と仲良く話していた。
『ちょっと、私と一緒に来ていたのになんでぇ〜』なんて思っていたら、
その女の子の後ろに田中君がいた。
『あ、まただ』
同じ大学で学部も一緒だから、昼休みのタイミングも一緒で、この食堂にいるのはわかるけど、なぜ今?って思ってしまって、なんかすごく恥ずかしい気持ちになって、私はとっさに変な行動に出てしまった。
自分の場所から、田中君の前に並び直して声をかけてしまった。
「ねぇ、田中くんでしょ?私のこと知ってる?」
『ヤバイ!すごく間抜けな質問をしてしまった』
「うん、わかるよ。さ、田中さんでしょ?」

そう、私と同じ苗字の田中君。
彼の下の名前が『あき』だから席順では、私が彼の後ろの席。
3回ほど同じクラスになった事があるけど、前の席に座っている田中君には、今まで一度も声をかけた事はなかった。なのに今日初めて声をかけてしまった。
気まずい。すごく気まずい。
恥ずかしさを誤魔化すために取ってしまった行動だから、その後の言葉が続かない。そんな私の状況に気が付いてくれたのか、田中君の方から話を振ってくれた。
「結構な偶然で同じ学校を選んで通っているよね」
「そうそう、私もそう思ってた。あまり話したことはないけど、すごい確率だよね」
「だよね、同じ高校の子達も何人か通っているけど、僕たちとは違う学部だからね」
「だよね、学部まで一緒ってほんとビックリ」
っと話している間にオーダーする場所の近くまで移動していた。
「田中君はどっちにするの?」
ナツにした質問を彼にもしてしまった。
「僕はいつもAランチなんだ、和食が好きだし」
「一緒〜、私もどちらかと言うとAランチの和食派」
そう答えた時、ナツが
「俺らはBだな、若者はやっぱ洋食っしょ」と割って入ってきた。
『俺らって。はいはい、その女の子とね』っと心の中で突っ込んでいると、
「確かに洋食も美味しいよね。僕もたまに食べてみるけど、やっぱり和食に戻っちゃうんだ」
『えぇ〜、普通にしゃべれるんだ。もっと引っ込み思案系だと思ってた』
自分の勝手なイメージで田中くんの事、大人しくて面白みのない人っと思っていた。ナツもまさかこんなに軽く返答が返ってくると思っていなかったらしく、
「おぉ〜、そ、そうなんだ。それなら俺も今度トライしてみるよ」
なんて、ナツらしくない答え方をしていたのが可笑しかった。

#2000字のドラマ


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