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あみあげミトン🧤出演者インタビュー(常岡あさえ)

気軽にきさくに演劇をたのしむためのお気楽企画「あみあげミトン」。今回は、長期間「完全に演劇から離れていた」という一人の出演者が、もう一度演劇に飛び込むまでの道のりを、発起人である「あげ」と「まこ」の二人で掘り下げてみました。


―簡単な自己紹介をお願いします

あさえ 常岡(つねおか)あさえです。職業は新聞記者で、おもに刑事事件を担当してきました。現在は病気の治療のために休職中ですが、復帰を目指しています。


手術直前の誘い、「とりあえずやるって言っとけ」 

―どうして企画に参加することに?

あげ まず、私から話しますね。
 もともと、阿南くんが書いてくれた脚本が2作品、手元にありました。ただ、一緒に企画を立ち上げたまこと私は、すぐに予定を埋めてしまう人なので、なかなか本番のスケジュールが立てられず…。
 そんな矢先、あさえちゃんと観劇に行く機会がありました。その時に一緒にお茶して、企画の話をしたんだよね。

あさえ そうだった、ちょうど私の手術の一週間前、昨年11月のことでした。


2023年11月、名古屋駅にて。

あげ たしか…結婚式の話をしなかったっけ。

あさえ ああ、したした!
私、この1月に自分の挙式を予定していたんですけど、病気の手術を受けないといけない状況だったので、キャンセルしちゃったんです。

あげ その話を聞いて、「結婚式の代わりにパーティだとかのイベントを企画するのも楽しいよね」という話になり、演劇の企画の話になり。  
 阿南くんが手を加えた本がちょうど送られてきていたので、「一緒に読んでくれない?」と言って。

あげ すぐにカラオケに移動して読み合わせをすると、あさえちゃんが「おもしろ~い」と言ったので、「やる?」と誘ってみました。
 手術を控えていたのを知っていたので、励みにしてほしいな、という思いもあったんだよね。

あさえ そうだったんだ。
 実際、手術の後の予定は真っ白だったので、誘ってもらえたことがすごく力になりました。「この状況の私を誘ってくれるんだ」と驚きもありましたが(笑)、企画自体、具体的なことが決まっていなかったので、「いいや、とりあえずやるって言っとけ」っていう感じで、お答えしました。

あげ 彼女の手術日から起算して、術後すぐは難しいな…とか、公演時期の目安を立てやすかったのが逆に助かりました。
 あと、やるかどうかは本を読んでから判断してほしいという思いがあったので、読んでから参加を決めてもらいました。…まこ以外はね(笑)。
 演劇が好きなあさえちゃんを誘えてよかった。


「また共演したいね」

ーそもそも、お二人の関係は

あげ あさえちゃんが大学2年生、私が4年生のとき、劇団「しあわせ学級崩壊」の第3回公演『CR ともだちこれくしょん』に出演しました。まだ劇団員になる前のことです。
 「いろんな大学の演劇で活躍している学生を集める」という意図のあったキャスティングの公演でした。だから、お互い大学は違うんだけど、共演に至ったっていう。さらに、「二人で同じ役を、別の世界線で演じる」という形だったので、セリフまで同じだったんです。共演はその一回でしたが、そこで濃い接点が生まれたと思っています。


2016年夏、劇団「しあわせ学級崩壊」で初共演した二人


あさえ あげちゃんの第一印象をよく覚えています…あの、「愛想笑いしない人」でした。自分はへらへら笑っちゃうほうだけど、あげちゃんは全然笑い返してくれなかった。

あげ それは間違った印象だなあ(笑)

あさえ そうね、初対面のほんの一瞬だけだったかもね(笑)。
 でもそれだけではなくて。あげちゃんは「演劇を教えてくれた人」です。
 それまで演劇って、「それぞれが得意なことを持ち寄って、披露する場」くらいにしか思っていなかったんです。そんな私にあげちゃんは、「作品を作っていくことが演劇なんだよ」と体で教えてくれました。

2016年、小屋入り中のあげ

あさえ 自分はその現場ではずっと、ひとりだけ場違いだなあと感じていました。ほかの出演者はみんな稽古が始まると、頭がおかしいのかと思うくらい役にスイッチする人たちだったので。
 あげちゃんはその典型で、職人さんみたいだった。だから、隙がない人だなと。今は柔らかくなったけれどね。

あげ 当時は、「面白い演劇をやらないといけない」と思いこんでいたから、そう映ったのかもしれないね。

あげ あさえちゃんは…ぺったりと耳に入りやすい声、ぽたぽたと耳に落ちてくる発話が、当時からすごくいいなと思っていました。考え方や本の読み方を聞いていても楽しい人で、数少ない演劇の「友達」だと思っています。
もっと共演したかったけれどそれ以降は機会がなくて。私は就職後、名古屋に行ってしまったし、あさえちゃんも演劇から離れていたし。

あさえ そうだね。私は大学卒業と同時に演劇から離れたので。
ただ、あげちゃんと「また共演したいね」という言葉を交わした記憶は残っています。


2016年夏、稽古中、共演者の演技にツボるあさえ

やりたいことを封印する理由は、ない。

ーそれまでは演劇とどう付き合ってきたのでしょうか

あさえ 大学入学と同時にスポーツをやめて、ミュージカルのサークルに入りました。演じることには小さい頃からずっと興味があったと思います。

あさえ ただそのサークルでは、歌に比べて演技が軽視されているなと感じて。公演本番を迎える前にやめてしまいました。
 その後、大学内で行われた演劇のワークショップに参加して、のちに所属する劇団の同期に出会い、見学に連れて行かれた流れで入団しました。それが大学1年の最後のこと。そこからは3年間、毎月公演に出るような感じでした。

