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新譜「Musikera」セルフライナーノーツ


はじめに

アルバムとしては3年ぶりの新作「Musikera」を12/1 (日)にリリース開始してからだいぶ経ってしまいましたが、こちらに作者本人からのライナーノーツを書き記したいと思います。
なお、各曲の解説のはじめに、解説されている楽曲のURLを貼っています。バックグラウンド再生が可能なので、聴きながら解説を読むのもよいかもしれません。

1.  全体の構成について


録音、マスタリング、アートワーク含め、全て1人で制作しました。
今までは他の方にご協力いただいていた部分を自分で作ることで、やりたいことが完全に詰め込めた気がします。
また、今までのアルバムはほとんど打ち込みが使われていましたが、今回、ボーカル以外は完全にモジュラーシンセのみで制作しました。
「この音がシンセから出るの?」という箇所もあるかと思いますが、そちらも後述していきます。

今回の全3曲+すべて長いという構成は、B'zのミニアルバム「BAD COMMUNICATION」を意識したものです。
内容とB'zはまったく関係ないので、ほとんど遊びではあります。
とはいえ、私としてはこの3つは兄弟のようなものだと思っていて、これ以上増やすことも減らすことも考えられませんでした。
結果的に今までで一番まとまりの良いアルバムになったと思います。

アルバムのタイトルは、1曲目の「無詩快楽」ができた段階で決めました。
主催イベントの前だったので表に出さないようにしていましたが、制作当時、諸々のプレッシャーからか信じられないほどヤサグレていて、されど誰にも言えずに塞ぎ込む状況が続いていました。
そんな中で、自分や自分のコンテンツに対して「ムシケラだ」という気持ちになっていたのがダイレクトに表れています。
その上で「Musikera」という単語を英語にすると「Musik Era (音楽+時代)」と読めそうなのがおもしろいなと思ったのも、理由としてあります。

3曲とも少しだけ毛色の違う曲で、ざっくり言うと
1.  デプレッシブブラックメタル
2. インダストリアル
3. ノイズ
となっており、完全に私が好きなことだけをやりました。

2.アートワークについて

自分の脚の写真を満遍なく詰め込みました

昨年11月に死者の日を祝うライブ配信をしたときに撮影した写真をベースにして、自分の足の画像を満遍なく貼り付けています。
本来はもっとアルバムの内容に即したアー写を構想していて「素顔にガムテープでグルグル巻きにされて虐められているムシケラ野郎(自分)の写真を撮ろう」と考えていたのですが、目も当てられないアー写になりそうなので、今回のアー写に変更しました。
完成したアートワークは、私が好きな作家である林良文さんの作品集を思い起こさせるものになりました。
(参考: 林良文画集構造の原理)

私は、Ami-Biqueというコンテンツは自己と切り離されていて、半ば生物ではない存在としてデザインしようと目論んでいるので、膨大な脚の塊によって、人間の肉体がどこか人間ではない無生物になっているような今回のアートワークは、自分の見方に合致するものでした。

また、フィジカル盤を買うと見られるブックレットのデザインは、どこかの動物園で撮ったヤギの糞を星空のように加工したものです。
裏には、ものすごくボカシた文字で
「このアルバムには いい曲が1つも入っていませんが 作者の意向によるものです」
と書いてあります。
当時の頭の中が如実に表れていますね…

3.  楽曲解説①無詩快楽 (Music Error)

無詩快楽 (Music Error)
インスパイア: cali≠gari、Xasthur、etc.
「cali≠gariみたいな曲が作りたい!」が本曲制作の始まりでした。
(参考: cali≠gari「ブルーフィルム」 )
聴き比べたらわかる通り、いざ完成してみるとcali≠gariとはだいぶ離れた曲になりました…

ポエトリー+サビは歌う(叫ぶ)という曲構成になっているのですが、私は元々そういう構成の曲が好きでした。
(ex. B'z「It's Raining...」、キノコホテル「夕焼けがしっている」、SPANK HAPPY「Vemdome, la sick KAISEKI」)
ずっとこういう曲を作ってみたいと思っていたので、今回は念願が叶った気持ちです。

