10、まつげ
弱った彼女に、触れる。
いつも我が道を強く歩く彼女は、意外と弱い。
こういう時かける言葉は、きっと、みんな知らない。
そんな便利な言葉は、おそらく、存在しない。
あなたも、たぶん、知らない。
ときどき不安に揺れる手をにぎりしめながら、頷く。
背をさする小さな手が、
ゆったりとしたリズムをつくって、動く。
それはまっすぐ、彼女のためだけに。
あなたは彼女を思って、
笑ったり、怒ったり、
ときどき涙したり、する。
あなたはそれが正誤ではないことを知っていたよ。
彼女は意外と強いので、
あなたの言葉をずっと抱きしめて生きていくよ。
彼女はかしこいから、
私がずっと彼女のゆれるまつげばかりを見ていたことに気づいていたよ。