あげ うおお、頑張ったねえ。

あさえ いつも苦しいしすごく悩むんだけど。

あげ 苦しいのは、どうしてだろう。
私自身は、演出家がいる稽古場が苦しいんだと気づきました。演出が求める理想像に対して、うまくアウトプットが出ない時に、苦しい。いままで一度も、本番が苦しいと思ったことはないけど、稽古は未完成の場だから。

あさえ 「演出家が絶対」という感覚は私も同じかな。
 ある時、複数の公演の稽古が被ったときに、それぞれの現場で演出家にダメ出しをされまくったことがありました。場数だけむやみに踏んで、自分の中には何も積みあがっていなかったんだな、現場を消費していただけなんだなと気づいて、当時はかなり長い期間、悩みました。

あさえ 行き詰まってしまったので、いっそ場所を変えてみようと思って、一人のおっちゃん役者がやっているコント塾に通い始めたんです。そこで演劇の楽しさを思い出して、卒業まで楽しく演劇を続けられました。

あさえ 就職後は、いつ呼び出されるかわからない仕事なので、とても本番は入れられないと思い、完全に演劇から離れていました。
 でも、それだけじゃない気もします。ぽーんとどこかへ飛び込んで、いきなり演劇をする力は自分にはないと思っていました。

あさえ ちょうど1年ほど前に、持病が悪化していたことがわかりました。肝臓と肺・心臓の難病で、医師には「あと5年生きられるかわからない」と言われました。

あさえ 仕事にもストップがかかり、自分の時間の過ごし方について考えている間に、「やりたいことを封印したり、後回しにすべき理由はないのでは」と発想の転換があって。それまで離れていた演劇を、見に行くことから始めました。
 そこで幕が上がる瞬間の高揚感とか…自分が知っていた大好きな感覚を思い出して。気づいたら、「またいつか必ずやろう」という気持ちになっていました。

あさえ だからこの企画が、本当に治療の糧になっていたんです。
 昨年11月に、病気の進行を食い止めるための大きな手術を受けました。目を覚ました集中治療室(ICU)で、体が痛くて辛い中、まず思ったのが「演劇できるくらい体が自由になりたい」ということでした。

ーなんだか、ひと救ってますね、あげちゃん。

あげ …(笑)。なら最後までやりきらないとね。
 私としては、体が不自由な人でもできるくらい演劇のハードルを下げたいと思っています。そういう企画を考えられたらいいな。

『FOXY』の稽古をする二人

「気軽に演劇する」、その意味は…

―あみあげミトンという場所では、演劇とどう付き合っていきたいですか

あさえ 実は、「気軽に演劇する」という言葉を、まだ咀嚼できていないんだけど…。

あげ そうだねえ…
 こうあるべき、これをしなきゃいけないという前提、演劇をやるために最低限必要だと思われていることを、すべて取っ払いたいんです。

あげ オープニングの出演者募集で、「当日バックレる可能性があります」と書いてきた人がいたんだけど、それくらい気楽にしてほしいと思っていてね。
もちろん作品作りは真剣にやるけど、それはお客さんを満足させるためではなく、私たちが楽しく演劇をするための真剣さ。あくまで自分たちが楽しく演劇をやって、それをおすそ分けするための公演だと思っています。

あげ お客さんは、こういう企画の趣旨を踏まえて、来る・来てくれないを決めてくれる。そういうコンセプトだと伝えていれば、「作品の質で満足させてくれ」というモチベーションのお客さんは来ないと思っているし。
あとは、演劇にハードルを感じている人が、やっている姿をみて、いいなと思ってくれる人がいたらいいかな。

『FOXY』の通し稽古後、脚本について話すあげ

あさえ うん…。「抱える荷物を減らしていく」っていうイメージはつきました。あげちゃんほど振り切れてはいないけど。
 だってやっぱり、見終わった後に価値がなかったとは思われたくない。人にお金を払わせることへのハードルって、すごく高いと思うから。

あげ 来るか来ないかはその人が決めることで、来るって選択した時点で、楽しみに対して提示した対価を払えると思った、ってことなんじゃないのかな。
 期待に沿う作品かどうかは、コンセプトの情報発信で判断してほしいと思っています。もちろん、観に来てくれたら面白かった、面白くなかったも自由に言ってもらっていいけどね。

―最後に少しだけ、二人の作品について教えてください

あさえ えーと、女二人でやる醍醐味が、凝縮されている気がします。

あげ あ、言われてみればそんな気も…?(笑)
 私は、「この作品をいかに気軽にやるようにするか」ということが求められていると思います。阿南くんはもともと小説畑の作家さんなので。舞台でのやりやすさをどう作っていくかだと思います。


『FOXY』稽古後、感想をいうあさえ

(インタビュー まこ)

公演詳細はこちら

あみあげミトン
『FORWARD 二人芝居短編集』

人間関係は前にしか進まない。好むと好まざるとに関わらず。

企画 林揚羽
脚本 阿南 改時期

2024年 <全6ステージ>
4月20日(土) 13:00/16:00-/19:00
4月21日(日) 11:00/14:00-/17:00
※上演時間は60分
※受付開始・開場時間は15分

青山展示室246
渋谷駅・表参道駅より徒歩10分
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-14-13 岡崎ビル2F

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