歌詞は本当に、自分が普段から思っていることを余すことなく表現しました。
「生きたとしても苦しみや絶望が多く、大して生きている感じなどしないものだ。かといって死んだとしても、誰かが記憶していて、(時として歪んで)語り継ぐために本来的には死ぬことができない」
Linkin Parkのチェスター・ベニントンが亡くなった時などに思ったことです。
私は、人が死んだ途端にやさしくなったり輝かしく語り継ぐ現象を「死人ポルノ」と呼んでいて、大変に嫌悪しています。
だいぶ昔から「死ぬな」「生きろ」という言葉を忌避している理由も、この死人ポルノにあります。

オケの音については、もう完全にXasthurです。
Xasthurはアメリカの独りブラックメタルプロジェクトで、作品全体がとめどない陰鬱に満ちた「デプレッシブブラックメタル (DSBM)」と呼ばれるサブジャンルの中でも唯一無二の曲を作っています。
(参考: Xasthur「The Prison of Mirrors」)
Xasthurを知っている人が聴けば「Xasthurじゃん」ってなるくらい音が似ている気がします。
(※音作りについては「6.  補足」で解説します)

4.  楽曲解説② I love you

I love you
インスパイア: 中学生棺桶、BUCK-TICK、じゃがたら、etc.
「中学生棺桶みたいな曲が作りたい」が動機でした。
(参考: 中学生棺桶「馬鹿がばれるのこわくて無口」)
こちらもまるで違う曲になっています。
歌詞を見るとわかる通り、露悪的なまでに毒を吐き続けています。
ディスりながらも最後に「愛してるよ」という歌詞構成は、Eminemが「White America」でやっていた手法に着想を得ています。
少し違うのは、Eminemはほぼ皮肉で「愛してる」と言っていましたが、この曲の場合は90%以上は純粋に愛情であるという点です。
私も元々は「この歌詞、さすがに言いすぎだから『I love you』ぐらい言っといてやるか」程度の気持ちで歌詞を書いたのですが、いざ録音してみると本当に純なる愛情があふれていくのを感じていました。
正直、この歌詞は自分に対してもブッ刺さりまくりで、マシンガンを乱射して自分の心臓も撃ち抜いてしまったようなデストロイに満ちています。

ビートはミニマルで、ずっと裏拍でメタルパーカッションのようなキックが鳴っています。
(個人的には、めっちゃgloptinっぽい音だなと思っています)
裏拍でキックを打つのは、BUCK-TICKの「Iconoclasm」のイントロからの影響です。
Iconoclasmはイントロの途中で表拍に切り替わりますが、私の「I love you」では最後まで徹底して裏拍を打っています。

また、歌の合間には「ノイズソロ」という謎のパートが2箇所あります。
1回目は音階つき、2回目は音階なしです。
音階つきのソロの方は、私がライブで使っている「Katana Synth」のリボンコントローラーで演奏しています。
音階がついているので最早ノイズではない気もしますが、ギターのように一般に存在する楽器でもないので、ノイズソロという位置付けにしました。
この、長いビートの上で自由にやるあたりは、愛聴しているじゃがたらの「クニナマシェ(暗黒大陸じゃがたら名義)」の影響だなと自分で感じています。

5.  楽曲解説③ Kirimomi Skull XXXX,秋

Kirimomi Skull XXXX,秋
インスパイア: Stalaggh、ドラゴンボールZ
Stalagghみたいな曲が作りたくて…(以下略)です。
こんなのばかりで申し訳ありません…

