「法律なんでも1000」No.041 段取り人生2
これは、神田英明氏が発行するニュースレター「法律なんでも1000」のバックナンバーです。
ーーーーーーーーーーーーーー
ゼミの教え子同士が結婚し、本日結婚式と披露宴に参列してきました。複数の挨拶や余興や食事など、粛々と進行して素晴らしいセレモニーでした。
式や披露宴は分単位で進行します。挨拶、スピーチ、飲食、余興その他すべて段取りが物を言います。
段取りをするということは、予想できる出来事を事前に想定して計画を立てる作業に加えて、予期せぬ事態になったときの対処も事前にある程度決めておく作業を必然的に伴います。つまり、「イメージング」と「健全な危機感」という2つの視点が大切です。
人生においても、考えられる事態やアクシデントも織り込んで、事前にしっかりと段取りをしておけば、充実したものとなる確率が格段に上がるでしょう。
一、相続の段取り
相続や家族信託に関する段取りとして、次の9つのケースを考えてみましょう。
ケース1
均等に遺産分割するということで、親子で話がまとまっていたのに、いざ親が亡くなったら、色々な話が持ち出されて揉めてしまいうまく手続きが進まないということもよくあることです。
ケース2
遺産分割協議が整ったとしても、預金の解約や相続登記の手続きの際は、親が生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍の提出が求められます。遠方や移籍回数が多いケースでは戸籍情報の取得だけでも大変です。
これらケース1と2は、遺言を書くという段取りをしておけば回避できた事柄です。
ケース3
おひとり様が法定相続人なしで死亡する場合は、遺産は国庫に帰属することになります。自分の財産を最後まで自律的に使いたい方は、公益性の高い団体や世話になった方に遺贈する段取りをつけておくと、希望が叶います。
ケース4
子がいない夫婦の場合は、疎遠な甥姪に遺産の一部がいくことになりかねません。配偶者に全財産を相続させたい場合は、必ず遺言を残しましょう。
ケース5
自宅売却の所得税に関する事例です。一人残された親が高齢者施設に移ることで空き家になるマンションを売却する方針で家族全員の話が付いていたのに、売却しない内に親が亡くなってしまいました。その為、3000万円の自宅売却の特別控除が受けられず、600万円ほど所得税が高くなってしまうケースが現実に起こり得ます(因みに、3000万円の相続空き家の特別控除は、マンションや昭和56年5月31日以降の戸建てには適用されません)。自宅と評価される間に売却しておく段取りが必要です。
ケース6
相続税に関して、一人残された親の死亡前に、今まで賃貸生活をしていた子がローンを組んでマイホームを購入してしまったために、小規模宅地等の特例を受けられずに、相続税が数百から数千万円規模で跳ね上がってしまうことも実際に起こり得ます。相続間際の住宅取得には注意が必要です。
ケース7
同じく相続税に関してです。両親のうち一人が亡くなり残された親がそのまま自宅に住み続けるケースにおいて、相続の基礎控除を超えるケースのため本来10ヶ月以内に申告する必要があったのに、それをしなかったがために、小規模宅地等の特例を受けられずに、相続税が同じく数百から数千万円規模で跳ね上がってしまうケースも起こり得ます。相続税が絡む場合に安易な自己判断は危険です。
ケース8
母が自分の葬儀代として、500万円の貯金通帳を遺したとしても、銀行が母の死亡を知ったのであれば、その貯金はすぐには下ろせません。知られなくても1日の利用限度額(例えばATM引落50万円)という問題もあります。
ケース9
自分達の高齢者施設の入居資金に使うための貯金や不動産があっても、安心できません。認知症が進行したら、自分の貯金や不動産であっても簡単には使えません。親が自分のために残した貯金を自由に使えなければ、そのしわ寄せは子供に行ってしまいます。心身ともに元気なうちに弁護士等と相談のうえ、親子間で家族信託契約を結んで、段取りをしておくことが重要です。
ケース8,9は、段取りをしたものの十分でなかった場合です。あたかも非常用の缶詰は用意したけれど、缶切りが無かったようなものです。専門家と相談しながら、上手く段取りをされて下さい。
二、「終活」の段取り
「終活」における段取りも重要です。心身共に元気で思考力が健全なうちに段取りを着けておきましょう。
とある団体が「終活で親にしておいて欲しかったこと」というアンケート調査を実施したところ、以下の回答が寄せられたそうです。
・相続財産の一覧を書いておいて欲しかった
・大切な書類とデータを一か所にまとめておいて欲しかった
・不要な口座や契約などは解約しておいて欲しかった
・葬儀参列者の一覧を書いておいて欲しかった
・墓じまいをしておいて欲しかった など。
これらの情報に、段取り上手になるためのヒントがたくさん隠されています。
もし、おひとり様であれば、死後のさまざまな手続きを請け負う団体と生前に契約を結んでおきましょう。葬儀や納骨、財産の処理、遺品整理などを任せることができます。
三、「葬儀」の段取り
生前に葬儀社に連絡することが、タブーと感じる方も多いでしょう。しかし、死の悲しみと慌ただしさの中で、葬儀社のペースで、物事が決められていくことは避けるべきです。事前に葬儀屋と見積書を取り交わすことまでしておくことがベストです。そうすれば、亡くなった後、落ち着いて思い通りの段取りで故人を送ることができます。
同じく、遺影を遺すなら、自分で好きな写真を選んでおきましょう。なお、遺影を遺さない方針を選択して記しておくのも立派な段取りです。
四、結び
病気や死に備えた段取りも、もちろん重要ですが、これは前号で書いたシニアからの仕事や趣味や居住地選択などの段取りとは違い、性質上楽しくはありません。そこで、プラス要素も入れて、ワクワクして楽しい作業とするのは如何でしょうか。コツは、サプライズと遊び心を忍ばせる事です。
例えば、遺影の撮影をプロに任せましょう。カメラマンだけではありません。スタイリングとメイクもプロに頼み、女優気分で美しい写真を準備するのです。結婚式の写真はせいぜい一年モノですが、遺影は一生モノ(?)です。
また、遺言書にユーモアのある楽しい言葉を添えるのはどうでしょう。それを読んだ家族が泣き笑いするのを想像するだけでワクワクします。
以上色々と述べましたが、これらをヒントにあなた独自のアレンジを加え、今まで以上に段取り上手になられて、自律的かつ素敵な人生をお過ごしください。
ニュースレター「なんでも1000」の登録・解除はこちら↓
https://t.bme.jp/bm/p/f/tf.php?id=nandemo
神田英明(民法学者・東京弁護士会弁護士)
ーーー
神田英明氏のプロフィール
民法学者(明治大学)、弁護士(東京弁護士会)、法曹教育の第一人者(司法試験首席合格、20歳合格者を輩出)。教え子弁護士が全国各地に100人。
自身の海外経験をもとに、遺産相続に関するミュンヘン講演(在ミュンヘン日本国総領事館後援)や「親が認知症になる前にすべきこと」のフランクフルト講演、「脳が喜ぶ勉強法」という教育に関するデュッセルドルフ講演、さらには国をまたいだ往来が気軽にできなくなった状況をふまえ、世界規模でのzoom講演(「日本にいる老親のためにすべきこと」など)を開催中。
ーーー
お問合せ:AMF2020 amfofficialinfo@gmail.com