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魂壺1

妻の葬式が終わり、やっと一段落ついた。
約1年間ガンと戦った妻が病院で息を引き取ったのは一昨日のことだった。それからは悲しむ暇もなく忙しかった。そして明日はついに火葬だ。ついに妻の体ともお別れしなくてはならない。そう思うと涙が止まらなくなる。子どもたちの手前、俺はトイレの個室にこもって1人で泣いた。

あくる朝、予定通り霊柩車が来た。俺は助手席に乗り、多くの親戚や妻の友達に見送られ、火葬場へと向かった。運転手は、妻の学校や職場の前を通ってくれた。心にじんわり熱いものが流れ込んできて、気がついたらスーツのカラーがびしょ濡れだった。途中、変な骨董品屋が見えた気がした。

焼却炉から出てきたそれは、「これが妻です。」と言われても、現実離れしすぎていてあまり実感が湧かなかった。小さい、ただの灰と骨になっていた。子どもたちと、妻の両親と、骨を拾い、骨壺に収めた。

骨壺に蓋をし、再び車に乗り込んだ。助手席に座っていた俺は、ふと運転席から視線を感じた。思わず目線を運転手に向けると、運転手は俺を見ていた。その目は上と下に白目がはみ出すほどぱっかり開かれていて、口はニヤリと笑っていた。その表情は、散々見てきた哀れみや悲しみの表情ではなく、恐ろしく気味の悪い笑顔だった。

その運転手は、何も喋らず、ただ静かに笑っているだけだった。
「あの、どうかしましたか?」
俺は少し怖くなり、震えた声で言った。
運転手は大きく開いた目で俺を真っ直ぐに見ながら言った。
「かわいそうですね。」
「はい?」
「まだお子様たちも小さいでしょうに。」
「はあ。」
そういえば朝の運転手と顔が違った。俺は驚いたのと恐怖心でまともに返事ができなかった。
だが、そんな動揺を隠さずにいる俺をよそに、その運転手は続けた。
「そんな可哀想な貴方に、教えてあげます。特別ですよ。」
「特別…?なんですか?」
「こんな商品いかがですか?」
運転手が見せてきたのは、骨壺より一回り小さいぐらいの壺であった。
「なんですか、これ」
「魂壺(こんつぼ)です。壺に魂を閉じ込めて置けるのですよ。奥様の魂、まだここに残ってますから、こちらを入れて蓋をすれば。」
そう言って運転手は壺に何かを入れるような動きをし、蓋をしっかりと閉めた。
「ほら、聞いてご覧なさい。」
俺は言われるがままに壺に耳を当てた。すると、驚いたことに妻の声のようなものが聞こえてきた。なにを言っているのかまではわからないが、遠い所から俺に呼びかけているような、そんな声だった。
俺は思わず涙を流し、この不思議な壺を抱きしめていた。
「お客様、そちら、買われますか?」
運転手に訊ねられ、俺は知らずのうちにコクリと頷いていた。
「あの、お代っていくらでしたっけ?」
「後払いで結構です。数日後に、請求書が届くので、そちらをご確認ください。」

気が付くと運転手は朝の運転手に戻っていた。腕の中には骨壺と、一回り小さい壺、魂壺があった。そしてポケットに違和感を感じ、探ってみると、そこには小さな名刺が入っていた。

                 ー冥土の土産、色々売ってますー
                       三途骨董 店長 牛鬼(ウシキ)






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