手足に車輪を付けて日本を走ろう
「やはりワシの手足に車輪を付け、乗り物にして化石燃料の消費を抑えよう。もはやそれしか方法はない。それに昨今の車メーカーの体たらくには付き合っていられん」
「しかし博士を車に作り替えたとしてもいくつかの致命的な欠陥は残ります」
「なんと……」
「わかりやすいものとしては、博士の手足は走行の際の疲労蓄積に耐えられないという点」
「うっ」
「さらに、博士そのものを車に作り替えることにより、衣服を着られなくなります。これにより常に公安組織からマークされることになります」
「ううっ」
「そのうえ、博士の言う『車のアース』、つまり股間から垂らした陰茎については、走っているうちに路面との摩擦によって発火を引き起こす可能性もあります。また保安用品の搭載――ホーンやミラーの装着に関しても解決していません」
「うううっ」
「しかも基本的に博士は生身のため、空冷方式によって冷却するしかありません。真夏の炎天下においては熱中症になる危険性すらあります。それに……」
「もういい、やめてくれ!」
「博士……」
「確かに君の言うことにも一理ある」
「一理というより、かなりの点を突っ込みましたよ」
「うるさい」
「――やはり今のうちに計画を中止しましょう。それしかありません」
「それは無理な話さ。もう警察にも国交省にも申請してしまっている。広告屋にも大金を払った。大見得を切って東京モーターショーに計画案としてワシの裸体を出展してからはや三年。今更この計画から手を引こうものなら政府関係者からの信頼を失い、マスコミは事細かにワシを叩きまくるに決まっておる」
「何か他に手はありませんか?私と博士ならきっと解決する奥の手を見つけられますよ!」
「とはいえ、あらゆる方法を試して今に至る訳なのは君も分かっていように……これは砂?」
「ああ、それは私の持ってきた湘南の浜の砂になります。暑中見舞いの贈り物を買う金をケチってその辺にある砂を袋に詰めて博士や他の先生たちに、さも記念品のような風に送ったもの……それに何か?」
「これは使える!アスファルト路面は無理としても、砂浜や雪の上なら走れる!」
「!――確かに比較的柔らかい路面なら博士の手足は耐えられます。しかし博士の裸体に関しては……」
「その通り。法の要請より赤裸は無理なことに変わりはない。しかし、マンキニという夏の装いならそれを解決する。これは極めて裸体に近い布面積しかない男の衣服、過去にいた着用者は通報されても日本の警察はこれの逮捕に踏み切れなかった、つまり公安のお墨付きもあるということさ!」
「……ホーンについては博士の声帯に埋め込みます、ミラーは耳の穴に突き刺しましょう!」
「ああ!」
「この際、夏の暑さや冬の寒さについては気合を入れてメチャクチャ耐えることにしましょう!」
「良し!」
「陰茎は」
「切ろう!」
「博士!」
「さっそく、走行試験をしに酒匂の砂浜へ行こう!」
「車輪は付けた、こちらはいつスタートしてもいい」
「分かりました、発進!」
(――車体をうまくコントロールさせられない、それに止まれない?!)
「何ということ!確かに運転手のいない博士カーは己を乗りこなす方法を持たない、進むも止まるも不可能な代物……こんな明らかな点を見落としていたなんて!」
そのまま博士は波間に消えていった。
完
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