曲名の由来が何となく恥ずかしくて、説明しようかずっと迷っていたのですが、これは「ドラゴンボールZ」の名曲「CHA-LA-HEAD-CHARA」の2番の歌詞です。
"空を急降下ジェットコースター
落ちて行くよパニックの園へ
景色逆さになると愉快さ
山さえお尻に見える"
急にメンタルが落ち込んだときの心境を綴った歌詞ですが、私はこの歌詞を見て
「自分が急降下してお尻に見える山の谷間に突っ込んでいくということは、物凄い勢いでお尻の穴に頭を突っ込んでいることになるのではないか?」
と思い、「きりもみスカルXXXX」という終わっているタイトルが思いつきました。
これだけだとなんか下品なので、風流に季節の単語でも足して誤魔化そうと考え、歌詞を書いた時の季節である「秋」をプラスしました。

一昨年の秋、この「5, 7, 5」の歌詞を絞り出して書いたとき「絶対にこの歌詞に見合う曲を作らなければならない」という使命感に駆られました。
昔いたような、いかにもアンダーグラウンドなところからだいぶ離れてきている自分ですが、まだこんな言葉が出てくることに本気で感動したのです。
しかし、色々と個人的なストーリーが背景にあるとはいえ、表面上は下劣すぎるので、歌詞はブックレットにも載せていません。
どうしても気になる方は上記のBandcampのページから「Lyrics」を確認してください。

ボーカルは、ほとんどStalagghに近い叫びばかりを録音しました。
Stalagghはオランダのブラックメタルプロジェクトで、アルバム「Projekt Misanthropia」制作時の「精神病患者を長時間教会で叫ばせた」という逸話が知られています。
ただし、意外と曲構成を上手く作っているStalagghとは異なり、本曲「Kirimomi Skull XXXX」はハーシュノイズで駆け抜けました。
作ってから気づきましたが、こんなにハーシュな曲を作ったのは初めてです。

6.  補足: 各曲の音の作り方 (プレイヤー用)

ピンクの落書きみたいなやつは、100均ブランクパネルです。iPhoneの保護フィルムの粘着する方を剥がして、余ったタダのプラスチックに色を塗りました。

ここから先は、(主にモジュラー)プレイヤー用に音作りの解説をします。
(興味がない方は読み飛ばしていただいてもかまいません)

Track 1 - 無詩快楽 (Music Error)
ディストーションギターのような音はSynthrotekのMST VCOのノコギリ波をベースに、わが愛しのブランド・Snazzy FXのEternal Spring Filter (ディストーション/フィルター)、Bizarie JezabelのChroe Stereo (真空管入りのディストーション/フィルター/ディレイ)をうまく組み合わせて、最終的にはDAW (Cubase)のAmp Simulatorを掛けています。
Amp Simulatorはギター用なので、シンセの音次第では上手くエフェクトがかかってくれなかったりします。
しかし調整すればなんとかなります。

Track 2 - I love you
メタルパーカッションのようなキックは、Noise EngineeringのLoquelic IteritasとSnazzy FXのDreamboatのオシレーター2つをフィードバックさせた音がベースです。
その上で、VCAのEXPOとLoquelicのピッチにDecayの信号をぶち込んだあと、卓上ミキサー(Bluebox)のEQをコネコネして作りました。

上記の解説にて「キックは裏拍」と書いていますが、正確な裏拍ではなく、Hikari InstrumentsのEucrythmでクロックを遅れさせて、ほぼ裏拍になるようスライドを調節しています。
その結果、少しズレた裏拍となり、ロックっぽいグルーヴが生まれました。

また、ノイズソロの音作りはTrack 1のギターのような音とほぼ一緒です。

Track 3 - Kirimomi Skull XXXX,秋
メッチャクチャに録音したので、何も覚えていません…
というか音作りの面で特別なことをした箇所はないかと思います。
2回多重録音しており、計20分も全力で叫んだのがキツかったです。

おわりに

セルフライナーノーツは以上になります。
長々と書きましたが、兎にも角にも、皆さまに少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
支えてくださる皆さまのおかげで活動が続けられております。
今回、ほぼ全ての制作工程を1人で行いましたが、1人になればなるほど、皆さまの大切さが身に沁みます。
いつも本当にありがとうございます。
大変に月並みな言葉ではありますが、照らしてくださる皆さまが光源であるとしたら、私は月並みで居ることをうれしく思います。

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